第7話 人生は修正してけばええんや!
朝の光が街をそっと染めるころ、ひとりの青年とひとりの白い猫が、静かな時間を共有する――。
悩み、迷い、時には立ち止まりながらも、少しずつ自分の道を見つけていく。
この物語は、そんな小さな一歩を描いたお話です。
シロとハルキの会話を通して、「悩むことも悪くない」と感じてもらえたら嬉しいです。
どうぞ、ゆっくり読んでください。
朝の光が、少しずつ街を塗り替えていく。
結局、施設の裏手にある小さなベンチに腰を下ろした。誰かに話を聞いてもらいたくなったようだだった。
シロは何も言わず、ベンチにヒョイっと飛び上がるとハルキの方へと視線を向けた。
でもハルキは、その視線を合わせず語りかけた。
「なぁ、シロ」
「なんや?」
「俺、たぶん……いや違うな。本心だった。何度もこれじゃダメだってずっと思ってたんだ。いいかげん気持ちを切り替えて進まないとって。仕事も先輩のことも……でもそれってつまりさ? 諦めなきゃいけないってことだろ? 去らないといけないってことだろ?」
「せやな。次進むと同時に別のものが切り離されてまう。ハルキは今それに気づいたんやろ? 前進やん!」
「そんな前進とか……。結局このザマだよ。おっかなくて踏ん切りがつかない」
「せやけど、もう前の自分やないやろ? 今はそれでええ。まあ踏ん切りがつかんうちは苦しい時間が過ぎるかもしれん」
「……うん」
「それでも、今はええ。なんぼでも悩んでええんや。そうやって積み重ねてでっかくなってくんや。やることはもうわかってんのやろ? 焦らずにやれると思った時にやればええんや」
「また同じようになるかもしれなくてもか?」
「それはまたその時のハルキが考えればええ!」
シロは、ひなたのにおいがする空気の中で、小さく伸びをした。
「ハルキ、ワイは今までお前たち人間の悩んでることは正直ようわからんかったんや。もっと気楽にのんびりやればええのにって心底思ってたんや」
ハルキは、ゆっくりシロの方へと顔を向けた。
「けどな、前の風船売っとった女性の顔とハルキ、めっちゃ似たような顔してんねん。ワイも、もう少し人間ゆう生きもんを知らなあかんのかもな。ありがとやでハルキ」
自分の名前を呼ばれて、一瞬わからなかった。今度は逆にシロがこちらを向かずに遠くを見ていた。
「ふっ、今は俺の悩み相談じゃなかったか?」
「おっとスマン。せやな、堪忍やで!」
お互いが顔を見合い、口角が緩んだ。
そうか、でもこれが人生なのかもなぁ。悩んで修正して、悩んで修正して、うまくいってたらまた失敗して、修正して。
最終的には何か掴めるのかもな。
「よし、決めた」
ハルキは立ち上がると、ぐいっと背伸びをした。
「俺、ちょっとやりたいことがあるんだよ。少し勉強しないとだけどな!」
「なんやねん切り替え早いやないかい」
「お前がけしかけたんじゃないか!」
「次はもっと大変かもしれんでぇ? んん?」
横目で見やるシロ。
「そんときはまた愚痴らせてくれよ」
想像よりもずっと、体が軽くなったような気がした。諦めることは何も辛いばかりじゃない。その分清々しいほどに明るくなっていく。ハルキはこの時、たしかに『ここにいる』という感触を掴んでいた。
「ありがとな、シロ」
「ええって」
不思議と足も少しだけ軽く感じた。
もう、完璧な人間なんて演じなくてもいい。耐えるんじゃなくて、解放すればいい。
ただ、今日を生きて、誰かと関わって、時々、立ち止まってもいい。
そんなふうにしていけばいいんだ。
「流石にもう眠い、またな」
「隈すごいもんな! また唐揚げ、忘れんなよ」
ハルキは笑って踵を返した。
猫はフェンスの上に跳ね上がり、しっぽを揺らして朝の街にまぎれていった。
ふとハルキは振り返り、シロの背中を見送りながら、ふと空を見上げた。
そういえば、澪のやつ元気かな。あいつも同じ空を見ているだろうか? いや、あいつ活発だったから大丈夫か。
「ユウ、俺はまだまだ頑張るぞ」
ヒューと風が吹いた。
白い毛が一枚、朝陽の中、舞って消えた。
ハルキとシロの時間は、特別なものではないかもしれません。
でも、誰にでも訪れる小さな決断や、少しの勇気、そして温かい存在のありがたさが詰まっています。
諦めることも、迷うことも、時には前に進むための力になる――。
そんなメッセージを、少しでも感じ取ってもらえたら嬉しいです。
次は、また別の街や時間で、誰かの小さな物語が始まるかもしれません。
その時も、そっと覗きに来てくださいね。




