9追いかけっこ
雲はすぐ側まで来ると、止まった。
じーーーーっと雲を眺めていたら、ヒョイっと私の頭上に移動しショボショボ雨が降りだした。
「ギャー!」
本が濡れる!!!
素早く逃げると、また雲は止まり、しばらくした後素早い動きでまた私の頭上に動き
ショボショボとか細い雨を降らした。
今度は立ち上がって逃げると、後を追いかけてくる。
逃げると、後追いするようについてくる。
で、チョロチョロ雨を降らし、濡らしてやるぞアピールをしている。
あまりスピードが早くないので逃げるのは然程辛いわけではない。
追いかけてくる雲を振り返りながら見ると、雲の中に何やらもぞもぞ動くものが有る。
追いかけられてばかり居るのも癪だ。
くるりと振り返り、こっちが向かって行くと一瞬戸惑うような動きの後
ちんたら雲が逃げ出した。
様子を見ながら追いかけると、雲の中から小さな子供の
「キャー!」
という楽しそうな声も聞こえてくるではないか。
これは、虎のパンツをはいている方のちびっ子バージョンか??
しばらく鬼ごっこを続ける。こっちがわざとギリギリ追いつかないよう調整してるとちょっと油断して更にノロノロスピードになった。
ゆっくり近づいて、急にしゃがんでみる。
雲は「あれ?」とでも言うようにクルクルしている。
そーーーーっと下まで近づき、その小さな雲の中に手を突っ込んでみると、何か温かい塊があった。
むんずと掴んで引っ張りだしてみた。
角はなかった。虎のパンツも履いていないし、背中に背負ってるものもなかった。
でもでも、淡い茶色のくるんとした巻き毛に大きな真っ黒な目、紺色の甚平の様な服を着てムッチムチの手足の4,5歳の男の子がびっくりした顔でこっちを見ていた。
にぱーーーと全開の笑顔で笑っている。
「こらー!」と怒ってみたが、あんまり可愛くて迫力に欠けてるなぁ。
男の子は「てへへ」って感じでニコニコしている。
言葉通じるのかな?通じてるみたいだな。
「きみ、何てお名前?」
「?・・・ソウタ。」
「そうたくん?」
「うん。」
「何してたの?」
「お姉さんは何てお名前なの?」
「ん?みやまえひかり、宮前光っていうの。」
「ふーん、ぼくねぇお隣のお兄さんにねー、雲借りたの。そしたらブーンって乗ってたらひかりちゃんがいたの。そしたら雨がふったのー。」
雲の持ち主のお兄さんは虎のパンツの方なのかしら。
「えー、見たこと無いからわかんないけど、ふつうだよ。ひかりちゃんと同じ感じの人。」
アレコレ追求したい気もするが、小さい子に問い詰めても満足する回答は出ないだろうな。
「のど乾かない?」
凄い勢いでコクコク首を降る。そんなにしたら首とれちゃうぞ。
かばんを置いてある場所に戻り、フレーバーウォーターしか無いが飲ませてあげた。
ついでにかばんの中のお菓子をあげると、物凄い良い笑顔でお礼を言われた。
「これ、おいしいね、とってもおいしいね、全部食べていいの?ありがと、ひかりちゃん。」
ニコニコごきげんで可愛い子だな。
年齢が5歳な事、おとうさん?が居るらしいこと、お隣のお兄さんはよくごはんをくれるし面倒を見てくれること、きつねのおネイサンが苦手なんだって。?で、おともだちのハナちゃんが好きらしい。お話大好きみたい。ついでに、お菓子くれたひかりちゃんも好きになってくれたみたい。
「もうそろそろ帰らなきゃいけないんだけどさ。」
と言った途端、しゅんと哀しい顔をする。可愛いなー。
「来週の土曜日もここに来る?私はまたココで本読むつもりなんだけど。」
ぱーーーっと嬉しそうな顔をしてソウタくんはニコニコした。
「今日から6回寝て、おきたら・・・かな?」
「お兄さんに雲借りる!で、ひかりちゃんと遊ぶ!!!」
じゃ、約束ね。バイバーイと手を振って彼は雲に乗り彼方へ消えて行った。どういう仕組になっているんだろう。