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楔の花嫁  作者: 如月皇夜
第一章 華物語
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第1話 記憶と謎06

「彼のこと、あなたは忘れちゃったのかしら?」


ニヤリと意味ありげな笑みと共に投げかけられた問いに、瑠花は答えなかった。

否、答えられなかったという方が正しい。

どんな理由があろうと、女郎蜘蛛の言うとおり、彼女は『彼』を覚えてはいないのだから。

黙り込む少女に、女郎蜘蛛は彼女が覚えていないのを確信したのだろう、扇を口元に当て、大声で笑った。


「アハハハハッ、なんて滑稽、なんて愉快。まさか、『彼』のことを忘れてるなんてねぇ。本当に都合が良いわぁ。『彼』はあなたに『名』を呼ばれないとあなたを護る事が出来ないのに、その『名』を忘れてるなんてねぇ」


可哀想にねぇと、と心にもないことを告げる女郎蜘蛛に、瑠花は何も言い返せない。

心底可笑しそうに笑う女郎蜘蛛に、悔しそうに唇を噛む瑠花に応える様に瑠衣が女郎蜘蛛に向かって焔弾を放った。

が、寸でのところで、女郎蜘蛛は扇を振って防いだ。


「危ないわねぇ。ご主人様に似て野蛮な使役獣だこと。もう少しで丸焦げになっちゃうところだったわよぉ?」


威嚇を止めない瑠衣を睨みつけ、憎憎しげに言う女郎蜘蛛に、瑠花は静かに口を開いた。


「彼は、あなたと同じモノなの?」


その問いに、女郎蜘蛛は一瞬動きを止めたが、直ぐに扇で口元を隠し


「いいえ、彼は私と同類ではないわよぉ。忌々しいけど、彼は別格・・・私達とは比べ物にならない存在よぉ」


忌々しいと心の底から思ってるのであろう刺々しい声で言い放たれた言葉に、瑠花は無意識に安堵に似た溜息を小さく零した。

彼が、妖ではないと分かったからであろうか。

彼女の安心したような様子に、女郎蜘蛛はフンッと鼻で笑った。


「あらあら、忘れてるのに随分嬉しそうねぇ。そんなに『彼が』妖じゃないと分かって嬉しいのかしらぁ?でも、そんな事もう考える必要なんてないのよぉ、あなたは私に食べられるのだから!!!」


その言葉と共に放たれた糸が真っ直ぐ瑠花に襲い掛かる。

すかさず瑠衣が燃やそうと炎を放つが、鋼鉄のような糸に弾かれ、瑠衣へ跳ね返ってしまった。


『ギャウッ』


「瑠衣!!」


跳ね返された焔が瑠衣に当たり、瑠衣が悲鳴をあげ倒れた。

瑠花は瑠衣を抱きあげ、己の持つ治癒能力で瑠衣を癒していく。


「ふふふっ、そう何度も同じ攻撃を喰らうはずないでしょぉ?この糸はね、焔も弾き返すほどの硬度を持った特殊な糸なの。狐の焔なんて簡単に弾き返せるわぁ」

するりと糸を撫で、うっとりとした口調で語る女郎蜘蛛を睨み付けながら、腕の中の瑠衣を抱きしめる。

今まで妖に襲われた時は、瑠衣や遠矢達が瑠花を守っていた。

しかし、今は遠矢達はいない。瑠衣も、深手を負ってしまった。

瑠花自身、楔の巫女と呼ばれてはいるが、身を護る術がない。

祖母のように、妖と対立出来る程の力を持ち合わせていない。

絶体絶命の中、ふとあの青年を思い出す。

彼の、名前はどのように紡ぐのだろうか。

思い出さなければならない、瑠花はそう強く思った。


「そろそろゲームオーバーよぉ、楔の巫女様ぁ。大人しく私に食べられて頂戴!!」


ビュンッと糸が勢いよく瑠花目掛けて飛んでくる。

瑠花は目を瞑って叫ぶ。


「皇夜!!!!」


無意識に、彼女の中で眠っていた彼の名前を言の葉にする。

フワリ、温かな風が瑠花を包んだ。

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