5 豆登場
あんまびっくりしたので思わず水を手に取って
「ハイッ!」と勢い良く渡した。
彼はものすごい速さでキャップを開け、ゴクゴクと水を吸い込んでいく。
この隙に逃げよう。
面倒事は御免だ。
そろりそろりと彼から遠ざかるが、あっという間に水を飲み干した彼が私の様子に気づく。
一瞬きょとんとした顔だったが、すぐに破顔して駆け寄ってきた。
「ありがとう、本当ありがとう。死ぬかと思ったんだ、喉が渇きすぎて。そうだ、お礼をしないと。」
彼がゴソゴソ服を探っている。
「お礼とかいいですから、お互い様ですし、あはははは。」
何がお互い様何だろうって、心のなかで突っ込みながら彼から遠ざかる。
「そうだ、これをあげよう。」
彼の手の中にあったものは巨大な豆だった。
「いえ、本当にいいんです、自分急いでますんで。」
「これね、植えたらすぐに育つから。適当に水あげるだけであなたが本当に欲しいものが手に入るはず・・・だったかな?」
彼の握りこぶしを軽く上回るくらいの巨大な豆を、私にグイグイ押し付けてくる。
「大金が手に入るんだったかなぁ・・・魔法が使えるようになるんだったかな・・・モテモテになれるんだったか、確か、きっと良いことがあるんだったよ、うん。」
効果が適当すぎるじゃないか。
無理やり私にその豆を押し付けると彼は大きな声で
「じゃねーー、ありがとう!」
と叫びながら来た方向とは逆に走り去っていった。
童話であったよね。金の卵を産むアレとか、巨人とか、アレ?みたいに斧で最期木を切り倒すとか?
何が何やら分からないが、早くばあちゃんの顔が見たくなった。