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新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第01章 -王都アスペラルダ城下町編-
8/8

Ep:007[時給2,000~10,000の冒険者業]

 宗八(そうはち)は雑貨屋で予定通りの品々を購入する事に成功した。


 雑貨  :荷物袋(小) ◇購入額:300Mölln(メルン)


 雑貨  :サイドポーチ ◇購入額:500Mölln(メルン)


 雑貨  :白い粉(???) ◇購入額:100Mölln(メルン)


 魔導書 :ヒール ◇購入額:300Mölln(メルン)

 希少度 :普通(ノーマル)

 要求ステ:INT/8 MEN/8

 効果  :HP小回復。外傷を治療する事も可能。


 魔導書 :ヴァーンレイド ◇購入額:300Mölln(メルン)

 希少度 :普通(ノーマル)

 要求ステ:INT/8 MEN/8

 効果  :小さな火球で攻撃する。


 お金があったのでヒールの魔導書も購入することにしてすぐに読むとエクソダス同様に簡単に習得することが出来た。

 魔導書は使用すると書かれていた文字などが失われ白紙の本となってしまう。この本を店員が回収して魔法ギルドへ運び込まれ、それを素材にまた魔導書にして加工して販売されるリサイクルになっていると店員さんに教えてもらった。

 初級魔法は複製が容易なので広く提供する為にわざと安く販売しているが中級魔法(ちゅうきゅうまほう)になるとガクッと金額が高くなるらしく、店員が言うには中級と上級の魔導書はダンジョンで見つけるしかないので売却すれば10,000Mölln(メルン)以上になるとの事。時価だそうだ。それを買おうと思えば2倍から3倍の金額になる為、出来ればダンジョンで探すことを勧められ覚え済みの魔導書が出たら買取所で売りに出してくれとも言われた。


「さて、やりますか……」

 宗八(そうはち)は購入した白い粉をインベントリに16分割して収納している。ポーションはサイドポーチに移し枠が空いたのでインベントリ全てを白い粉が占領した状態で転送陣からダンジョンへと戻る。

 ダンジョンの構造は変わらないが魔物は適度に生まれて来るので狩場を決めて稼ぎ続ける事も可能なのだが、そんなことを繰り返す冒険者ばかりになると同じ素材ばかりで在庫がいっぱいになってしまう為、その場合はギルドが買取禁止を発令してそういう冒険者を次の町に移動させてしまうのだそうだ。そういう冒険者は狩場でレベルも十分に上がっているのでダンジョンを攻略するのに苦戦する事もほとんどない。

 宗八(そうはち)も例外に漏れず稼ぎ続ける事は出来ないので今日は稼ぎに充てて残金が心許無くなれば稼ぐというサイクルで誤魔化すつもりだった。

「居たな」

 さっそく目立ての魔物がポヨンと登場した。スライムだ。宗八(そうはち)は手を前に翳して魔法を唱える。


「《ヴァーンレイド!》」

 手から生まれた火球は狙い過たずスライムに命中して小爆発を起こす。白煙が納まるのを待ってからドロップ品を確認すると[スライムの核]だった。1/2じゃない宝石としての価値がある核がドロップしたのだ。

「火魔法を使えばドロップするのは情報通りだけど、やっぱり若干無気力になる気がするな。MPはステータスに出て来ないけどやっぱりMENが影響してるっぽいなぁ……」

 宗八(そうはち)が口にした様にこの世界でHPとMPの総量は視覚情報で確認することは出来ない。なので、あまり魔法を使い過ぎると駆け出し冒険者である宗八(そうはち)などは間もなくダンジョン内で気を失ったりする恐れがあった。そうなると火魔法を乱発して[スライムの核]を乱獲する事が出来ないという答えに辿り着いていた宗八(そうはち)はスライムに剣で挑みながら考えた結果思い付いた方法がインベントリに詰まった白い粉戦法だった。……いわゆる『片栗粉』だ。料理に使う粉で、加熱や水分でトロみを出すアレである。



 * * * * *

 ぽよんっ♪

 あ!やせいのスライムが とびだしてきた!

 宗八(そうはち)は 片栗粉をスライムに振り掛けた。


 スライムの たいあたり!

 宗八(そうはち)は盾で 防御した!


 スライムの たいあたり!

 宗八(そうはち)は盾で 防御した!


 スライムの ……たいあたり!

 宗八(そうはち)は盾で 防御したがダメージを受けた!


 * * * * *

 片栗粉を振り掛ける行為でスライムは宗八(そうはち)を敵認定して力を溜める動作後に体当たりを始める。

 しかし、身体が柔軟性を持っているのでインパクトさえ抑えられれば防ぐ事は容易い。そして弾かれたスライムは地面にぐちゃりと着地すると再び元の形に戻ってから力を溜めて体当たりを再開する。

 2度目の体当たりでも大して変化は無かったが3度目になるとスライムの動作が緩慢になった。力を溜める動作に移行するのに少しラグが発生し、更に盾への威力が上がっていたのだ。これはスライムが動くことで振り掛けた片栗粉がスライムボディに満遍なく混ざり、3度目の体当たりの時には粘度が上がって普段通りの動きが出来なくなっていたのだ。代わりに体当たりの威力が上がったが……。

 4度目の体当たりを防がれて地面に落ちたスライムはその衝撃で弾けて細かな身体が散らばる事件が発生した。

 まるでゼリーを床に落としてしまったみたいな罪悪感が宗八(そうはち)の心を襲う。それほどのショック映像だった。

「とはいえ計画通りだ。粘度が上がった事で衝撃に対する柔軟性が失われた結果、こうして簡単に核を入手出来るってわけだ!」

 身体の半分を失い地面にへばり付いていたスライムの散らばった身体が本体に戻ろうとプルプルしていたので宗八(そうはち)は手早くスライムに近づくと素手で身体を掻き分けて核を掴むと一息に引き抜いた。

 核を失ったスライムはそのままダンジョンへと溶けて消える。


 この成功を機に宗八(そうはち)は出会うスライム全てに片栗粉を振り掛けると相手をする事なく奥へと進んだ。

 最初の一体は成功するかの確認をする為に相手をしていたが動く度に身動きが取れなくなるなら後で回収すれば良いと考えマップを埋める作業を優先したのだ。その甲斐もあり宝箱も発見する事が出来た。

 だというのに、宗八(そうはち)の表情は明るくない。

「期待したところで所詮ランク1ダンジョンの第一階層の宝箱だからな。目録を見たけどスライムの核以上の売値じゃないし……」

 金に貪欲な宗八(そうはち)が欲しい武器は[イグニスソード]。これは第四層以降に出現する宝箱から入手する事が出来る希少度:精巧(エラボレイト)のレア武器だ。更に火属性の魔法剣でもあるので未だ遭遇していないゾンビには効果的と資料には書かれていた。

 案の定、宝箱に入っていたのは幸運の指輪というゴミ装b……。いや、これはゴミじゃなかった気がするぞ!

「確かレアドロップ率を上げる装備が3種類だけ存在するんだよな。それが幸運の指輪、幸運の鈴、幸運のカードでいずれもアクセサリー枠の装備だったはず……」

 とはいえ、実際に効果があるのかは分からない。そもそもゲームで言うレアドロップ強化は0.5%UPとか高くても2%UPとかだろう。そう考えると興奮状態からすぐに冷静にこの指輪の有用性に疑問が出て来る。

「まぁいいか、今はアクセサリーは何も装備してないし付けるだけ付けとこ。どうせならもう一つ欲しい所だよなぁ」

 キリも良いので来た道を戻っていくと粘度が高くなって動けなくなったスライムたちがお出迎えしてくれる。

 いずれも(はらわた)をブチ抜かれて核を抜かれ絶命を繰り返す事16体。小袋には先の[ヴァーンレイド]で倒したスライムの核と合わせて17個になった。更にダンジョンが新たに産み出したと思われるスライムを3体魔法を倒し、合計20個の核を手に宗八(そうはち)は再びギルドに舞い戻って来た。


「お帰りなさいませ。あら、貴方は本日1度来られましたよね? また買取品を持ち込まれたのでしょうか?」

 少し利用者数が増えた買取所の受付の中で朝と同じ列に並んで同じ従業員に出迎えてもらった。

「スライムの核を売りたいんですけど。今度は全部ちゃんとした[スライムの核]ですよ。合計20個です」

 カウンターに今回の成果物であるスライムの核を20個乗せると、流石の受付嬢も驚きの表情を見せる。

「あれから……1時間程度でこの成果ですか……。凄いですけど、少しお預かり致しますね。このままお待ちください」

 受付嬢はスライムの核を全て袋に詰めると従業員用の扉を開いて消えてしまった。待てと言われたので3分ほど待っているとようやく先ほどの受付嬢が誰かを連れて戻って来た。

「あ、アインスさん。おはようございます」

「おはようございます水無月(みなづき)様。もう昼時ですけどね」

 苦笑しながら宗八(そうはち)の言葉に応えたのはこの城下町のギルドのトップ。つまりギルドマスターだ。引っ込んだ受付嬢がギルドマスターを連れて来たと言う事は……。

水無月(みなづき)様、とりあえず奥の部屋へご同行をお願いいたします」

 何かしらの不正を疑われたと言う事だろう……。



 * * * * *

 アインスに連行された部屋はギルドマスターの執務室だった。

「そちらのソファへどうぞ」

「あっハイ」

 勧められたソファに宗八(そうはち)は大人しく座り、アインスもテーブルを挟んだ向かいのソファへと座り(おもむろ)にテーブルの上に袋を置いてから中身を取り出す。もちろん問題のスライムの核だ。

「お自分が置かれた状況は理解されておられますか?」

「不正を疑われているのだと思っています」

 アインスの問い掛けに宗八(そうはち)は簡潔に答えた。それに頷き話を続ける。

「今日初めてダンジョン入りした冒険者が1時間程度でスライムの核(1/2)を14個売却し、その時点で提出されたギルドカードからダンジョン踏破10%以下との情報を確認した従業員は入口付近をうろついてスライムを狩っていただけと予想しました。その後ダンジョンに再度潜って1時間強で今度は完全な状態のスライムの核を20個。初心者でもPTを組んでそのほとんどが魔法使いならそういう稼ぎ方も出来ますが、水無月(みなづき)様は御一人でこの成果です。怪しいと思いませんか?」

 アインスの言葉には宗八(そうはち)も納得せざるを得ない。

 そもそも初心者PTは潜れるダンジョンランクから考えれば大人数のPT編成は赤字にしかならない。その為、前衛と後衛のどちらかが多い3人PTが安全面も稼ぎ面も最適とされていた。前衛でもヴァーンレイドを撃つ事は当然可能だが、MENを初期値のままとすると4~5回撃てば精神力が空になって気を失う事になる。そういう下地の情報があったうえでソロ冒険者が短時間で戻って来てカウンターに20個もスライムの核を出せば有り得ないと考えるのは必然だった。

「説明する機会をいただけますか?」

 アインスは首肯する。

「もちろんです。お聞かせください」

 宗八(そうはち)は説明する。20個のうち4個は魔法で入手した事。そして片栗粉を用いた戦法も併せて伝えた。


「なるほど。そのような方法があったのですね……」

 アインスは素直に感心した。何せ初級ダンジョンに出て来るスライムは索敵がド下手で動きが遅い。さらに言えば核は見えない程の細い神経の様な糸で半透明の身体と結びついている。つまり半透明の身体をプールに見立てて核と()()()()()は剣などから逃げ回る事が出来ているのだ。核も完全な状態で確保するのが面倒な為、ある程度レベルが上がればスルーされる存在だ。そして上位種は索敵が上手く動きも素早いので核の確保よりも被害を出さずに討伐する方に考えが傾いてしまう。

 宗八(そうはち)が説明した片栗粉戦法は画期的だが、初心者冒険者に料理の心得があるものはほぼいない。だからこそ料理に対して片栗粉が発揮する効果についても当然知らない為今までこんな戦法を考え付く者は居なかったのだ。


「話はわかりました。水無月(みなづき)様に非は無かったとギルドマスターとして判断致します。ただ、今回は状況が悪すぎて疑われる結果に繋がってしまっています。私はナデージュ王妃殿下より水無月(みなづき)様の情報を事前に受け取っており様子を見る様にとも伝言を受けておりますので不正をする事はないと最初から考えておりましたが、従業員はその裏情報を知らない手前、私が自ら対応する必要がありました」

 アインスはソファに座ったままだが頭を下げる。

「ご不安を抱かせてしまい申し訳ありませんでした」

 これにはお世話になり始めたばかりのギルドの長に頭を下げられた宗八(そうはち)の方が慌てる事になった。

「いやいや、頭を上げてください。自分が調子に乗った事は事実ですし、逆にアインスさんにお手間を取らせてしまって申し訳ないです。すみませんでした」

 互いが頭を下げた事でひとまず今回の問題は解消された。アインスは宗八(そうはち)に先ほどの従業員に事の顛末の説明と換金をしてくると言って退室して行った。買取所に来てからすでに20分が経過している。突然訪れた窮地を脱して弛緩していた宗八(そうはち)の思考は自ずと換金額へと移っていく。


「完全なスライムの核は500Mölln(メルン)って言ってたから20個で10,000Mölln(メルン)? 冒険者業ヤバくね?」

 確かに結果だけを見れば高給取りな仕事だが、全てが自己責任でありPTを組めば分配が発生して取得額も減る。怪我によっては治療費も馬鹿にならないし武器や防具の手入れに宿代、移動費、食事代と様々な出費がどうしても嵩む。そしてダンジョン内で命を失う冒険者だって居る危険な職業よりも安定した街中で手に職を付ける人が多いのは必然だった。

 今回の宗八(そうはち)の成果物であるスライムの核20個を初心者3人PTで同じ時間稼げば一人あたり3,333Mölln(メルン)だが、次の冒険にすぐに繰り出すにはマナポーションを購入する必要があるし魔法使いは得てして体力(スタミナ)も低いので動きが悪くなりその後の稼ぎ効率も悪くなる。その点宗八(そうはち)の片栗粉戦法は魔法を使用せずに一人で短時間で稼ぐことが出来る奇跡の様な稼ぎ方だったのでアインスも感心していたのだ。

 宗八(そうはち)がソファに深く身を預けて今後の冒険者業に夢を膨らませている間に仕事を済ませてきたアインスが戻って来た。


「お待たせ致しました水無月(みなづき)様。こちらのアーティファクトでカードへ振り込みますのでカードの提出をお願いします」

 再び向かいのソファに座ったアインスは受付でも見た機械とカードトレーをテーブルに置き、トレーだけを宗八(そうはち)に向けて差し出して来た。そこへカードを乗せるとすぐに振り込み作業に入りものの1分ほどでカードがトレーに乗って返って来た。

「合計10,000Mölln(メルン)を振り込みました。ご確認をお願いいたします」

 1/2核を売った時同様に確認をして800Mölln(メルン)にまで減っていたお金が10,800Mölln(メルン)にまで増えているのを確認した。

「大丈夫です。ありがとうございました」

「こちらこそ以後気を付けさせていただきます。水無月(みなづき)様はこの後の冒険をどのように進める予定でしょうか?」

 アインスの質問に宗八(そうはち)は少し悩んで答える。

「レベルも上がっているので[イグニスソード]を装備出来るステータスに振り分けて奥に進むつもりです。幸いしばらくは稼ぐ必要は無くなったでしょうから」

「かしこまりました。買取所の向かいの建物がステータスの振り分けが出来る受付になります。あと、スライムの核ですが基本的に品薄ではありますので水無月(みなづき)様さえ宜しければあと80個までは纏めて買い取らせていただこうと考えております。以降は他の冒険者と同じ扱いになるので纏まった買取は拒否となってしまいますが……如何でしょうか?」

 金はあって困ることは無い。宗八(そうはち)は即決する。

「やります!」

 前のめりに応えた宗八(そうはち)の初々しい行動に思わず微笑ましい笑みを浮かべたアインスは、さっそく宗八(そうはち)用に指名依頼書を作製して手配した。帰り際に先ほど応対していた従業員が宗八(そうはち)に謝罪する一幕もあったが無事にギルドを退出してアインスに案内された振分所に向かう宗八(そうはち)の背をアインスは見送った。


「あれが召喚陣に突如現れた人物ですか……。王妃様が気に掛ける理由が少しはわかりますね……」


ひとまず、執筆出来ているのはここまでとなります。

無印版はもっともっと先まで執筆されているのでよろしければ、そちらで続きをお読みください。


読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、

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よろしくお願いします。

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