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遅すぎた後悔  作者: ミカン♬


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5/10

5 リチャード

 **リチャード視点**


「クロビス様が婚約は破棄したいって言ったの。私が悪い子だからって、そうセシリアが教えてくれたって、酷いと思わない?」


「よしよし、いい子だからもう泣くな」


 俺は、泣き続けるカタリナを抱きしめる。

 幼いころから、こうやって、カタリナが泣くたびに落ち着かせてきた。


 衝動的にセシリアを追い出してしまったけれど、脳裏にちらつくのは、以前見せられたカタリナの素行調査の紙だった。


 あの時はセシリアが、俺に隠れてカタリナを調査したことに腹を立てた。

 カッとなって、目も通さず紙は燃やしてしまったのだった。


「なぁ、正直に言ってくれ。悪い子って、おまえは何をしたんだ?」

「何もしないわ。きっとセシリアが自分の罪を、私に被せたのよ」


 セシリアと結婚してからの平穏な生活は、少しずつ崩れていった。

 クロビスとカタリナが婚約してからは、それがさらに加速した。


「しかし、セシリアはどうしてそこまで、おまえを憎むんだ……」


「そんなの嫉妬に決まってる。お兄さまの愛情を独り占めしたいんだわ。私が邪魔なのよ」


 ──瞳を潤ませるカタリナ。

 ずっと妹のように可愛がってきたんだ、俺に嘘なんてつくはずがない。


「それにお金持ちのクロビス様との婚約を妬んでいるのよ。だってお店の利益なんて微々たるものだから、お兄さまと結婚したのは間違いだったと、セシリアはいつも言ってたわ」


「アイツ、そんなことを言ってたのか……バカにしやがって」

「私を信じてくれる?」

「勿論だ」


「じゃぁ、離婚するわよね?」


 カタリナの瞳が、涙の奥でかすかに輝いた。俺に縋りつくふりをしながら、その目は俺の反応を計っている。


 だが正直、離婚は避けたかった。妻の実家のガラス工房との縁を失うのは痛い。

「いや、セシリアが反省して謝ってきたら、許すつもりだ」


 カタリナはぷっと頬を膨らませる。昔は可愛いとしか思わなかった仕草が、今は妙にあざとく見えた。


「婚約を破棄するなら、クロビス様と話し合わないといけないな。お前は部屋で休んでなさい」


 まだ何か言いたそうな顔で、カタリナは部屋へ向かった。


 カタリナとセシリア。

 正直、二人の相性は最悪だ。


 婚約破棄……浮気者のクロビスは、ついにカタリナに飽きたのかもしれない。

 どう贔屓目に見ても、カタリナは子どもっぽくて、取り柄なんて顔の綺麗さくらいだ。


 元々、伯爵夫人になんて向いてなかったんだ。

 それに気づいたクロビスの愛情が冷めたのも当然だろう。


「……慰謝料は、きっと出る」

 俺はつぶやく。

「その金を持参金にして、カタリナを大切にしてくれる男に嫁がせよう」


 そう決めた時、雷が鳴り響いて、雨が一気に強くなった。

 ふと……セシリアはどうしているのかと気になった。


 セシリアは妻で、カタリナは亡くなった俺の姉の忘れ形見。

 どちらも大切だ。比べられない。


 ……だけど、この家に本当に必要なのはセシリアだ。


「辻馬車でも拾って、実家に帰ったんだろう」

 自分にそう言い聞かせた。そうでもしなければ、落ち着けなかった。


 その夜。俺は浴びるように酒を飲んだ。

 頭の奥がじんじん痛くなるほど、無理やりにでも酔い潰れたかった。


「……お兄さま」

 耳に、甘い声が届く。視界がぼやける中で、差し出された薬を何の疑いもなく口に含んだ。


 ――やっぱり、カタリナはいい子だ。


 そう思った瞬間、闇に沈んだ。


 ……そして朝。

 ベッドの横に……カタリナが眠っている。


 体を起こした瞬間、俺は全身が凍りついた。


 ……俺たちは、一糸まとわぬ姿で並んでいたのだ。


「っ……!」

 慌ててベッドから飛び降りる。

 その気配にカタリナが目を開き、ふふっと笑った。


「愛してるわ、リチャード兄さま」


 手を伸ばしてくる彼女は、もう姪じゃなかった。

 俺のベッドに忍び込んだ――愛人のような女。


「……な、なんで……」

 心臓が早鐘を打ち続ける。


 カタリナは微笑む。

 そこには、「思惑通り」という確信が透けて見えた。

 昨夜俺は酒を飲んで──カタリナに、薬を……盛られた?


 俺は膝をつき、頭を抱える。これは罠だ、俺は悪くない――そう思いたい。


「うっ……ぐぅっ……」

 喉に込み上げてきたものを堪えきれず、俺は洗面所に駆け込んで、何度も吐いた。


「俺は……なんてことを……」


 胃の奥から搾り出されるのは酒だけじゃない。

 俺が信じ続けてきた、愚かさそのものだった。



読んで頂いて有難うございました。

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― 新着の感想 ―
>セシリアは妻で、カタリナは亡くなった長女の忘れ形見。 この表現だと、カタリナがリチャードの孫娘になってしまうのでは? リチャードから見ると、カタリナは亡くなった姉の忘れ形見、なのではないでしょうか。
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