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遅すぎた後悔  作者: ミカン♬


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10/10

10 【完結】セシリア

 牢を出ると日が落ちて、空気がひやりと肌を刺した。

 けれど、さっきまで胸を締めつけていた重苦しさは、すっかり消えていた。


 クロビス様が黙ったまま上着を掛けてくれる。


「有難うございます」

「いえ」


 静かな廊下を、クロビス様と並んで歩く。

 壁に設置してある燭台には、火が灯されて、夜の気配が近付いている。



「二人は借金奴隷として、鉱山送りとなるでしょう」


「軽すぎませんか?」


「私の罪を差し引いたのです」

 

 処刑でなくて良かった。どこかホッとした。


 クロビス様が犯した罪。それは私を守り、解放したこと。

 罪なのだろうか? 私は感謝しているのに。


「……セシリア。後悔はありませんか?」


「いいえ。後悔などありません」

 そう答えると、胸の奥に解放感が広がっていくのを感じた。


「でも……お店はどうなるのでしょう?」


「伯爵家の所有になります。店は残す予定です」


「本当に? それなら嬉しいです」


 思わず笑みがこぼれる。

 あのお店があったから、私は辛い結婚生活にも耐えられた。

 懸命に働き、汗を流したあの日々は、無駄ではなかったのだ。


「これから――あなたは、どんな未来を望みますか?」


 彼の問いに、少し考え込んだ。

 未来。

 これまで想像する余裕すらなかった言葉。


 結婚する前──充実して輝いていたあの頃のように、生きていきたい。


「また、ガラス細工を作りたいです。そして……今は、早く両親にも会いたい」


「ガラス細工を……そうですか」

 彼のつぶやきは、とても寂しそうだった。


 私の返事は彼が望んだものとは違ったみたいだ。

 

 私は立ち止まり、彼の名を呼んだ。

「クロビス様。もし言いたいことがあるなら……はっきりと仰ってください」


 そのとき、初めて彼の表情に、押し殺していた想いがあふれて見えた。


「私は……貴女を幸福にしたい。どうか……私と結婚してください」


 あまりに真っ直ぐなクロビス様の言葉に、トクンと胸が高鳴る。


「……でも、まだ離婚届を提出していません」

 私の手の中には、リチャードの署名が入った離縁の書類がある。


「すぐに承認させます。最優先で。そして、そのとき……あなたの返事を聞かせてください」


「はい……」


 どれくらいの時間を、互いを見つめ合っていたのか。

 言葉もなく、ただお互いの気持ちを確かめ合っていた。


 私はクロビス様が好きだ。


「セシリア」

 私の名を呼んで差し出した手に、そっと手を重ねる。

 指先に、じんわりと彼の熱が伝わってくる。


「未来を描いていくのはこれからです。……クロビス様、あなたと、一緒に」


 私の言葉に、彼は驚いたように目を瞬き、それから照れくさそうに微笑んだ。

「なら……お店はあなたに任せます。近くにガラス工房も建てましょう。好きなだけガラス細工を作ってください」


 胸の奥が温かさで満ちていく。

「それは……とても素敵ですね」


「そして……」

 彼は息を整え、不器用に言葉を紡ぐ。

「その未来に、私が隣にいても……いいですか?」


 真剣で、不器用で、けれど誠実な問いかけ。

 私は堪えきれず、微笑んでしまう。


「はい……でも、もう少しだけ待ってください」


「もちろん。……私は、いつまでも待ちます」


 夜の静けさの中、私たちはゆっくりと歩み出した。



 ――もう振り返らない。

 私が選ぶ未来は、きっと温かい光に輝いている。


 そしてその隣には、いつもクロビス様がいる。


 中庭の渡り廊下にさしかかると、


 月が、祝福するように私たちを照らしていた。




 終わり。



最後まで読んでいただいて有難うございました。



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― 新着の感想 ―
なんというか背筋が寒くなるような展開のお話しでしたが、堪能しました。ミステリーというかホラーな感じがしますが、最後はハッピーエンドってスゴすぎます?!ものすごくおもしろかったです。牢屋で膝を抱えて蹲っ…
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