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楔の花嫁  作者: 如月皇夜
第一章 華物語
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第2話 巫女02

「あの頃のあなたはとても素直でいい子だったわね」


「まだ幼子でしたし、お祖母様がこんな方だとは思っておりませんでしたので」


「・・・・・・まぁ、いいでしょう。瑠花、今日から修行再開しなさい。何時『楔の巫女』として覚醒してもいいように」


「無論、言われなくてもそのつもりです。今回の件で、力不足だと感じましたので」


女郎蜘蛛に負け掛けたのが相当悔しかったのか、瑠花は口をキュッと一文字にし、そう告げた。

その瞳にははっきりとした固い意志が見え、瑠璃は小さく笑みを零した。


「そう、ならもう行っていいわ。修行によく励むのよ」


「言われなくても」


すくっと立ち、部屋から出ようとした瑠花に奈都達も続こうとしたが


「奈都、遠矢、あなたたちは残りなさい」


瑠璃の言葉に足を止められた。


「お祖母様?」


奈都と遠矢を呼び止めた瑠璃に不審げに視線を向けるが、当の本人は相変わらず何考えているかわからない笑みを浮かべて


「修行なら、彼らがついていなくても出来るでしょう?」


と言った。

確かに修行場は社内にあるし、守護者がどうしても必要というわけでもない。


「・・・後でちゃんと返してくださいね。2人はお祖母様の玩具ではないんですから」


祖母が引き止めるということは何らかの理由があるのだろうと判断した瑠花は、そう言い残して修行場へ向かった。

残された2人はもう一度腰を下ろし、瑠璃と向かい合った。


「瑠璃様、俺たちに何か?」


「・・・・・・貴方達、彼に会ったわね?」


そう問われ、ピクリと肩を揺らした2人に、瑠璃は小さく溜息を吐いた。


「やはり・・・『あちらの封印』も解け始めてるわね。まだ、完全ではないみたいだけど」


「瑠璃様・・・その者は、何者なんでしょうか」


「瑠花様のことを『花嫁』と呼んでいましたが・・・」


遠矢の言葉に、不快そうに瑠璃は顔を顰めた。


「彼は名乗らなかったのかしら?」


「はい、瑠璃様に聞け・・・と」


「(聞けるものならとも言ってたが・・・)」


「そう・・・説明を全部私に丸投げしたのね。彼らしい」


忌々しそうに呟く瑠璃の機嫌は最低だった。

本人にはその気はないのだろうが、殺気が部屋に流れ始める。

奈都達は内心ここから出たいのを我慢しながら、瑠璃の次の言葉を待った。


「彼の君の名前は『皇の夜宮』様・・・この地の元土地神」


「土地神・・・?!」


「そう、彼はここの土地神だったの。・・・数年前、私が封じる前までは、の話だけど」


瑠璃のその一言に、奈都と遠矢は目を見開いた。

瑠璃が昔、一人の神を封じたという話は両親から聞いてはいたが、まさかその神が先程出会った『彼』だとは思いもよらなかった。


「瑠璃様が古き神を封じた話は聞き及んでおります。しかし、その封印は数百年は解けないものでは・・・?」


「私も、そのように母から聞き及んでおりますが・・・」


奈都と遠矢の最もな言い分に、瑠璃は小さく溜息を吐いて一つの水晶を取り出した。


「!!」


「これは・・・」


瑠璃が取り出した水晶は輝きを失い、ひび割れていた。どうにかまだ形を保ってるようだが、何時まで持つか分からないほどに、ひび割れが酷い。


「これは、彼を封じる際に用いた水晶。簡単に言えば、これは封印の鍵ね。先程までは、ひび割れもしてなかったし、輝いてたわ。先程、まではね」


「つまり・・・瑠璃様が言いたいのは、先程の件で、彼の君に掛けられた封印が解けた、ということだ。まぁ完全に解けたわけじゃないが、この水晶の状態だと、近々完全に封印が消える」


「貴方達をここに残したのは、その事を伝える為よ。瑠璃様や私達は姫様に干渉できる範囲が限られてしまってるから。姫様の守護者である貴方達に任せるしかないの」


奈緒と流矢が交互に告げる。

彼女達も、また瑠花の身を案じてるのだ。

しかし、彼女の『主』は瑠璃であり、『瑠花』ではない。

自分の『主』ではない瑠花に干渉できることなんて、ほんの少しだけだ。

だから、彼女の守護者である自分の子供たちに任せるより他ないのだ。


「・・・少しよろしいですか?」


「何かしら、奈都」


「何故、瑠璃様は彼の君を封じられたのですか?彼の君はこの土地の守り神だったのでしょう?」


奈都の問いに、瑠璃は眉を寄せ不機嫌そうに扇をぱちんと閉じた。


「そうね、彼が私の大事な愛孫に手を出そうとしたからよ」


「確かに、瑠花様のこと『花嫁』とか言ってたな・・・」


「そうね・・・。けれど、何故瑠花様が?」


「――あの子が幼いころ、彼に助けてもらったことがあるの。あの子ったら勝手に社を抜け出した挙句、お守りも無くしてしまったらしくて。その時偶々あの子を見かけた彼が社まで送ってくれて、管狐までくれたのだけれど・・・。どういった因果か、彼はあの子のことを気に入ったようで、知らぬ間にあの子と契りの契約を交わしていたのよ。その証が『神妃の首飾り』・・・先程あの子に返した首飾りよ」


「神と契りの契約・・・ですか?」


「そう、神のご加護を得る代償に、その神の花嫁として神と契りを交わすという契約。まだあの子は幼かったから、完全な契約にはなってない・・・所謂仮契約状態ね」


「・・・瑠璃様は、彼の君の封印が解かれた場合、また封印する気ですか?」


「・・・いいえ、彼の封印を解くのはあの子自身。だから、あの子が選ばなくてはならない。本当は、こんなことにならないようにしたかったのだけど、あの子と彼の縁は思った以上に強いみたいね」


そう言って、瑠璃は小さく溜息を吐いた。


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