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Absolute Zero  作者: DoubleS
第五章
24/30

虐殺者と復讐者 3

「…で…見つけられたのね」

「ええ。ついさっきです」

 リリアンは満足そうな笑みを浮かべた。

「じゃあ、君の能力を見せてもらおうかな」

 雨野は力を込めた。自分の中に力がみなぎっていくのを感じた。溜まっていく力を一気に放出する。

 駅前広場を穏やかな風が流れていく。自然と自分の疲れが取れていくのを感じた。

 リリアンはため息をついた。

「この力じゃ無理ね。癒しの風をもたらす契約異能だけど、誰かを殺すには向かないわ。残念だけど、君は使えないわ」

 リリアンの失望の眼差しに、雨野はその場に崩れ落ちた。

 最後の希望だと思っていたのに……その希望は最後の最後で裏切られた。

 だが、次の瞬間、沈黙が漂っていた駅前広場に、声が聞こえた。

「……あれ……私…どうしたのかしら……?」

 気を失い、ベンチに寝かされていた理津子が目を覚ました。リリアンが驚愕の表情で雨野を見た。しかし、雨野は打ちひしがれており、ただ地面を見ていた。

「……対属性でもない意識凍結を解いたですって……? 契約異能で呪いを?」

 リリアンが、再びカードをポケットから出した。理津子に突きつけようとする。

 霧矢は飛び出した。


「待て!」

 霧矢が物陰から走り出る。ハッとしてリリアンがこちらに振り向いた。

「おやおや、霧矢君じゃない。でもまだ契約してないのね」

 霧矢はまだ隠れている西村に目くばせする。西村はうなずくと、一気にリリアンの前に飛び出し、後ろ手に隠していた雪玉をリリアンの顔面に投げつけた。

 西村という伏兵の存在には気づいていなかったらしく、リリアンは対応することができなかった。その瞬間、霧矢は母親に逃げるように言い、背中を押した。

 理津子が慌ただしく駆け出すと、霧矢はリリアンと真正面に対峙し、西村は雨野を守るように立った。

「全く、いきなり人の顔面に雪玉をぶつけるなんて、マナーがなってないわね」

 顔から雪を払い落とすと、ふてくされた様子で霧矢を見る。

「さっさとお帰りください。僕らはあなたには協力しない」

 リリアンは軽く無視して、クリスマスツリーのまわりを歩き始めた。

「君は、殺人はよくないことだと思っているようだけど、ならどうして制裁も許されないと思うのかしら?」

 霧矢は目を細めた。いきなり何か語りだしたリリアンに警戒しながら、霧矢はリリアンと距離を保ちながら、一緒にクリスマスツリーのまわりを歩く。

「殺人がよくないなら、その犯人は絶対に許してはいけないんじゃないの? 私たちが連中を殺さずに生かしておくから、よけい悲劇は生まれていくんじゃないのかしら」

「そうかもしれない。ただ、そのために誰かを無理やり協力させるなんて、とてもじゃないが、賛成できないな。そんな方法をとるなんて、復讐という言葉に失礼だ」

 霧矢は立ち止まった。リリアンも立ち止まる。

「私は、やつらと同じ方法で、やつらを潰すと誓った。クリスマス・イブの夜に失われた命へのせめてものレクイエムとしてね」

 霧矢はリリアンを見る。リリアンの人を見下すような笑顔はすでに消えていて、あるのは悲しみと怒りの表情だった。

「君だって聞いたことくらいあるんじゃないかしら。まあ、世間ではろくに伝わってないと思うけど。八年前のクリスマス・イブに何があったのかくらい」

「八年前というと………有毒ガス漏出中毒事件だっけか。二十人以上が死んだって話だな。でも、あれは事故だって話だったが」

 リリアンが霧矢にカードを投げつける。霧矢がかわすと、カードが霧矢の後方で小規模の爆発を起こした。積もった雪が吹き飛び、クレーターを作る。

「…こういうことよ。犯人は異能を使ってたの」

 リリアンは腕組みする。

「犯人らしき人物は捕まったけど、警察はまるで原因をつかむことができなかった。結果無罪。しかも、そいつは権力と結びついていて、存在すら世間に知られていなかった。私が調べた結果、魔族の力が絡んでいるとわかった」

「………それで、最近になってその実行犯の所在がわかった。そして、犯人はそいつ一人でなく、魔族の仲間などと一緒に行われた集団犯罪だった。だから、異能には異能での制裁をしようと思ったってことか?」

「ご名答。相変わらず察しのいい子ね。嫌いじゃないわ」

 ツリーの幹にリリアンは寄りかかった。霧矢はツリーのまわりを歩く。

「それで、残り一人が見つからない。まあ、殺すだけなら簡単かもしれないが、それが異能の力でなければならないとなると、見つからなくても不思議じゃない」

 霧矢がツリーを一周すると、いつの間にか西村と雨野は消えていた。おそらく、西村が連れて行ったのだろう。霧矢としては好都合だ。

「で、どうするつもりだ。僕は契約主じゃない。会長の力も殺人の役には立たない。やっぱり、僕を人質にして、霜華か晴代に揺さぶりをかけるつもりか?」

「そうね。私も良心がとがめるけど、仕方ないわね」

 リリアンがゆっくりと一歩踏み出した。霧矢は身構えた。

「二人ともあなたの考えは理解できないと言っている。いっそのこと来年のクリスマス・イブまで待ったらどうだ?」

「愚問ね。私はこの時をずっと待っていたのだから」

 リリアンが手を伸ばす。強力な爆炎が手から伸び、剣を形作った。

「魔族には劣るけど、私だって契約主。契約異能くらいは使えるわ」

 リリアンは魔族ではなく契約主だった。しかし、それは霧矢にとって有利だ。霜華は契約主が使える異能は一種類のみだと言っていた。つまりそれは、リリアンは炎の剣以外の異能の力はカード以外ないということを意味する。

 あの剣の攻撃さえ受けなければ、霧矢にも勝算はある。

「仕方ないわ。死にはしないと思うけど、ケガは覚悟しなさい」

「こっちの台詞だ」

 二人とも、走り出した。

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