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Absolute Zero  作者: DoubleS
第五章
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虐殺者と復讐者 4

 霧矢はリリアンに向かって走るが、残り数メートルのところで向きを変えた。動きながら、駅前広場から離れた方向へ走る。

 夜の戦いでは、リリアンの能力は本人にとって非常にマイナスだ。炎の剣が作り出す光のせいで自分がどこにいるかは完全に知られてしまう。

 駅からかなり離れた人気のない駐車場に隠れる。街灯もなく、完全に雪明かりだけが照らしていた。

 目を凝らしてみると、離れたところに剣の炎が作り出すオレンジ色の光が見えた。まだ近くにはいない。とりあえず、時間は稼げる。

 先ほどは、剣の攻撃さえ受けなければ、と考えたが、それだけでも割と面倒だ。相手は自分を殺すつもりはないだろうが、火の攻撃を受ければ、霧矢としてはたまったものではない。

 今、ポケットに入っているのは、文香からもらった催涙煙幕と霜華からもらったマジックカードが二枚。回復用は底を尽きており、二枚とも爆発を起こして攻撃するものだ。

 勝算はあっても、勝てる確率はそれほど高くない。不意打ちが成功するかしないかにかかっている。

 オレンジ色の光がだんだんと強くなってくる。確実に、彼女は自分がどこに隠れているのかはわかっているはずだ。霧矢の魔力は通常の人よりも強いと霜華は言っていた。その分、放出している魔力も多く、魔族や契約主なら暗闇の中でも容易に見つけ出せるだろう。

 リリアンのシルエットがはっきりと見えてきた。霧矢はカードを取り出す。

「見つけたわよ。もうかくれんぼは終わり?」

 霧矢は二枚のカードを投げつけた。カードが光り、リリアンを巻き込むように爆発が起こる。

 爆発の熱で雪が解け、一気に気体となってあたりに蒸気がもうもうとたちこめる。


(………これで、どうだ………?)


 次の瞬間、霧矢は宙を舞っていた。

 リリアンがカードを放ち、爆風を生む。その風は立ち込めていた蒸気を薙ぎ払い、ついでに霧矢も吹き飛ばし、凍りついた地面に叩きつけた。

 ズシャァァというアイスバーンの上を滑る音が夜の中に響く。

 痛みをこらえながら、街路樹を支えに上体だけ起こす。涙でぼやけた視界の中で、女性のシルエットが大きくなっていく。

 手で涙をぬぐうと、リリアンが自分を見下ろしていた。手には炎の剣を宿している。

 一応、霧矢には催涙煙幕があるが、この状態では使えない。逃げ出そうにもまだ痛みが引いておらず動けないからだ。この状態で使ったら、自分も巻き添えを食らう。

「チェックメイト。観念しなさい」

「僕をどうする気だ」

「ひとまず、眠ってもらいましょうか。脅迫するのは見たくないでしょ」

 リリアンがポケットからカードを取り出す。

 霧矢は空を仰いだ。もう諦めるほかない。自分は最善を尽くした。でも十分だ。

 雨野は人殺しにならずに済んだし、霜華たちも応じなければそれで解決だ。自分の命と引き換えに誰かを意に反して殺してもらう必要なんてどこにもない。

 しかし、覚悟を決めた瞬間、霧矢に光が見えた。

 文字通りの光である。空に夜間飛行にしては明るすぎる純白の光が見えた。

 涙で霞んだ目を凝らすと、霧矢の心が躍った。

「最後に一つだけ言っておく」

 負け惜しみにしては妙に力強い霧矢の言葉に、リリアンは目を細めた。


「この勝負、お前の負けだ」


 言い返そうとした瞬間、カチン! という音がして、リリアンの足元に何本もの氷の槍が突き刺さった。リリアンが上を向くと、猛烈な閃光が炸裂した。

 上空から着物の女の子が飛び降りてくる。霧矢を守るように彼女は着地した。

「……あれほど来るなと言ったのに。やっぱりお前は来たんだな」

「そこは褒めてもらいたいよ。素直じゃないね」

 霧矢はフッと息を吐いた。

「まあ、お前らしいと言えばお前らしい。霜華」

 霜華の着地を見届けると、光の正体が地面に降り立った。その人が目を閉じると、頭上の光輪が消え、純白の翼が背中に収束していった。

 霧矢に駆け寄ると、両手をかざす。痛みが引き、視界もはっきりしてきた。

「三条君!」

 霧矢は頭を振ると、立ち上がった。

「わざわざ、飛んできてまでありがとうございます」

 霜華は手に氷の剣を、有島は手に光の槍を作り出した。


 リリアンは二人の姿を認めると慇懃な態度であいさつする。

「お初にお目にかかるわね。和服の子が北原霜華ちゃん、もう一人の子は…火だって聞いてたのにおかしいわね……」

 どうやら、リリアンは有島のことを晴代だと思っているらしい。

 おそらく、雨野のことだ。有島のことは最初から最後まで伏せていたに違いない。親友だけには迷惑をかけまいと固く心に決めていたのだろう。

「私は、有島恵子。光の魔族のハーフで、上川晴代の契約魔族です」

 鋭い目つきでリリアンを睨む。リリアンは困った表情を浮かべた。

「やれやれ、一気に二人も協力者候補が出てくるなんて。私としては嬉しい限りだけど、全員協力してくれる気はないんでしょう?」

「残念だけど、よそをあたってほしいね」

 氷の剣をリリアンに向ける。

「引いてください。誰も傷つけたくはありません。あなたも罪なき人を傷つけるなんて良心が許さないんじゃないですか? 復讐を目的にしている以上、あなたは人の愛を自覚しているはず。そんな人間が、人を傷つけて協力させることをよしとするんですか?」

 リリアンは有島の問いには答えなかった。どこともなく呼びかけた。

「エド! 手伝ってちょうだい。数的に不利だわ」

 三人が戸惑っていると、木陰から精悍な顔立ちの男が姿を現した。紺のスーツの上にベージュのロングコートを羽織り、茶色のマフラーをしている。体格はかなり立派で背は一九〇センチを優に超えている。年はリリアンと同じくらいだろう。

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