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Absolute Zero  作者: DoubleS
終章
30/30

幸せと楽しさ

「大丈夫なんだろうな。これがぬか喜びになっちまったら自殺しかねないぞ」

 始発電車に乗り込み、霧矢たちは再び病院にやってきた。霧矢と霜華、そして有島は病院の談話コーナーに座っていた。

 結局、昨日は家に泊めた西村の大いびきで霧矢はろくに眠れず、目の下に隈を作ってしまった。文香と連絡を取ったが、晴代の寝起きが悪いらしく、霧矢はやむを得ず、二人を置いてくることにした。そして、西村も連れて行こうと起こそうとしたが、起きない。

 残ったメンバーは、霧矢、霜華、風華、有島、雨野の五人だった。この五人はすべての元凶を解決するために、始発電車に乗り込んで、今に至る。


「大丈夫だよ。契約異能は契約主のもっとも強い願いに応じた能力が発現する。護君の呪いを解きたいという願いに応じて、呪いを解く癒しの風という力が目覚めたんだから」

「つっても、会長の属性は風だろ。風で水の呪いを解けるのか?」

「願いは叶うんだよ。霧君のわからずや」


 雨野と風華は護の病室にいる。結果がどうなるかわからないが、やってみなければわからないのも事実だ。

 成功したのなら喜ばしいことこの上ない。しかし、これで失敗したら雨野はもう立ち上がれないだろう。その時はまた面倒なことになるのは間違いなしだ。

 腕組みしながら顔をしかめていると、霜華が突然驚きの声を上げた。

「何だよ。ここは病院だ。静かにしろ」

 片目だけ開いて霜華の指の先に視線を向けると、霧矢も愕然とした。有島も驚きの表情をしている。


「おや、また会ったね。随分とよく会うものだ」

「な…何で、ここに……」

 天井に頭をぶつけそうなくらい身長の高い男がいた。特注サイズのロングコートを着込み、談話コーナーの低い天井を嫌そうな表情で見ていた。

「エドワード・リースさん、何の用ですか」

 警戒の眼差しを向けている霧矢たちに、エドワードは苦笑した。

「ちょっとしたお詫びに来たんだ。ここに雨野護がいるって話だから、呪いを解きに来たんだが……確か、六二五号室だったと思ったが。では、失礼」

「ちょっと、待って!」

 霜華が、歩き去ろうとするエドワードの腕をつかんだ。奇妙な表情を浮かべて、エドワードは振り返った。

「どうかしたのかい。さっさと解いて、さっさと帰りたいんだ。明後日は君たちも知っての通り、やらなきゃいけないことがあるし」

 億劫な表情で明らかにミスマッチなサイズの椅子に腰を下ろした。彼の長い脚が横方向に伸びている。


「なるほどね。では、僕が出るのはもう少し待った方がいいかな」

 霜華が一通り説明を終えると、笑顔でエドワードは納得した。ポケットから葉巻を取り出し、火をつけようとする。

「ここは病院ですよ。それと火気厳禁ですから」

「こいつは失礼、つい癖でね。これがないとどうも落ち着かない」

 有島が注意すると、エドワードは葉巻をポケットに戻す。霧矢はこの際だから聞けることはすべて聞いておこうと思った。

「エドワードさん。質問があります」

「質問したかったらご自由に。ただすべてに答えられるかというとそうでもない」

 契約主とはまた異なった雰囲気を漂わせている魔族だ。苦手ではないが、侮れない相手だと霧矢は感じた。

「あと、別に敬語を使ってもらう必要はない。エドワードと呼び捨ててもらっても構わないし、エドと呼んでくれてもいい」

 葉巻に手を伸ばそうとしては、戻している。よほどのスモーカーらしい。


「じゃあ、エドワード。今、リリアンはどうしている?」

 ピクリとエドワードが動いた。一瞬ためらったようだが、彼は答える。

「………一応、落ち着いてはいる。だが、まだ本調子じゃない。ただ、殺意は健在だ。明後日に何としてでもやろうとするだろうね」

「あくまでやるつもりですか?」

 有島が尋ねる。エドワードは首を縦に振った。

「これは復讐だが、単純にそうと言い切ることもできないんだ。実はつい数時間前に、僕たちと協力関係にある探偵が、ターゲットの一人、あの教団の関係者が近くまた事件を起こそうとしているという情報をつかんだ」

 あまり大っぴらには言えないんだが、と彼は付け加えた。

「だから、やる前にやってしまおうってことか?」

「……まあ、そういうことだ」

 残念そうにエドワードは結論を言った。霜華はそのことには興味がなく、他の質問をした。

「何で、あなたはリリアンと一緒に行動してるの? リリアンの何に共感したの?」

 霜華の表情は怒りでもなく、興味でもなく、笑いでもなかった。何とも形容しがたい純粋な疑問の表情だった。

「………そうだな……」

 腕を組みながら、昔に思いをはせるような表情をした。

「まあ、敢えて言うなら、彼女の面倒を見るのが楽しいからさ。まあ、ちょうど属性の一致する相手だったってこともあるけど」

 遠くを見るような目でエドワードは話し続ける。

「僕がこっちの世界に来たのは、あの事件の半月くらい後だった。実家の堅苦しさと狭量なところに嫌気がさして、勘当同然の状態でこっちに来た。やけになって危険も顧みず、ただこっちの世界はどんな感じなのか見てみようくらいの気持ちでこっちにきた。その時に偶然彼女と出会った」

 椅子から立ち上がり、窓の方に歩く。

「考えてみれば、真冬であんな場所にいる時点でおかしいと思うべきだったね。もう、死んだような目で何の活力も見いだせないその姿は哀れとしか言いようがなかったね。まあ、家族を全員失ったんだ。わからなくもない」

 あんな衝撃的な出会いは初めてだった、とエドワードは息を吐いた。

「雪山の中で死のうと思っていたらしいね。事実、あと一歩のところで凍死しかけていた。ただ、彼女の話を聞いているうちに力になってやりたいと思っただけのことさ。でも、彼女は生きようと思わなかった。で、仕方なく僕が生きる道筋を提示した」

 振り返って、霧矢たちに「何だと思う?」と聞いた。


「………まあ、そういうことなんだ。悪に報いることを燃料に命の火を燃やし続けることを決めたってわけだ。それの善し悪しは別にしてね」

 霜華がさらに口を開きかけたが、エドワードは霜華の後ろ側を指さした。

「その表情から僕はもう用なしみたいだね。さらばだ」

「ちょっ! ここ六階だぞ!」

 窓を開けると、エドワードはヒョイと飛び降りた。鈍い音は聞こえず、風の音が響いているだけだった。

 霧矢は駆け寄って下を見たが、無様に潰れた死体はなく、完全に無事だ。手を振ると、

「また縁があったらその時に。君らの幸せを願っている」

 車に乗り込んでそのまま走り去った。


「光里ちゃん……」

 振り返ってみると、喜びの表情を浮かべた雨野が立っていた。風華もニコニコ笑っている。


「護が目を覚ました」


 談話コーナーに歓声がこだまする。

「先生が言うには、イブには退院できるって」

 雨野は涙をぬぐう。

「みんなのおかげ。私、みんなに会えて本当によかった。ありがとう」

「そいつはどうも。だが、礼なら北原姉妹と有島先輩にどうぞ。僕はどちらかというとお詫びが欲しいですけど」

 霧矢は首を絞められたことをまだ忘れてはいない。リリアンの連絡先を聞き出すために拷問されたのはまだ記憶に新しい。

 雨野はムッとした表情を浮かべると、霧矢に近づく。

「迷惑をかけた件については謝る…」

 頭を下げて詫びているように見えた。しかし、

「…と言うとでも思った?」

 下から強烈なアッパーカットを浴びる。霧矢は吹き飛ばされて病院の床に仰向けに倒れた。

「少しは一緒になって喜びなさいよ。感謝を素直に受け取りなさい!」

「光里! すごい。私も光里みたいに強くなりたいな」

 目をキラキラさせながら風華は純粋に契約主に憧れを向ける。

 ノックアウトされ、意識が途切れる寸前に霧矢は思った。

(……やっぱり、僕のまわりの女子はそろって暴力的だ………)



 そのまま数時間は気を失っているかと思われたが、有島の回復術で霧矢は目を覚ました。風華は雨野になついているようなので、有島を残して、霧矢と霜華は病院を出た。

「なあ、何で風華は僕のこと、あんなに嫌うんだ?」

 昨夜からずっと気になっていたことを霧矢は尋ねる。はっきりいって、人見知りとかそういう問題ではなかった。初見の相手に、黙れと一喝したり、霧矢が殴られるのを見て喜んだりするのは普通ではない。

「…まあ、まだまだ子供だってことだよ。そこはわかってあげてほしいなあ」

 ニコリと笑いながら、霜華は答える。

「実はね。私を取られたと思って霧君のこと、嫉妬してるんだ」

「それだけなのか……?」

「それだけだよ。別に霧君のことが生理的に無理! とかじゃないと思う」

 霧矢はため息をついた。単純なことだったが、理由はどうあれ人に嫌われていい気分がする人間は少ない。

「姉としてきちんと面倒見てやれよ。もうこっちじゃ敵を殺す必要はないんだから」

 霧矢は雪玉を作る。しばらく新雪が降らなかったため、水気を含んで雪玉を作るには適した雪質になっていた。

「今度は、殺すんじゃなくて、もっと他の方法でさ。あいつを世話してやればいいさ」

 病院の木に向かって雪玉を投げる。

「お、今日は調子がいいな」

 霧矢の投げた雪玉は二十メートルほど離れた木の幹に命中して砕けた。幹に白い跡が付く。

「ねえ、霧君。どうしてエゴイストをやめて私たちを守ろうとしたわけ?」

「ん?」

 雪玉を投げようと構えたところで、霧矢は答えた。


「そうだな……理由なんてどうでもいいや。ただ、お前と一緒にいる時間は、結構面白いからかな」


 ふう、と息を吐いて霧矢は雪玉を投げた。

「あちゃあ、外れちまった」

 不規則に変化した雪玉は的を外れ、脇のフェンスに当たって砕ける。霧矢は舌打ちした。

霧矢が霜華の方を振り返ると、霜華は笑っていた。


「私もだよ」


 穏やかな日差しに照らされながら、二人は微笑み合っていた。


 こんな時間も悪くない、と。

 最後まで読んでいただいた読者の皆様、どうも、DoubleSです。この作品は「無性に雪女が出てくる異能のバトル系を書きてえ……」と思った痛々しい作者が、つたない文才を使って書いた作品です。

 いつの間にか、雪女を焦点にするつもりが、魔族の力を狙う復讐者との戦いにすり替わってしまったという、情けない話です。

 ご感想等がございましたら、どうぞお書きください。大歓迎です。今後の作品の改善に役立てたいと思います。

 では、またいつか会う機会があれば、お会いしましょう。

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