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終わらない物語  作者: 華百合
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はじまり

 俺と皿池が出会ったのは、たしか新入社員研修の3日目。ビジネスマナー研修のときだったと思う。

その研修は挨拶から始まり、名刺交換や電話応対まで、社会人として最低限必要なマナーを学ぶというプログラム。名前の50音順で前からペアを組んでいって、前後だった俺と皿池が偶然一緒になった。

「よろしくお願いします!」

正直かったるい研修なのに、元気な彼女がまぶしかった。


 可愛い子がいるなーとは思っていたけど、皿池とはそれまで全く話したことがなかった。そのころ、およそ50人の同期の間では男子だけ、女子だけ、そして混合という3つのカタマリが形成されつつあった。皿池はどちらかというと混合グループと仲が良かったみたいだけど、俺は専ら男子だけでかたまっていた。彼女がいるということもあって、積極的に女子と仲良くなる気にはなれなかったのだ。

 「あ!それって、EASTのライブグッズだよね?」

研修の休憩時間、俺が取り出した携帯についているストラップを見て、皿池が興奮したように言った。

EASTとは海外のロックバンドで、日本では今でもあまり知られていない。

「そうだけど、EAST好きなの?」

「うん!3年ぐらい前に初めて曲を聴いてからファンになったの。いつか日本公演してくれないかなー」

「限定販売のDVD持ってるけど、よかったら今度貸そうか?」

「え、いいの!?嬉しい!」

偶然見つけた、俺と彼女の意外な共通点。その話題から派生して、俺たちはいろんな話をした。

そして、その日の研修を終えるころには、なんだか昔から友達だったような錯覚に陥るほど仲良くなっていた。

それくらい人を惹きつける何かが、彼女にはあった。


 2週間にもわたる、合宿型の新入社員研修の最終日。翌週からの仮配属が発表されるときがきた。

俺の第1志望は、企画部1課。企画部に入るために、この会社に入ったようなものだ。

順番に辞令が手渡されていき、ついに俺の手元にも1枚の紙が。

恐る恐る開き…、濃く印字された『企画部』の文字を見たとき、俺は全身の力が抜けていくのを感じた。

「ねえ、阪本くんどこだった?」

隣にいた皿池が、嬉しそうに話しかけてくる。ほんの数日前に希望の配属先について話したばかりだったから、その表情の理由が俺にはすぐわかった。

「せーの、で見せる?」

「いいよ。…せーの!」

2人がお互いに示した紙には、同じ『企画部』の文字。

彼女はにっこりと笑って、俺に右手を差し出した。この自然で美しい所作は、マナー研修だけで習得できるものではない。

「これから、よろしくね!」

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