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10.おにいちゃん

お気に入りありがとうございます!


……なんで自分はここに居るんだろう。

元々鍛錬に遅刻して、隊長のところにいくのは必須事項だった。

鍛錬に遅刻したのだから、叱咤にしろ何かしら罰を受けるのは覚悟していた。

していたの、だが。

今、自分は完全に蚊帳の外に居た。

ヴォルガ隊長、ライザック閣下も、途中で近衛の詰所で合流した副長ですら、話に夢中になっているようで、何も指示をくれない。

そもそも、話をさせてくれないので、鍛錬に行っていいものかどうかさえもわからない。




「だからな、この前の一件で休暇がなくなったろ?」

「……それがなぜこの休暇に繋がるんだ。」

ヴォルガ隊長は柱にもたれて腕を組んでいる。

ライザック閣下も怖かったけど、ヴォルガ隊長と並んでいるとさらに怖い。

怖いものと怖いものを足すと……すっげぇ怖くなるなぁ……。

「しかも、三ヶ月なんて……異常じゃないですか。」

「まぁ……ぶっちゃけるとだな、あの一件でな。いろいろいい方向に向かったもんでな、俺たちにとって。」

「あぁ、それで。」

合点がいったように、隊長と副長が頷いている。

ロジエは聞いてはいたが、ほとんど意味は分からない。

とりあえず、何かいい事が起こったらしい。

「……つまり、それは隊長と私は一緒にどっかに休暇に出かけないといけないってことですか。」

そう副長が呟くと、隊長が崩れ落ちた。

「嫌?!……嫌なのか?!」

「嫌じゃないですよー、嫌じゃないんで立ってください。」

面倒臭そうに隊長の腕を引っ張る副長とは裏腹に嬉しそうに隊長は立ち上がる。

……なんか、隊長の性格変わってませんか?

隊長がいつも厳格な人ではないのは自分も知ってはいるが……。

こんなにも、くだけた人柄でもなかったと思う。

「なぁ、あんた、こんな男のどこがいいんだ?」

本当に不思議そうにライザック閣下が副長に問いかける。

言っていることが言っていることなので、閣下に隊長が突っかからないかと思ったが、閣下の言葉など隊長の耳には届かなかったようだ。

「優しいな、アレグリアスは。」

「えぇ。……私にもわかりません。」

わからない、と言いながらも副長も隊長を見ている。

……なんだ、やっとか。

隊内ではいつになったらこの二人は両想いになるんだと言う話を肴に酒盛りをするくらいだったのに、当の本人達は仕事の地位から抜け出す事をあまりしなかったものだから、どうなるんだと隊ぐるみで見守っていた……のだが。

遅いくらいだけど、問題は別にない。

むしろ喜ばしい。

……宿舎に戻ったら、報告しよう。

同僚の男は泣くかもしれない。

何気にあいつ副長に憧れてたからな……。




話が終わったのか、隊長がこちらに歩み寄って来た。

ヴォルガ隊長は、長身なことも含めて威圧感が異常だ。

「ロジエ、お前が鍛錬に無断で遅刻したことに関しては、しょうがない。しょうがないが、他の騎士の手前だ。鍛錬を二倍、夕飯までにこなせ。」

「はい。」

敬礼で答える。

確かに、夕飯までに二倍はつらいができない量でもない。

「……アレグリアス。それで、休暇はどこに行こうか?」

「……仕事中ですよ、隊長。」

真面目な体を装ってはいるけれど、副長がまんざらでもないのは、その表情で分かる。

「三ヶ月あるんだ。君の故郷に行こうか?……あぁ、うちの領内はちょうど祭の時期だな……一緒に祭を見るのも……。」

「へ?」

隊長の言葉に間抜けた声を出してしまったのは、副長ではない。

「ん?どうかしたか、ロジエ。」

「……あ、すみません。」

副長の問いに首を振る。

「……何でもないようには見えん。言え。」

「……あー、すみません。部下としては恥ずかしい限りなんですが、……隊長って貴族だったんですね。」

ヴォルガ隊は正騎士以上は精鋭部隊だ。

だから、ヴォルガ隊に居るという事実がそのまま実力を示している。

実力があれば、出自など興味がないというように隊長は隊員の出自については他者に語らない。

本人が言わない限り、他の隊員も詮索しないのが暗黙のルールだった。

そして、それは隊長もまた然りだった。

酒場でいくら泥酔しても、自分の事を語ろうとはしない。

それが当たり前であるから、いつしか隊員自体が出自というものに興味を示さなくなった。

隊に身を置いてたいした時を過ごしていない騎士見習いも例外ではなかった。

ので、言い訳がましいが自分も隊長の出自など知ろうともしなかったのだ。

「……そういえば、隊長になってから家名を名乗った覚えがないな。」

「隊長になってからって……、もう五年近くなるんじゃねぇか?」

「聞かれたら、教えているがな。」

ヴォルガの名で通じるからな、と呟く隊長に勢いに乗って聞いてしまった。

しまった、というのは、聞いた後で考えたら聞いてしまったという表現の方が正しい気がしたからだ。

「あの、じゃあ隊長の家名は何とおっしゃるのですか?」

「ディノーバだ。」



…………。



…………。



副長を見ると、副長は驚きもしていない。

知っていたのだろう。



「……えーっと。閣下の、」

「あぁ、兄貴だぜ。言っとくけど、老け顔の弟じゃないからな。外見を裏切らずに、長兄だ。」

ライザック閣下を見ると、十分すぎるほどの回答が返ってきた。

「ってことは……。」

そこで口を噤む。



長男は、無口で騎士団最強を謳われるほどの戦士。



次男は、剣の腕では騎士団最強、つまりは兄を凌ぐとも言われる近衛騎士。



三男は、次代の宰相の席にもっとも近いと噂される男。




……キャラ濃いなぁ。



……さすがにもういないよな、ディノーバ様の御兄弟。





まだいます(笑)

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