第2話 ね、ね、猫が!
この作品を手に取っていただき、ありがとうございます。
関西弁を喋る白猫の神様と、ごく普通の女性・澪の物語です。
コインランドリーという日常的な場所で、突然始まる非日常。
猫好きの方も、そうでない方も、クスッと笑いながら読んでいただけたら嬉しいです。
ちなみに、この白猫の神様のぽっこりお腹は作者の知人の飼い猫がモデルです(笑)
柔らかくて、つい触りたくなるんですよね……。
それでは、澪と白猫の神様の出会いをお楽しみください。
「喋った!?」
久しぶりに大きな声を出したせいで声が裏返る。目の前の白い猫から目が離せなくなった。
金の鈴が白猫の動きに合わせてチリーンと鳴る。慌てふためく女性の前で何度目になるのか、伸びをしつつ欠伸。寝起きなのか、舐めた手で器用に頭や耳を掻く。もはやそこに可愛さや癒しを感じる余裕は……。
「いやー、しっかしその唐揚げうまそうやなぁ!」
女性にはなかった。
「はわわわわ……」
女性はへたり込んだまま、目の前の喋る猫に釘付けになった。
「そんなに驚かんでも、喋れる猫が一匹くらい、おってもええやろ」
「いやいやいや! これは……夢? もしかして私、死んだ」
「夢ちゃうし、死んどらんて。ほんまに、少し落ち着きぃ。ほれ、洗濯物終わったみたいやで」
「え、ああそうね……ってこれが落ち着いていられるかっての!」
混乱さめやらないが、なんとか立ち上がる。足元がおぼつかず、恐怖を感じるよりもずっと衝撃が勝る。
「お、ええツッコミやな。お笑いとか興味あらへん? 良かったらワイとコンビを――」
「く、組まない!」
知らず知らずに会話を、この得体の知れない猫と。
まるで猫の手のひら、正確には肉球の上で転がされている気分になる。「あぁ」と頭を抱える女性。しかしそんな動作を見て、白猫は尻尾をくるりと巻きながら、まるで『少しは落ち着いたか』とでも言いたげな顔をのぞかせる。口角が釣り上がる猫ってどうなのよ。
「まぁ、お笑い界への道は後で話そうや。で、本題や。ワイのことどうこうよりやな? 澪は何を洗いに来たんや?」
不意に真面目腐ったことを質問されたが、先ほど恐怖よりも衝撃が優っていた女性の背筋が凍った。
「あんた、なんで私の名前知ってるのよ?」
私、小清水澪の問いに、白猫のまっすぐで大きな三白眼がガッと見開く。
物怪か怪異か、感じたことのない恐怖に背筋だけでなく、全身から汗が滴った。
再びへたり込んでしまった澪の目の前に、白猫がピンクの肉球を近づける。消される……。
「て、なんでやねん!」
「……は?」
急に歓喜のような声で……ではなくツッコミを入れる白猫。再び口角が釣り上がるその猫は、まんざらでもない表情を見せる『決まった……』と誇らしげに。
いやボケた覚えなどない。
「なんやねん、そのすっとぼけた顔は! は?ってあんた……。 名前? いやワイ神様やで?」
『当たり前やん』と言わんばかりに呆れを滲ませた言葉の追従に、何か言ってやろうかとも思ったが、頭の整理が追いつかず無理に返答はしない。そう決めた澪はひたすら睨むことしかできなかった。そして……。
澪の視線が白猫の顔よりも腹部へと注がれた。
「ええか、ワイはそれはそれは偉い神さ……おい、今ワイの腹見たやろ」
「え、ああえぇと……」
察しがいい……。
つい反応してしまい、しどろもどろになる澪。神様、もとい白猫は大きなため息をつくと、ネチネチと話し始めた。
「かぁ、なんやろなぁ、最近の若い人間っちゅうのは、見た目ばかりで他人を……猫の良し悪しを決めるんやろうなぁ」
澪としては悪気はない。ただ、あんなに柔らかそうな大きなお腹は、なんというか愛らしいというか、つい見てしまう。本能的に。
「ご、ごめんなんていうか、つい目に入ってしまうというか。ただ、ぽっこりお腹が可愛いなぁ……なんて」
「なん……やて……」
その言葉が気に障ったのか、先ほどまでの饒舌はどこへやら。白猫はわかりやすく落ち込むと、床に突っ伏してしまった。
「ワイは神様ワイは神様ワイは神様ワイは神様ワイは神様ワイは神様ワイは神様ワイは神様ワイは神様ワイは神様ワイは神様ワイは神様」
「おぉい」
ツンツンと澪が白猫の脇を突くが『ワイは神様』を連呼し続ける。正直怖い。しかし……。
指先で突くだけで波打つお腹、どうしても見惚れてしまう。やっぱり柔らかい。
このまま触っていたいが、ふと時計が目に入った。コインランドリーが閉じる時間が迫ってきていたのだ。
意思のある猫なら一人でも出られるんじゃないかと、澪は数分前の悩みを思い出していたが、
「この猫は大丈夫……だよね? 神様だし」
お読みいただき、ありがとうございました!
喋る猫、しかも関西弁で神様を自称する猫。
こんな出会いがあったら、澪と同じように混乱してしまいますよね。
この白猫の神様、実は結構なツッコミ待ちタイプです。
澪との掛け合いを書いているうちに、作者自身も楽しくなってきました。
「ぽっこりお腹」を気にする神様という設定、我ながら可愛いと思っています(笑)
神様なのにどこか人間臭い、そんなキャラクターになればいいなと。
この二人(一人と一匹?)の物語、続きも書いていく予定です。
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