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Absolute Zero  作者: DoubleS
第三章
10/30

それは正しいのか 2

 白い建物の前の大通りにあるバス停では有島が待っていた。

「三条君! とりあえず、無事でよかったです…」

 本当に心配そうな顔をしていた。その表情が、自分にはあまりにももったいなく感じられたので、霧矢は謝罪の言葉を口にせずにはいられなかった。

「すみません。僕が駅で時間を潰したりなんかせずに、きちんと歩いて行けばよかったんです」

「…とりあえず、お話は病院の談話コーナーでしましょう。みんなもそこで三条君を待っていますから」

 有島に従って、霧矢は歩き出す。時計を見ると午後三時半。みんなきっと談話コーナーでお茶でもしているのだろう。

 土曜日の昼間ということもあって、病院は見舞客で人が多かった。談話コーナーの一角では、女子四人が飲み物を片手に座っていたが、霧矢の姿を見ると全員が駆け寄ってきた。

「みんな、とりあえず、僕はこの通り無事です。ご心配をおかけしました」

 冗談を込めた口調で、霧矢は頭を下げた。しかし、みんなはそうは思わなかったらしい。霜華に至っては、有島より心配した顔をしていた。

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

 霜華が霧矢の手を取って頭を下げた。突然のことに霧矢は唖然とする。

「私がつまらない意地を張って霧君を一人きりにしたから……そもそも、マジックカードを預けっぱなしにしてたのが…本当にごめんなさい!」

 数時間前の態度とは百八十度異なる霜華の様子は、見ていて逆に滑稽だった。しかし、リリアンの話を聞いた直後で、笑うだけの心の余裕は霧矢にはなかった。

「…別に怒ってない。それよりも、会長と有島先輩に話がある。三人だけで話がしたいから、少し席を外すぞ。晴代と木村とそのままゆっくりしててくれ」

 霧矢は雨野と有島を連れて、談話コーナーから去った。人に聞かれないところとして霧矢が思い浮かべたのは、護の病室だった。

 昨日来た部屋の扉を開ける。相変わらず窓ガラスの向こうで少年は眠っている。



「……会長、お話があります」

 いつになく深刻な顔をしている霧矢を見て、雨野も有島も重要な話だということはわかっているようだ。深呼吸して霧矢は話し始めた。

「もし、天罰の代行者になれば、護君を救えるとするならばどうしますか?」

 二人とも霧矢の言葉の意味をとらえかねている。霧矢は続けた。

「さっき、リリアン・ポーンという魔族の女、いや今から思い返してみると契約主だったのかもしれませんが…に出会いました。彼女曰く、復讐の手伝いをしてくれれば、火の魔族を紹介してくれると」

「復讐の手伝いだって?」

 霧矢はリリアンから聞いたことをすべて話した。雨野の眉が吊り上っていく。

「…つまり、私が恵子と契約して、契約異能の力でその復讐を手伝え、と言うわけね」

「話の流れ的には、非科学的な力なら何でもいいみたいなので、霜華や有島先輩単独でもいいのかもしれませんが、僕としては会長が有島先輩と契約するのを念頭に置いてました。要約すれば、火の魔族を紹介する代わりに、こちらも力を使える人を助っ人として一人紹介しろと。そういうことです」

 一呼吸置いて、霧矢は続けた。

「正直な話、僕が霜華と契約して、そうするというのが、向こうの考えだったようです。ですが、僕としてはそんなことに協力したいとは今の段階では思えませんでした」

「…私がするかしないかを決めろと。そういうことね?」

 霧矢はうなずいた。雨野はしばらくの間、護を見つめ、意を決したように口を開いた。


「……恵子。私と契約してくれる? もちろん、私だけでやる。恵子は協力しなくていい」

「光里ちゃん! それはダメです! いくら正義の復讐だと言っても、殺人は殺人です! 私は友達を人殺しにしたくない!」

 雨野は有島の肩を掴んだ。真剣な眼差しで有島を見つめた。

「……他に、護を助ける方法があるなら、それを選びたい…でも、他にあるの?」

 有島は黙っていた。確かに、火の魔族がいなければ護が目を覚ます可能性はゼロに等しい。そして、有島にも霜華にも火の魔族とのコネクトは今のところない。リリアンの紹介がなければ、火の魔族を手に入れる機会は雨野にとっては宝くじの一等を当てる並みに低い。

「いくら光里ちゃんの頼みとはいえ、その願いは聞けません。いくら護君のためでも、そのために契約はしたくありません」

「……じゃあ、護はずっとこうやって眠っていろと言うの?」

 感情的になった雨野の声が病室の中に響く。

「…ずっと眠っていろとは言いません。確かに私の知り合いに火の魔族はいません。ですが、いつか見つけることもできるはずです…去年だって偶然でしたけど。ですからその時を待って、光里ちゃんの方から契約を申し出れば…」

「それって十年後? それとも五十年後? それじゃ、いつになるかわからないのよ! それに、霜華ちゃんだって言っていた。これくらい強力な呪いは相当な使い手じゃないと解呪できないって。並の火の魔族じゃ無理なのよ! 霜華ちゃんが原因を見つけてくれて、三条がその治療の足がかりを探してきた。これは千載一遇のチャンスよ! これをむざむざ見逃すって言うの?」

 半泣きになった声で、雨野は続けた。

「どうせ、ターゲットは殺されて当然の人間なんでしょ。護を助けるのに天罰の代行者になることくらい、私は全く躊躇なんかしない!」

「殺されて当然な人間って…! 本当にそう思っているんですか?」

「恵子。あんたは優しい人だから、私を殺人者にしたくないって言うのもわかる。でもね、私にしたら、罪人の命と引き換えに護の意識が戻るっていうなら、この手を赤く染めたって後悔なんかしない!」

「そんなことをして護君を助けても、彼が喜ぶと思うんですか!」

「あんたは護の何を知っているって言うのよ! 話すらしたことないくせに!」

 いきり立った雨野を遮る形で霧矢は二人の中に割って入った。これ以上の二人の応酬を見るのは耐えられなかった。

「こんな話をするべきではありませんでした。すみません。僕が悪いです」

「三条……」

「この話は忘れてください。無かったことにして、別の方法を考えましょう。僕も会長を殺人者にしたくない。こんな話を持ち出した僕がバカでした。ですから、二人とも仲直りをして…」

 最後まで言い終わる前に、雨野が霧矢の襟首を掴んだ。

「…三条。リリアンさんの連絡先を教えなさい…」

 リリアンから受け取った紙は霧矢のコートのポケットの中に入っている。しかし、雨野はリリアンの指定した条件を忘れている。

「…たとえ、教えたとしても、契約異能の使えない人は…お断りと言っていました…有島先輩が嫌だと…言っている以上…会長は…仲間に…入れて…もらえないでしょう」

 首を締め上げられているため、霧矢は途切れ途切れにしか話すことができなかった。霧矢の顔色が危険な色に変わり始めたが、雨野は手を緩めなかった。

「いいから、連絡先を教えなさい! 死にたいの?」

 意識が遠のきはじめ、霧矢はポケットを指さす。左手で霧矢の首を押さえながら、雨野は霧矢のコートの中のメモ用紙を引っ張り出した。

「光里ちゃん、放してあげてください! 三条君が苦しんでます!」

 紙片をポケットにしまうと、雨野は手を放した。霧矢は手を床に付いて咳き込んだ。

「恵子。私は絶対にあきらめない。私に契約相手がいないのなら、こちらから見つけるまでよ。十二月二十一日までに絶対に探し出して契約する。それが強大な火の魔族なら、私は天罰の代行者にならなくて済むけど、それはあまり期待できない」

「…光里ちゃん…」

「そんな声を出すくらいなら、今、私と契約してよ」

「私は魔族として、契約主が殺人の手段として契約異能を使うのなら、契約はしたくない」

 きっぱりと言い放ち、両手を広げて、ドアの前に立ちふさがった。

「そう。なら、私は他の魔族を探しに行くまで。果たすべき仕事が終わるまで、会長の仕事よろしく。有島副会長」

 雨野が有島の前に立った。目でどけと合図している。しかし、有島は動こうとしない。

「ごめん。恵子」

 それだけ言うと、雨野は病室から駆け出した。

 残されたのは鳩尾に拳を打ち込まれうずくまる有島と、咳き込み続けている霧矢、姉のしようとしていることなど一切知らない護だけだった。



「霧矢、先輩たちと何を話してるのかなあ?」

「おそらく、先ほど出会ったという魔族のことではないのか?」

 文香は霜華から聞き取ったことをノートにまとめている。契約について詳しく書かれたそれは、もはや完全な記録文書に近かった。

「ところで霜華、済まないが契約異能についてもう一度詳しく説明を求める。望む力を手にすると言っていたが、今一つ理解できない」

 ペンで、契約異能の項目にアンダーラインを引くと、下の余白に説明を書き取っていく。

「人間が魔族と契約すると、人間には契約異能の力が目覚めるのは説明したよね」

 文香はうなずく。霜華は続けた。

「どんな能力に目覚めるかは人それぞれなんだけど、目覚める能力はその契約した時に、その人間が強く願っていることに近いものが属性的に目覚めるんだよ」

「え…? 強く願っていることってどういうことかな?」

 晴代が湯飲みを口に運びながら、興味を示す。

「例えば、土の人間が契約の時に誰かを守りたいと強く願ったとする。そうすると、土の防御系の異能が使えるようになったりする。土壁で攻撃を防いだりとか、砂嵐で敵の攻撃を妨害したりとか。それもまた人によっていろいろだけどね」

「じゃあじゃあ、あたしが、誰かを倒したいと強く願ってたりしたら…」

「炎とか熱を操って敵を倒すとか…そんな感じの契約異能になるんじゃないのかなあ?」

 文香は熱心にノートに書き込んでいく。

「…でもさ。だったら、誰かを殺したいとか強く願っていたとしたら…」

「とんでもないほど誰かに対して強い殺意を抱いているのならば別だけど、基本的には敵を倒したいと同じだと思うよ」

「でも、そのとんでもないほどの殺意があるなら…」

「……おそらく、ものすごい攻撃力を伴った契約異能が目覚めるだろうね。あっという間に相手を殺せるほどの」

 霜華はお茶を飲み干すと、立ち上がって紙コップをゴミ箱に捨てた。外を眺めると、相変わらず粉雪がちらちらと舞っている。高層階にあるため、窓からは白く染まった街並みを一望することができた。

(…霧君が魔族に勧誘を受けた……何の?)

 霜華としては、とりあえず霧矢の身の安全を確認することだけを考えており、連絡を取ったときに聞いた勧誘を受けたという霧矢の言葉を完全にスルーしていた。しかし、今になって冷静に考えてみると、霧矢がいろいろ危険なことに巻き込まれているのではないかと、不安になってきたのも確かだ。

(後で聞いてみよう……)

 クリスマスケーキのような街を眺めていると、晴代が隣にやってきた。

「ねえ、お正月はあたしのところに泊まりに来ない?」

「え…?」

「霧矢のお父さんってさ、大学の先生でしばらくの間、家を空けててクリスマスには戻ってこれないんだけど、このお正月に久々に帰ってこれるんだって」

 霜華は晴代の次の言葉を引き取った。

「家族水入らず、お正月を過ごさせてあげたいから、私は晴代の家に泊まっていた方がいいってことだね?」

「霜華ちゃんが邪魔だってことはないだろうけど…おじさんも結構気を使うだろうし…それにさ、あたしたちの仲を深めるってことでさ…! お正月には霧矢や来てくれるなら雨野先輩もうちに呼ぶつもりだし、結構うちも寂しいからね…いてくれると嬉しいんだ」

 晴代はちょっとうろたえながら、霜華を誘っている。

「…それとも…火の人間が二人以上いる家に数日でもいたら、まずかったりする?」

「数日くらいなら問題ないけど…迷惑じゃないの?」

 霧矢がもしこの場にいたら、「いきなりうちに押しかけてきたお前が何を言うか」とか言いそうだった。晴代は首を横に振った。

「霧矢にも話してあるし、もし、気が向いたらぜひうちへどうぞ!」

「……ありがとう。嬉しいよ」

 自分より背の高い女の子に霜華は笑顔で返した。

(こっちの世界の人はこんなにも暖かいのに……風華のわからずや…)

 晴代が後ろを向いた。

「あれ、雨野先輩。どうしたんですか?」

「……霜華ちゃん。二人きりで話がしたいの。一緒に外まで来てくれる?」

有無を言わさず、霜華は雨野に引っ張られていった。



「大丈夫ですか?」

 しばらくして、有島は痛みをこらえて立ち上がった。

「ええ…死ぬかと思ったけど、何とか…無事です」

 一日に二回も生命の危機に立たされたのは霧矢にとって初めてのことだった。のどに違和感が残るが、そんなことを気にしている場合ではない。

「すぐに、追わないと!」

「三条君。そんなに焦らなくても大丈夫です。この世界に魔族はそう多くありませんし、ゲートの近くにあるとは言っても、ゲートはくぐるだけで相当魔力を消費するらしいですから、こっちにくる魔族の毎年の数は片手で足ります。来週までに探し出して契約なんて無理ですよ」

 有島はなだめるように言い、まだ咳き込んでいる霧矢の背中をさする。しかし、霧矢は有島が一つ重大なことを見落としていることに気付いていた。

「違います! 会長には先輩以外に知り合いの魔族が、もう一人いる!」

 霧矢は有島の手を払って立ち上がった。

「まさか……」

「ええ、霜華が危ない!」

 霧矢はドアを乱暴に開け、廊下を駆けていく。有島は眠っている男の子に会釈をすると、ドアを優しく閉め、霧矢に続いた。

 病院内を疾走するなど迷惑行為以外の何者でもない。すれ違う看護師から注意されたが、無視して談話コーナーまで突っ走る。薄暗い廊下が一気に明るくなる場所で急停止して左に九十度回転した。

「晴代! 霜華はどこにいる! 答えろ!」

 晴代の両肩をつかみ、乱暴に前後に揺する。

「彼女なら、会長が連れて行ったぞ。二人だけで話があるとか何とか言っていたな」

 目を回してふらふらしている晴代の横で、新聞を読んでいた文香がにべもなく答えた。

「くそ! 遅かったか!」

 テーブルを拳で叩く。まわりにいた人は何事かと霧矢の方を振り向いた。

「とりあえず、探すぞ! 木村は先輩と一緒に建物の中。晴代は僕と一緒に外を探すぞ! 説明は後でしてやる。とにかく大至急だ!」

 晴代の襟首をつかみ、霧矢はエレベーターに乗り込む。一階のボタンを押す。

「何があったって言うのよ。そんな血相を変えるようなこと?」

「簡単に言うと、会長は魔族との契約を強く望んでいる。霜華がそのターゲットにされている」

「何で先輩がいきなり契約したいなんて言い出したのさ?」

「護を助けるための取引に応じるためだ。そのためには契約主になる必要がある」

 抽象的すぎて晴代は理解できなかった。しかし、霧矢の切迫した表情から大切なことであるということはわかっていた。

「とりあえず、私たちのすべきことだけ聞く。それでいいんでしょ」

「助かる。僕たちのすべきことは、会長に早まったことをさせないことだ」

 エレベーターのドアが開く。霧矢は駆け出す。

 受付嬢は息切れした霧矢と晴代を見て何事かと思っていたようだが、霧矢が霜華について尋ねると、「薄着の女の子なら先ほどもう一人の女の子と正面から出て行った」と答えてくれた。霧矢は正面口から表に出る。

 寒風が容赦なく吹き付け、身体に染みてくる。

(会長は狡猾だ。そう簡単には邪魔されないところにいるはずだ…)

 あたりを見回しながら、建物の周囲を駆け足で回っていく。しかし、建物を一周したが、霜華の姿はない。

「ねえ、霧矢。もしかして、先輩たちは外にいないんじゃないのかな?」

 晴代が白い息を吐く。

「でも、受付の人は外に出たと言ってたぞ。瞬間移動でも使えなきゃ中にはいないだろ」

「…ねえ。雨野先輩ってものすごく頭が回る人なんでしょ」

 雨野の知恵はもはや狡猾というレベルではない。人の裏の裏をかき、腹の中まで見通してくる。策を弄して罠にはめようとしても、逆にはめ返すだけの知恵と腕力を持っている。

 しかし、晴代はそこを考えた。雨野がいつも通りに動いているのなら、霜華と契約しようとするなら霧矢たちが阻止しようとすることくらい予測がつくだろう。そして、数えきれないくらいこの病院に来たことのある雨野にとって、この建物の構造を利用して、時間を稼ぐことくらい造作もないはずだ。

「……つまり、二人は中にいるのか?」

 晴代は黙ったまま走り出した。霧矢もそれに続く。病院の裏側の業務用搬入口から建物に忍び込むと、人気の全くない中庭に二人分の足跡が雪の上に残されているのが見えた。

「でかした! 晴代!」

 足跡をたどっていくと、再び建物の中に入る。近くにいた人に尋ねると、やはり霜華と雨野らしき女の子二人が通っていたと言う。

「…ここらへんで、二人きりになれそうな場所と言ったら、何がある?」

 息を切らしながら、霧矢は案内板を見ている晴代に問いかけた。

「ここら一帯は、みんな一般病棟で入院患者も見舞客も多い。この棟で二人きりで内緒話をするんだったら…」

 晴代は案内板の一点を指さす。

「……やっぱりそこか」


 階段を駆け上がり、鍵が開いているのを見て霧矢は確信した。

(間違いなく、ここにいる)

 関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開け放つと、粉雪が風に舞って顔に吹き付けてきた。小林記念病院のB棟屋上は雪国の姿を三百六十度眺めるのに十分すぎる高さだった。

 吹雪の中で、お互いに対峙する少女たちの姿が見えた。


「……さすがは私の見込んだ生徒会役員。私の追跡妨害を振り切ってくるとはね」

「会長。霜華と契約するつもりですか?」

 最上階だけあって風は強く、霜華と雨野の黒髪がたなびいている。

「…そうしたいのはやまやまだけど、断られちゃったわね。残念だけど」

「私も有島さんと同じ。そんな目的で契約異能を得るためなら協力はできない」

 毅然とした態度で、霜華は雨野と向き合っている。

「ほんと。霜華ちゃんは三条にはもったいないわ。強く、たくましく、美しい。同じ女子として尊敬せずにはいられないわ」

 霜華は褒められたというのに、うれしいという感情を抱くことはなかった。雨野は目を閉じると、

「…今日のところは、私はもうここに用はない。何と言われようと私は魔族を探しに行く。絶対に契約してみせる」

 ゆっくりと階段のドアを開ける。こちらを振り返ることなく、雨野は背中で語った。

「三条、恵子に『ごめんね』と伝えておいてちょうだい」

 それだけ言い残すと、雨野は姿を消した。

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