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Absolute Zero  作者: DoubleS
第四章
16/30

大切な人への想い 4

 十二月十八日 火曜日 晴れ


「確かに、そうすれば…問題は…ほとんど…解決する…でしょうね…」

「ええ。ですが、非常に乱暴な方法ですし、僕もあまり気は進みません。それにそう簡単に決めてしまっていいようなものではないと思います」

 晴代を締め出し、放課後の生徒会室で有島と二人きりで霧矢は話していた。霜華と晴代の提案は非常に効果的な反面、その後、また別の問題を引き起こしかねない。

 有島も悩んでいた。概要はあらかたメールで伝えておいたが、改めて面と向かって説明すると、それが一段とよくわかる。有島は完全にやつれ果てており、学校に来るのも苦痛のようだった。言うまでもなく雨野は今日も欠席している。

「先輩……本当に僕が招いたことです。僕のことが気に入らなければ、光の剣で斬られたとしても文句は言いませんよ」

 冗談で励まそうと思ったのだが、それに反応する気力も失われていた。うつろな目で机を見つめている。天使の副会長はもはや、抜け殻としか形容できなかった。

「…光里ちゃんを守るために…私が…」

 一言一句がかすれている。聞いている霧矢も辛かった。しかし、ここで答えを出さなければ、本当に雨野が天罰の代行者になってしまうかもしれない。

「……上川さんは…それでいい…と…言っているんですか…?」

「ええ。あいつはむしろ進んでそれを望んでいます。その覚悟も十分にあるようです。僕的には気に入りませんけどね」

 晴代は問題ない。しかし、霜華がどうも渋っている。会長を無力化する作戦は賛成だが、有島・霜華の防衛策には手放しで賛成することはできないと言っていた。有島を守る方法については別に異議はないものの、自分は極限状態に陥るまでは不要と言っている。

 霧矢としても、別にそれならばそれでも構わないと思っている。問題は有島がどう思うかということだ。有島がプラン全体に反対するならば、計画を実行に移すことで有島に迷惑をかける恐れがあるので、計画は中止となる。霜華と同様に、作戦自体には賛成するが、防御策は必要ないのであればそれはそれでよい。

 霧矢は有島の回答を待った。

「わかりました。では、上川さんをここに呼んでください」

 霧矢は廊下で待っていた晴代に声をかけた。晴代が生徒会室に入ってくる。

 決然とした声で、有島は晴代に言った。

「上川晴代さん。あなたは私と契約する気があるんですね?」

「はい。先輩と契約してしまえば、雨野先輩も先輩に手出しはできないはずです」

「契約に当たって、いくつか注意事項があります。気が進まないのなら、断っても結構です」

 晴代は唾をのみ込んだ。

「まず、一つ目。いったん契約をすると、簡単には解除できません。無理やり解除しようとするとお互いが命に関わりかねないダメージを受けます。ただし、お互いの信頼が失われたときはダメージを受けずに契約は自然消滅します」

 晴代はうなずいた。有島は了解の意を示すと、続けた。

「次に、二つ目、人間は契約すると、魔法攻撃に対する耐性が低下します。護君のように呪いにかかりやすくなったり、普通の人間なら平気な術でもダメージを受けたりします。それでも、よろしいですか?」

 晴代がうなずくのを見て、有島は瞳を閉じた。

「最後に、魔族と契約した人間は、契約異能という術が使えるようになります。あなたは火の人間ですので、炎や熱の異能が目覚めると思われます。しかし、その術が暴走する可能性も否定できません。下手をしたら力に溺れて自滅する可能性もあります。その覚悟はありますか?」

 晴代が返事をすると、有島は目を開けた。

「わかりました。では、少し痛いですが、我慢してくださいね」

 椅子から立ち上がると、生徒会室にある文房具の引き出しを開ける。カッターナイフを取り出した。

「お互いの血で、お互いの体に名前を書き込みます。そうですね……手の甲にしましょうか」

 カッターで有島は自分の指を突き刺した。赤黒い血が滲み出てくる。

 晴代の手の甲に、自分の名前を書き込んでいく。書き終えると、赤い血文字が変形し、護のものとよく似た紋様が赤く光ると消えた。

 晴代も自分の指を切り、有島の手の甲に、名前を書き込んでいく。同様に血文字が変形し白い紋様が有島の手の甲で光ると消えた。

 次の瞬間、有島から眩い閃光が光り、晴代から爆炎が生じた。とっさに霧矢はその場に伏せた。気が付いた時には生徒会室は黒こげになっていた。

「……契約は完了しました」

「…う…うん…」

 二人ともこの惨状は予測できなかったらしく、唖然としていた。二人は全くの無傷だったが、契約に立ち会っていた霧矢は爆風のあおりをもろに受けて髪型が変わっていた。

「霧矢…大丈夫?」

「……ここは天国か?」

 顔のあちこちに火傷を作り、髪の焦げた霧矢は、冗談を言うと、気絶した。有島が、霧矢に駆け寄り、手をかざす。

 光の治癒術で霧矢の火傷が治り、霧矢は完全に元の状態に戻った。

「とりあえず……片付けませんと…」

「どうした! 何があった!」

爆音を聞きつけ、西村と雲沢が生徒会室に駆け込んできた、が、二人が見たものは絨毯爆撃の跡地のような生徒会室に横たわっている男子生徒と、片付けている女子生徒二名だった。


「全く、死ぬかと思ったぞ!」

 放課後の帰り道、霧矢は晴代に対し文句を垂れていた。しかし、これは晴代に言っても仕方のないことでもあった。どちらかというと、霧矢に退避を勧めなかった有島のせいである。

 晴代に目覚めた契約異能は、手に触れたものを熱するという原始的なものだった。帰り道で晴代は雪壁を融かして遊んでいた。

 雪玉を作り、手であっという間に融かす。見ていて面白いが、何かの役に立つかどうかと言われたら微妙だ。お湯を一瞬で沸かせるとか、そんなところだろうか。ただ、晴代は魔族と契約できたということで気分が高揚し、恍惚状態になっていた。

 しかし、考えてみたら、晴代に首を絞められたら焼き殺される可能性もある。リリアンの言った通り、証拠は残らない。凶器が何なのかは全くわからないまま迷宮入りになるだろう。

「…で、今日実行するのか?」

「うん。絶対に雨野先輩を殺人者なんかにはさせない!」

「僕は見てるだけだぞ。立ち合いはするが協力はしない。お前と霜華でやってくれ。ピンチになったら逃げる手助けはしてやるが、戦闘には参加しないからな」

 ため息をつきながら、晴代の明るさに呆れる。雨野の戦闘力をいささか甘く見過ぎているような気もする。

「いいか。僕は警告したからな。もし会長とやり合って大けがをしたとしても、僕に文句を言うなよ。いくら契約異能を手に入れたからといって、そう簡単に勝てると思うな!」

 半雪女+熱を操る女vs.浦高史上最凶の会長となるとどちらが勝つのか。もっとも、直接戦闘を行うのが目的ではないので、戦いにならないことを祈りたいが。

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