3資料作成依頼
課長補佐の高橋さんがさすがに抗議してくれた。
「その会議あるの再来週の月曜日じゃないですか?別に明日やる必要もないでしょ。」
「余裕をもって出来たのを、内容チェックしなくちゃならん。」
「いつもだったら、パワーポイントで要所だけ説明してさっさと終わる会議じゃないですか。紙媒体必要としないでしょ。」
「パワーポイント追加な。紙も絶対必要だから作っとけ。絶対だからな。」
もう、諦めて書類作成に必要な事項と、パワーポイント用に必要な資料の指示を貰った。が、咄嗟の思いつきだったらしく根拠があやふやでグダグダだ。これじゃ、出来たものを渡してもギリギリまで作り直しを命令されるだろうな。
補佐の高橋さんはまだ、色々言ってくれているが意固地になってこれ以上言い募っても撤回はないだろう。
「高橋さん、大丈夫です。明日作ります。」
遠くの方で、営業部の女子がこっちのやり取りをヒソヒソしてる。これでまた課長の人望と婚期が遠ざかるんだろうな。
課長は鼻でフフンと笑いながら帰っていった。
明日のお出かけを邪魔して得意げなんだろう。
課長の下で働いていた人は、女性ばかり3人いたが全員逃げ出している。
私の直前に部下だった女性は、23歳で可愛らしい子だったそうだが課長はその子にも結局意地悪ばかりし、周りにはアプローチが激しくて困っていると触れ回っていたらしい。あまりにも課長のパワハラ・セクハラ発言が酷く、大騒ぎになって退職したそうだ。それでお目付け役に付いたのが高橋さんだったらしい。補佐とは言え、何らかの権限も与えられているらしい。今後権限について期待しよう。
高橋さんには再度謝罪されたが、彼が悪い訳じゃない。
明日、出勤して資料作成すること、鍵の使用についての許可、休日出勤の書類を先に印鑑だけ貰って帰宅した。
遊佐くんに電話し、明日行けなくなった事、キャンセル料は払うことを告げた。
「少し、怒ったほうがいいんじゃないの?」
遊佐くんのいる総務でもまた課長が暴君になってるって噂になっているらしい。
正直どうでも良かった。
改めて明日の欠席を謝罪すると彼もそれ以上追求せず話はそこで終わった。
2年前、結婚を約束していた彼と突然別れることになり、その失恋の痛みからまだ立ち直っていない。
課長も自分もどうでも良かった。
どうしたらこの淀んだ痛みから抜け出せるのか未だにわからなかった。
一人の時間になると、延々と泥沼の思考から抜け出せない。
明日の準備をすませ、早めに床についた。