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終わらない物語  作者: 華百合
3/10

モヤモヤした気持ち

 研修で仲良くなったあと、偶然同じ部署に配属されたということもあって、俺たちの仲は急接近した。けれど、それは男女としてではなくて、本当に友達としての間柄。俺には彼女がいたし、皿池を女性として意識したことはなかった。俺たちが噂されたこともあったけど、2人とも全否定したぐらいだし。

――そう、あのときまでは。


 「皿池と長野って、つきあってんのかな?」

入社1年目の秋ぐらいに、そんな噂が立ったことがあった。俺が初めて耳にしたのは、たしか同期の松本から聞いたとき。

長野は同期で営業部にいる、特別イケメンっていうわけでもない(と俺は思ってる)けど、明るくおっとりした性格のなかなかいいやつだ。

そんな長野と皿池なら、たしかに似合うかも…。

「さあ…。どうだろ」

「おまえ、皿池と同じ部署だし、仲いいじゃん。なんか聞いたことないの?」

松本は缶コーヒーを煽りながら言った。喉仏が大きく波打つ。

「ないよ。俺ら、恋バナなんてしないもん」

「じゃあ、今度聞いといてくれない?」

「え、なんで?」

「………」

缶を握りしめたまま、突然黙り込んだ松本を不思議に思って、顔を覗き込むと…、ほんのりと赤くなっていた。そして、俺は気づく。

松本は、皿池のことが好きなんだ。

「わかった。今度聞いとくよ」

そう言ったものの、俺は心のどこかに引っかかるものを感じていた。


 皿池は先輩と一緒に外出中で、今日は遅くまで戻ってこない。また今度だな…、と思いながら退社しようとしていたら、偶然エントランスで皿池を見かけた。

外はどしゃ降りで、彼女はどうやら駅から走ってきたらしく、全身びしょびしょになってしまっている。

今日はタオル持ってるし貸してやろうかなと思って、声をかけようとしたら…

「皿池!」

俺の後ろから誰かが走ってきて、すごい勢いで通り過ぎた。…あれは長野だ。

その背中を目で追うと、もちろん皿池のもとへ走っていく。

「こんなに濡れて…。風邪ひくぞ!」

「わっ!あはは、髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃうよー」

長野がハンカチで皿池をごしごしと拭いていて、皿池は少しも嫌がる様子を見せない。それどころか、すごくいい雰囲気の2人…。

そうか、やっぱりそうなんだ。

俺はそこへ入っていくような無粋な真似をせず、裏口から会社を出た。

なんだか、雨に濡れたい気分。スーツを新調したばかりなのも気にせず、俺はどしゃ降りの中を1人歩いて帰った。

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