16.蔦と鳳凰
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ちょっと短め。
アルティアラインは先程つねった手の甲に自分の掌を重ねる。
ファガースの肩にもたれかかると、ぽつりと呟いた。
「……どこから、お話しましょうか」
「どこからでも。アルティアラインの好きなように」
ファガースのその言葉に、アルティアラインは思わず笑ってしまう。
―……全てを聞かせろ、といえばいいのに。
聞きたくない、聞かなくてもいい、そういうわけにはいかないはずだ。
「…………ミラは、王家の人間ですから、紋章をミラも持っています」
ファガースが頷くのが揺れる気配で感じ取れた。
「彼女の紋章は……蔦の紋章というものなのですが。その紋章と、兄の、兄が持っていた国王が代々継承すると言われている紋章があります。それで、ミラは今生きている状態なんです。……紋章の、執念……かしら?紋章の力によってミラはけがをしても、病にかかってもミラはすぐに回復します」
「回復?治癒魔法のようなものか?」
確か紋章には簡単な魔法なら使用できると前アルティアラインが言っていた事を思い出す。
その一種だろうか。
「はい。それを紋章が勝手にするのだと考え下さい」
ファガースは顔を上げ、天井に息を吐く。
「それで?どんなおまけが着いて来るんだ?」
おまけ、という言葉にアルティアラインの笑い声が漏れる。
「子供のお菓子みたいなものだったらよかったんですけど。……ミラの身体になにも、けがも病もない至って健康な身体の時は、紋章はどうなっていると思いますか?」
「……話の流れだと、休憩しています、というわけにはないのだろうね」
アルティアラインが首を縦に動かす。
「蔦の紋章は、常に魔力不足に陥っているんです。なにかから魔力をもらわないといけない。それができないなら力づくで吸収しようとします。……ミラはある事件をきっかけに魔力を持たない体に。その事件で、ミラは紋章に殺されかけました。その時、私も近くに居ました。……というか、魔力が足らない紋章が魔力を吸おうとした標的が私だったんです」
ファガースが息をのむ。
「兄も、一緒に居て、……今思い出しても必死だったんでしょうね。兄も、ミラも。……ミラは紋章を抑え込もうとするのに必死で、兄はミラを自分の紋章で抑え込もうとしました。……そこからは詳しくは知らないんです。でも、それ以降蔦の紋章は暴走することはありませんでした。蔦の紋章は国王の……鳳凰の紋章の近くにある時は安定するようになったんです」
蔦の紋章は、国王の紋章があれば平穏、か。
ファガースは、アルティアラインの頭を引き寄せる。
「しかし、彼女は貴女と共に我が国に来た、ということか」
アルティアラインは肯く。
「……多分、ミラは死にたかったんです。きっと。いつも、死に場所を探していました。行かなくも支障の無いような魔物討伐に行ったり……」
誰かを巻き込むかもしれない。
そんな身勝手な事をしてでも、死にたかったのか。
彼女は、そんなにも自分の事を殺したかったのか。
「……すまない、少し話をずらしてもいいかな?」
アルティアラインがファガースを見上げると、気まずそうに苦笑しているファガースの顔が目に入った。
「彼女は、ミラは……一体何者なんだ?先日の城下の時といい、ただの侍女ではないのは分かっているんだが」
その言葉にアルティアラインはあぁ、と思い出したように声を上げる。
「ミラは、祖国で騎士団の団長をしていました」
「は?!」
驚いて目を見開く。
「叔父上……ファウド卿が徹底的に鍛えていましたから、そこら辺の猛者はミラにとって子ども同然です。……私が初めてこの国に来た時、護衛の騎士が少ないとお思いになりませんでした?」
「あぁ、ライザックから報告は聞いた。なんでも、騎士団長が、直々に国境までは護衛したとか」
「今の騎士団長は、ミラの事も見送りに来ていたんです。彼は、ミラが騎士団に入ったころからの腹心で、戦友ですから」
あぁ、なるほど。
ファガースは納得がいったようにため息を吐く。
暴漢に襲われても無傷?
気配を読める上に身のこなしが只者ではない?
当たり前だ、彼女が騎士団の団長であるならば。
「……貴女は女性騎士が珍しいと言っていなかったか?」
「えぇ、珍しいですよ。私、ミラしか女性で騎士の地位に居た者を知りませんから」
納得がいったのか、ファガースは笑いだす。
「そうか……ははっ、……いや、すまない。……ッく」
大声で笑いそうになるのをファガースはどうにかこうにか誤魔化す。
ファガースが落着いたのを見計らってアルティアラインが再び話し始めた。
「陛下、ライザック様がミラを好いてくださっていてもよろしいですか?」
その言葉に、ファガースは嫌そうに口を曲げた。
「……、私に聞かないでくれ……あいつの恋路の話なんて気持ちが悪くてしたくない……」
ファガースが首を振ると、アルティアラインは面白そうに笑う。
「はい。じゃあ、二人は勝手にしてもらいましょうか」
「あぁ、それでいい……それがいい」