第2書 どうやら俺は不適正の勇者のようだ。
俺たちはメルシアに連れられ、王城の客間へと足を踏み入れていた。
「みなさん集まりましたね···」
「メルシアさん、何故俺たちが呼ばれたんですか?」
「······まずはこの国についてお話しましょう」
メルシアはこれから発する言葉に詰まるものの丁寧に教えてくれた。
この世界には魔法が存在し、ほとんどのモノは魔法によって起動されているらしい。例えば、料理に使われる火は魔力をエネルギーにして火魔法を起動させているだと言う。
近隣には魔物が自然と生息していて、その魔物を討伐して生計を立てている者もいたりするらしい。
「·········ここからが本題なのですが、私たちのいる場所、カーオン王国は今、西側の海岸から魔王軍の襲撃を受けていて、すでに幾つかの辺境の村などは壊滅状態にされています。今、至急王国騎士団の兵士が戦地へ回って必死の抵抗で食い止めていますがおそらくそれも長くないと王国騎士団長から報告されて至急貴方たちを召喚したのです···」
俺たちはメルシアの話を聞いて、ある程度状況を把握することが出来た。
「······メルシアさん」
メルシアの話を聞いた上でまだ腑に落ちない所があったのか、柊がメルシアに訊ねた。
「どうしました?」
「大体の状況は分かったけど、肝心の俺たちが呼ばれなきゃいけないちゃんとした理由を教えてくれよ!」
柊の追及に少し動揺するメルシアはブツフツと呟き始めた。
「···貴殿方を召喚したのには過去の勇者様が関係しているのです。私たち、カーオン王国は300年前にも今回のように魔王軍の襲撃を受けているのです。その時は異世界の転移者の力を借りて魔王軍大将のデストロイを倒し、世界は平和を取り戻しました······」
メルシアは話の途中で話すのをやめる。意味ありげな様子を見せるメルシアの表情は暗かった。
メルシアの話が終わるとタイミング良く客間の入り口から水晶玉を持った女性神官が中へ入ってきた。
「メルシー、こちらに来なさい!」
「はい、メルシアお姉さま···」
女性神官は手に持っていた水晶玉をテーブルに置き、起動し始める。
「勇者様方、1人ずつこの水晶玉に手を触れて下さい」
こうして俺たちは1人ずつ水晶玉に手を触れる。
「みなさんのステータスを冒険者カードに登録しました。それぞれでステータスを確認して見てください」
メルシーに言われた通り、冒険者カードから自分のステータスを確認する。
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名前 : 意志紙 聡
Lv 1
HP 101 防御力 40
MP 35 俊敏 30
攻撃力 65
スキル
・ステータス偽装
:自分と従魔以外の者には自身のステータスを偽装した状態で見せることが出来る。
・アイテム収納
:異空間にものを収納したり取り出したりすることが出来る。
ユニークスキル
・経営好調
:行っている経営が常に好調になる。
・1日祈願
:1日1回願ったものを手元に生み出すことが出来る。
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━━━このパラメーターは強いのか······?
「すみません、常人はどのくらいのステータスなんだ?」
「Cランク冒険者を基本とした時、パラメーター値はHPは250、MP50、攻撃力や防御力はHPの2割から3割程度を彷徨っていますね···」
メルシーの話を聞く限り、俺のパラメーターはそんなに高くは無さそうだな···。
「······勇者?」
突然、柊が言葉を発した。おそらく自身のステータスの職業欄に勇者と書かれていたのだろう。
「勇者様は柊様でしたか!メルシー、今すぐ給仕係を呼んでくるのです」
「ハッ!!」
メルシーは給仕係を呼びに1度客間を出ると共にメルシアが柊とその仲間たちに真剣な眼差しでステータスを表示してほしいとお願いしてきた。俺たちはメルシアの指示通り、自身のステータスを表示する。
「やはり柊様は前勇者のお方と同じようなパラメーターとなっておりますね。他のお方もパラメーターが高い」
先ほどまで共に飲み合っていた者たちのパラメーターは明らかに意志紙のパラメーターを遥かに凌駕していた。しかし、俺のステータスには一つ欠落している部分があった。
「イシ···ガ···ミ?さんのステータスにだけ、ジョブが記載されていませんね······。勇者召喚の儀で無職というのは初めてですよ。スキルもアイテム収納しかないし、これじゃあ荷物係としてしか活躍が出来なさそうですね······」
どうやら俺のジョブは無職、目立ったスキルの無いハズレ転移者だとメルシアは感じたのだろう。一部、メルシアと俺との間にある意識違いはステータス偽装によるユニークスキルの隠蔽によって生まれているらしい。中々の防御性能を発揮していてとても頼もしい。
「これじゃあ、俺は柊たちのお荷物にしかならないな·········」
場の雰囲気が一瞬凍る。なんせ、先ほど合コンで自己紹介したばかりの間柄だ。合コン主催者の幸次はともかく、他の者たちは俺と同じで知り合ったばかりの者たちだらけだ。反応に困るのも頷ける。
膠着する場を和ませるためにメルシアがある提案をし始めた。
「······それなら勇者様方の住む城の専属執事として働きませんか?」
······専属執事?何だその初見な職業は···。執事に専属なんてものは存在するのか?そもそも転移者にこの職業を斡旋するか普通······。
意志紙に奨められた職業は専属執事。明らかに勇者とはかけ離れた職業だった。




