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終わらない物語  作者: 華百合
5/10

憧れの人

 新しい課長がやって来た。それもイケメンで仕事のできる若手社員。

さらに。何の因果か、俺の大学のOBな上に学部まで同じだったということが判明。おかげでお互いに親近感がわき、課長と仲良くなるのはすぐだった。

 

 「うちの学部って、変わり者の教授が多いよね。俺も教授にはかなり悩まされたよー。阪本くんはどこのゼミだったの?」

「安西ゼミです。小柄で髪の薄いおじさんって感じの」

「あー!俺もあの教授の講義とってたことあるけど、かなりわがままな人だよね。当日になって、気分が乗らないから休講にしたり」

「そうなんですよ。俺も“最終面接とゼミがかぶった?そんなの、ゼミ優先に決まってるでしょ”とか言われて…。最終面接だから日程変更もできないのに」

「えっ、それどうしたの?」

「第1志望だったんで、ゼミは欠席して面接行きました。あとで一応、反省文は出したんですけどね。そのあとしばらくは無視されました」

「あはははっ、そっかー。それは災難だったね。ちなみに、それはこの会社?」

「はい!ここの企画部に入るのが夢でした」

「そうなんだね。うちの会社にはけっこうOBやOGがいるからなあ。でも未だに学内推薦枠がないのが謎だよね」

 なーんて、内輪ネタで盛り上がることもしばしば。俺は入社して2年目で、目標にしたい先輩にようやく巡りあうことができたのだった。


 …けれど、ただ単純に尊敬のまなざしだけを向けられたわけではない。

確証はないけど、ある時からなんとなく…課長と皿池のまとっている空気感が変わった気がした。最初は必要最低限の会話しかしなかった2人が、いつのまにかよく話すようになったんだ。

 「えー、それほんとですか?」

「あはは、ほんとだって。この前テレビでやってたし」

朝に出勤すると、課長と皿池が2人で話している光景もよく見かけるようになった。皿池はたいてい1番に出社して、デスクまわりの整頓やオフィスの掃除をしているんだけど、最近は課長までもが早くに出社するようになっていた。

「あっ!阪本くん、おはよう」

俺に気づいた皿池が声をかけてくる。課長も笑顔だけど、きっと俺、邪魔だったんだろうな。

でも、皿池がどことなく、ほっとしたような顔をしてるのだけが救いかな…。ひょっとしたら、俺の男としての願望がそう見えさせてるだけかもしれない。

まあ、皿池が困るようなことをしたら…課長といえども俺が黙っちゃいないんだけどさ。

課長にそんな牽制かましてるなんておくびにも出さず、俺は皿池に笑顔で挨拶を返すのだった。

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