繋がっている
「随分増えたな。二十年間、楽しむこともなく働いたからな。この調子で続けるぞ、もう少しで、このボロ借家からもおさらばだ」モルタル二階建ての2階の和室、男は増え続ける貯金通帳の残高を見ながら微笑んだ。
車が停まる音がした。男はすぐに立ち上がり窓から下を見た。眼下には、タクシーが停まっており、妻が降りてきた。どうして、スーパーでパートをしている妻がタクシーで帰らなければならないんだ、男は熱くなった。
「あいつは何やってんだ。俺は欲しいものも我慢しているのに」と男は呟きながら二階から走って降り、玄関で仁王立ちをして妻が入って来るのを待った。
「ただいま」妻が扉を開けた。
「あ、あなた、ここで何しているの」
「何してるじゃないだろ。タクシーなんかに乗るな。電車を使えよ。何様のつもりだ」男は一気にヒートアップした。
「雨が降り始めたから、駅までけっこうあるし」妻は靴を脱ぎながら、平然と言った。
「こんなの雨に入るものか。スーパーの前にはバス停もあるじゃないか。電車がだめなら、バスにしろよ」男の顔は高潮していた。
「バスでも、バス停から家までは、歩かないといけないじゃない。雨の時ぐらい、いいじゃない。邪魔よ、どけてよ」妻は男の胸を突いて台所に入っていった。
「うるさい。贅沢なんだよ。雨が降りそうな日は、傘ぐらい持って行けよ」男は妻の後ろから怒鳴った。
「あなたみたいな人ばかりだったら、あなたどうするの、困るじゃない。社会はお互い繋がっているのよ」妻は冷水を飲み、呆れた口調で言った。
男は何も言わず、窓越しに空を見上げた。真っ黒い雲が垂れ込めていた。
「帰ってから話の続きはする、もう出るぞ」
「随分、今日は早く出るのね」
「今から雨がもっと強くなりそうだ。今日は儲かるぞ」
男は帽子を目深にかぶり、白い手袋をして、タクシーを運転して出て行った。
人は繋がっています。自分さえ良ければいいという人は最後には落ちていきます。「百匹目の猿現象」はまったくの絵空事でもないと思います。人にして欲しいことは、自分から先にやりましょう。相手の笑顔も見ることができますよ。




