表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第01章 -王都アスペラルダ城下町編-
6/8

Ep:005[只人、城を出る]

 宗八(そうはち)とアルカンシェが顔合わせをしてから1週間が経った。

 人見知りだったとは思えない程アルカンシェは宗八(そうはち)に懐き、その様子をギュンター王もナデージュ王妃も微笑ましく眺めるに留めていた。十三歳のお年頃のアルカンシェは各国に婚約者候補の王族や貴族が居る。一人っ子なので婿を迎える予定ではあるが、国王たち自身が大恋愛結婚だったこともあり焦りも固執もしていなかった。

 しかし現実は非情である。せっかく仲良くなれた宗八(そうはち)が明日には城から出て城下町で宿暮らしになるという。


「お兄さん、本当にお城を出ちゃうんですか?」

 アルカンシェは本から目を離し、肩を動かし突いてくる。

「まだ、城の本読み切れてないんですよね?」

 隣に座っている宗八(そうはち)は答えた。

「そろそろって話は出ていたからなぁ。ズバッと決めないと厚意に甘えちゃっていつまで経っても出られないんだよ。どうせ時々城下町に視察に来るんだろ? その時にまた時間を作ればいいじゃんか。まぁ会える機会が減るのは確かだけど……」

 言い切ってからアルカンシェに視線をやれば明らかに落ち込んでいる。顔を合わせるのが遅すぎたのだ。アルカンシェが人見知り気味というのは城で生活する多くの者が気付いていたからこそ宗八(そうはち)にアルカンシェがここまで懐き、図書室では同じソファに寄り添いながら読書に勤しむなど誰が予測出来ただろうか。敬語も止める様に命令まで……。

 流石に肩を寄せ合って読書していたという事実を知っているのは——。

 国王、王妃、司書、そしてメリーだけだった。

 国民からはアスペラルダの至宝と評されるアルカンシェが一人の男にここまで許している事は今はまだ隠さなければならない事柄だった。


「事前に教えておいてもらえればダンジョンアタックは休みにするよ」

「ダンジョンクリアってどのくらいの予定ですか?」

 今までが対人戦の訓練に紛れて剣の扱いを学んでいた為、今回が初めての魔物戦なのだ。襲い掛かって来る恐怖に慣れるまでは色々と時間を駆けて試したいと宗八(そうはち)は考えていた。

「2~3か月かな。ボスを倒したらランク2ダンジョンがある町に移動予定」

 いつか勇者プルメリオが魔王を討伐し元の世界に帰るタイミングで宗八(そうはち)も元の世界へ強制帰還になると説明されている身としては固定PTを組むことは出来ない。なので基本的にはソロ攻略を進めるしかなく、時折臨時PTに混ぜてもらおうと宗八(そうはち)は決めていた。楽し気に今後の予定を口にする宗八(そうはち)にアルカンシェは不満そうだ。

「ふぅ……もっと早く勇気が出ていれば……。あっ、そうだ! ダンジョンに私も一緒に潜るっていうのは、どうですかっ?」

「さも良い事思い付いたみたいに……。俺はアルシェと一緒に潜る点は吝かじゃないけどご両親が許可しないと流石に連れて行けないからな」

 宗八(そうはち)の言葉にアルカンシェは先ほどとは打って変わって嬉しそうな表情で鼻歌まで歌い出す。城下町にあるランク1ダンジョン[死霊王の呼び声]の情報はギルドの資料室で調べが付いており、最年少だと十歳から潜っても良いらしい。ただし、低ランクのダンジョンはインスタントダンジョンと呼ばれる1PT毎にダンジョンが生成されて他のPTの助けを借りることが出来ない。ソロならもちろん全てを自分だけで補う必要がある分慎重に慎重を重ねねばならない。アルカンシェ曰く魔法使いらしいので後衛ならバランスは良いので一緒に潜る分には宗八(そうはち)は言葉通り吝かでは無かった。


 ——翌日。

 目覚めた宗八(そうはち)はまず二ヶ月世話になった自室の掃除を行った。どうせ部屋から出た後にメイドが改めて掃除することは知っているけれど気持ちの問題だ。感謝を込めて出来る限り綺麗にしてから陛下の執務室に向かう。基本的に謁見は午後からであり午前中は執務室に篭って書類仕事をしていると聞いた宗八(そうはち)はメイドに案内されて執務室に辿り着いた。


 コンコンッ!

水無月(みなづき)です。よろしいでしょうか」

 すぐにギュンターの声が返って来る。

「入ってくれたまえ」

 扉を開けて扉を閉める前に軽く部屋内を見回すとやはりナデージュが共に書類仕事を進めていた。

「予定通り本日で城から出て城下町に降りる事になりましたので最後に挨拶を、と思い伺わせていただきました」

「そうか、もうそれ程に時間が経っていたか……。最近アルシェと仲良くしてくれていると聞いていたから城を出るのはまだ先かと考えていたよ。このまま城に居てくれるなら養子にする話まで出ていたんだがなぁ……」

 コクコクと頷いているナデージュに宗八(そうはち)は内心で「事前に城を出ると伝えていただろ」とツッコミを入れる。

「基本的にはソロでダンジョンアタックする予定ですが安全面を考慮して時間は掛けるつもりです。なので二~三ヶ月くらいでしょうか……、そのくらいで次のダンジョンがある町に移動予定となります」

 これにナデージュは嬉しそうに反応する。

「では、ギルドカードを少し貸してもらえるかしら。ダンジョンの管理者に私の知り合いが居ます。きっと宗八(そうはち)にとっても良い出会いになると思うわ」

 言われるがままにギルドカードをナデージュに手渡すと王妃は両手でカードを挟むと瞳を閉じて集中する。一瞬手元が淡く光ったように見えたがそのままギルドカードを手渡された。何をしたのだろうか? 顔に浮かんだ疑問にナデージュが答える。

「うふふ。鍵を渡したのよ。彼は人目に触れない所で管理しているから」

 話し振りからダンジョンマスターに位置する人が居るという事なのだろうと宗八(そうはち)は推測した。


 その後も雑談を数度挟み、ついに別れを告げる。

「改めて色々とお世話になりました。次にいつ会えるかもわかりませんがアルカンシェ様にもよろしくお伝えください」

 ギュンターが笑いながら宗八(そうはち)の言葉に訂正を加える。

「私達は君を気に入っている。アルシェの事も公式の場で無い限り私達の前でも愛称で呼んで構わないよ」

「あ、はい。わかりました。アルシェにもよろしくお伝えください」

 うんうん、と頷き満足そうなギュンター。続いてナデージュの言葉が続く。

「宗八なら慎重に行動するでしょうし実際そこまで心配はしていませんがいつでも遠くから見守っていますからね。この城は貴方の家同然ですし、私たちは家族なんですからね」

 自然と家族認定された事の戸惑いを顔に出さない様に気を付けつつ宗八(そうはち)は感謝の言葉で答え部屋を退室する事とした。

「ありがとうございます。出来る限りは自分で頑張りますがどうしようも無いと判断した時はありがたく相談させていただこうと思います。あまり長居をしてもお仕事の邪魔になってしまいますので私はここで失礼させていただきます。改めてお世話になりました」


 一礼をして執務室を退室する。

 自然と王妃様から息子のように呼び捨てにされ「私たちは家族」と言葉にしていたが気にしないでおこう。突っ込みを入れたら負けだ負け。案内されなくとも出入口までの道は把握しているけれど案内役のメイドが部屋の前で待っていた為宗八(そうはち)は大人しくメイドの後を付いて行く。

 最後にアルカンシェに会えるかと期待していた宗八(そうはち)は後ろ髪を引かれる思いを抱きつつも門に近づいていく。


「——お兄さ~ん!」


 アルカンシェの声が聞こえた。後ろ、というよりは上から聞こえて来たと判断した宗八(そうはち)が背後を見上げるとテラスから身を乗り出して手を振るアルカンシェの姿が視界に入った。自分の居場所を知らせようと必死に手を振り宗八(そうはち)にアピールしてくる姿に喜びを禁じえなかった。


「お休みをもらったら会いに行きますからねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 人見知りだったアルカンシェが大きい声で叫んでいる。それに答えように宗八(そうはち)は息を吸い込み両手を口に添える。

「~~~っ!」

 息を吸い込んだところでここは人目が付く事を思い出した宗八(そうはち)は言葉を繕った。

「アルカンシェ様~!また、会える日を心待ちにしております!事前の連絡を忘れないでくださいねぇ~!」

 その言葉にアルカンシェはギュンターに似た満足そうな表情で何度も頷き宗八(そうはち)が城を出るまでその背中に手を振り続けていた。

読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、

広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると執筆の励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ