憧れの人
新しい課長がやって来た。それもイケメンで仕事のできる若手社員。
さらに。何の因果か、俺の大学のOBな上に学部まで同じだったということが判明。おかげでお互いに親近感がわき、課長と仲良くなるのはすぐだった。
「うちの学部って、変わり者の教授が多いよね。俺も教授にはかなり悩まされたよー。阪本くんはどこのゼミだったの?」
「安西ゼミです。小柄で髪の薄いおじさんって感じの」
「あー!俺もあの教授の講義とってたことあるけど、かなりわがままな人だよね。当日になって、気分が乗らないから休講にしたり」
「そうなんですよ。俺も“最終面接とゼミがかぶった?そんなの、ゼミ優先に決まってるでしょ”とか言われて…。最終面接だから日程変更もできないのに」
「えっ、それどうしたの?」
「第1志望だったんで、ゼミは欠席して面接行きました。あとで一応、反省文は出したんですけどね。そのあとしばらくは無視されました」
「あはははっ、そっかー。それは災難だったね。ちなみに、それはこの会社?」
「はい!ここの企画部に入るのが夢でした」
「そうなんだね。うちの会社にはけっこうOBやOGがいるからなあ。でも未だに学内推薦枠がないのが謎だよね」
なーんて、内輪ネタで盛り上がることもしばしば。俺は入社して2年目で、目標にしたい先輩にようやく巡りあうことができたのだった。
…けれど、ただ単純に尊敬のまなざしだけを向けられたわけではない。
確証はないけど、ある時からなんとなく…課長と皿池のまとっている空気感が変わった気がした。最初は必要最低限の会話しかしなかった2人が、いつのまにかよく話すようになったんだ。
「えー、それほんとですか?」
「あはは、ほんとだって。この前テレビでやってたし」
朝に出勤すると、課長と皿池が2人で話している光景もよく見かけるようになった。皿池はたいてい1番に出社して、デスクまわりの整頓やオフィスの掃除をしているんだけど、最近は課長までもが早くに出社するようになっていた。
「あっ!阪本くん、おはよう」
俺に気づいた皿池が声をかけてくる。課長も笑顔だけど、きっと俺、邪魔だったんだろうな。
でも、皿池がどことなく、ほっとしたような顔をしてるのだけが救いかな…。ひょっとしたら、俺の男としての願望がそう見えさせてるだけかもしれない。
まあ、皿池が困るようなことをしたら…課長といえども俺が黙っちゃいないんだけどさ。
課長にそんな牽制かましてるなんておくびにも出さず、俺は皿池に笑顔で挨拶を返すのだった。




