Ep:009[ポルトー=サンクス]
コンコンコン。
宛がわれた客室の扉が来客を知らせる。
「お兄さん、ご相談があるのですが。今よろしいですか?」
この城の王女なのに、ただの冒険者である宗八に対しても丁寧な対応をするので思わず笑ってしまう。
「はいはい、どうぞ」
そう声を掛けつつドアノブを回して扉を開け、アルカンシェを部屋へと招く。
さすがに一人ではなく、いつも城下町に来る際にアルカンシェの死角に入りつつ宗八には存在をアピールする侍女のメリー=ソルヴァが同行して入室する。
宗八は客室の主が座る場所と教えられたソファに座り、アルカンシェは来訪者用のソファへと自然と腰を掛ける。
打って変わってメリーは勝手知ったる客室なのか、室内に設けられた簡易キッチンへと向かい、ササっと菓子を皿に出してお茶の準備も始める。
「お兄さんはアスペラルダ流剣術の基礎のみを教練されたと聞き及んでいますが、魔法はどの程度ご理解されていますか?」
この世界は【五霊王】と呼ばれる精霊に守られている。
水の国アスペラルダ———水精王シヴァ様。
風の国フォレストトーレ———風精王テンペスト様。
土の国アーグエングリン———地精王ティターン様。
火の国ヴリドエンデ———火精王サラマンダー様。
光の国ユレイアルド———光精王ソレイユ様。
世界全土で精霊を信仰しており、尚且つ国全域を守護しているとのこと。
精霊王は数百年単位で交代する役職の様で、名前が判明している精霊王は誰かしらに【加護】を付与する”祝福”を与えたからだ。
その加護を与えられた人物こそ目の前で問い掛けてきた、アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダというわけだ。
ちなみに魔法は基礎的なものしか教えてもらえなかった。
その理由も教えてもらっているので宗八としては納得している。
「魔法の属性が水、火、風、土の四属性に光、闇の上位属性の計六属性。それぞれに有利不利の属性があり、裏属性も存在しているとか……」
アルカンシェは頷き、続きを促す。
「魔法を習得するには要求ステータスを満たした上で魔導書を読む必要がある……ってところ?」
「最低限は聞いているみたいですね。そこで提案なのですが、普段私に勉強を教えている宮廷魔導士から魔法について一緒に学びませんか? 戦い方や疑問などについても解説してもらえますよ?」
宗八は宮廷魔導士を思い出す。
以前、セリアには精霊契約について話を伺ったことがある。
その時の話を元にいろいろと用意をしてみたが、そこからどうすればいいのか……と悩んでもいたので、アルカンシェの提案は嬉しいものだった。
「実はセリア様に教えてもらいたいことがあったから、喜んで参加させてもらおうかな」
宗八の返答に、アルカンシェは上品に手をたたいて喜びの笑みを浮かべる。
「それは良かったです。ついでに珍しい全武器種を扱える兵士が見つかったので、お待ちになる間の訓練相手にお使いください」
アルカンシェはさっそく宗八の参加許可をもらうために急ぎ退室していった。
部屋を去ったアルカンシェに案内を指示されたメイドの後を追った先には、一人の若い兵士が待っていた。
訓練用の比較的軽い鎧を着ていても隠せないがっしりとした体格に宗八は目を奪われた。あちらも宗八の登場に気が付いたようで、軽く頭を下げて来る。
「彼が?」
宗八が問い掛けると、メイドは肯定する。
「はい。良い材料になると、メリー様が見つけて来た逸材です」
宗八は己の立場をよく理解していた。
王族に気に入られただけの異世界人が、命令とはいえ兵士の時間を割かせている——そう見られてもおかしくない。
「頭を上げてください。ご存じかもしれませんが、俺の名前は水無月宗八と言います。今回は協力していただけると聞いています。よろしくお願いします」
宗八の言葉を受けて頭を上げた兵士は、やはり宗八と歳の差はなさそうだった。
それでも筋肉の付き方や骨格が、細身の宗八が持ち得ない存在感を漂わせていた。
「初めまして、水無月様。私はポルトー=サンクスと申します。よろしくお願いします」
互いにあいさつをしてみたが、とはいえ、初対面の相手に何を話せばいいのか迷うのも無理はなかった。
とりあえず訓練場に移動して、現在の宗八の強さを見てもらうために模擬戦をする話になった。
「いきます!」
「いつでもどうぞ!」
木剣を構えたまま、互いの間にぴんと張りつめた空気が流れる。
訓練場には、チラホラ遠巻きにこちらを見守る兵士がおり、顔見知りの兵士も混ざっていた。
一瞬の静寂の後、宗八が先に踏み込んだ。素人目に見てもポルトーの構えは様になっていて、隙が少なく感じた。
「はああああっ!」
袈裟斬りに振られた宗八の剣は、見事に捌かれ受け流された。
しかし、滞在中に教えてもらった剣術ならば受け流されるだろうと予想が出来ていた宗八は、その勢いを加速させ、回転斬りを放つ。
軽く飛び上がりつつ、放たれた回転斬りは現時点の宗八が出せる最大打点だ。
回転により急激に加速して迫る横振りの剣に、ポルトーは見事に反応して見せる。だが、加速の伸びを甘く見ていたのか、木剣は半ばから砕け散る。
その瞬間、ポルトーの表情がわずかに揺らぎ、訓練場の空気もざわめきを見せた。
「……水無月様。次は普通にお願いします」
どうやら、ポルトーが確認したかった強さとは違うようだ。地力の部分を見せて欲しいらしい。
「ごめんなさい……。次は普通にします……」
宗八の剣術は基礎の部分を王国軍の教導官が教え、その後はダンジョンの魔物を相手に鍛えられたものだ。
倒す為の必殺技のつもりで時折使っていた技だった為、ついつい使ってしまった事を反省しつつその後は普通に模擬戦を繰り返した。
ポルトーは、都度武器を変えながら宗八の戦い方を観察していた。
「剣はかなり体になじんでいますね。動きにも無駄が少ない。ただ、盾が少し持て余し気味なので、いっそパリィを主体にしてみるのも一つの手ですよ」
ポルトーの指摘に左腕に装備された盾に視線が向く。
確かに剣の振りを意識することが多く活用はできていないな、と宗八は思っていた。
「パリィ主体にするなら、盾はどうすればいいんですか?」
その質問にポルトーは自身の装備を変更しながら教えてくれる。
「初級ダンジョンでは使う人は少ないのですが、このような腕甲がお勧めですね。きちんと防御にも使えますし、剣の振りの邪魔にもなりません。デメリットは衝撃がじかに腕に来るので、肉体を鍛えていないとメリットが少ない点でしょうか……。中級者以上が使う防具です」
「なるほど……」
武器防具店でもポルトーが装備するような腕甲は見たことがある。
しかし、盾に比べても品数が少なかったことから、使用者はあまりいないのだろう。
説明通りに駆け出し冒険者が多いアスペラルダでは、盾の方に軍配が上がるというわけだ。
「盾なしの戦い方は教えてもらえますか?」
ポルトーが頷く。
「もちろんです。それとずっと気になっていたのですが、水無月様はアルカンシェ様やメリー様の客人なので、水無月様は敬語を使う必要はありませんよ? 私は立場上使う必要があるというだけなので……」
あまり敬語が得意ではない宗八としては、ありがたい話だ。
だが、教えを乞う立場であることと客人の立場をかさに着て兵士に砕けた口調を使うのは常識的に気が引ける。
年齢的にもそう離れてはいないであろうポルトーに気遣われるのも逆にこちらが気疲れしそうだ、と考えた宗八はひとつの提案を持ちかける。
「じゃあ、俺は敬語をやめるよ。それでさ、ポルトーも訓練中だけはそういうのを抜いて相手してほしいんだ。アルシェたちにはちゃんと誤解を与えないように伝えておくから、これからは友人として接してほしいんだ」
立場は理解している。兵士が王族の客人に敬語を使わないのは拙いだろう。
だから、宗八が客人の立場を利用して許可をすれば、彼も気楽に宗八の相手ができるのではないだろうか?
宗八の提案を聞いたポルトーは一瞬ぼうぜんとした後、急に笑い出す。
「……くっ、ふふふ、ははははっ! うわさに聞いていた通りお人よしというか、貴族社会に慣れていないというのはわかりました。俺としてもその方が楽ではありますので、その話に乗らせていただきましょう。ただ、アルカンシェ様とメリー様の許可がもらえ次第ということでお願いします」
それは仕方ない。宗八は了承した。
「もう一つの友人になる。そちらはぜひお願いします。異世界人の友人を得たことは生涯の自慢になりますしね」
その日は、メイドが止めに入るまでみっちりと新しい戦い方をポルトーに教わった。
ポルトーも言葉遣いは固いままだが、気安い空気となったことで教え方の角が取れ、遠慮なく意見を言うようになった。
パリィをしやすい侵入角度などを手取り足取り教えてもらえたことで、ゆっくりであればそれなりに捌けるようになったが、それでも初歩の初歩だ。
剣を相手にしたときなどはマシなのだが、他の武器が相手になると途端にパリィができなくなるため、今後はそういう穴を埋める訓練を繰り返す予定となった。
彼とは長い付き合いになりそうだ、と新しい友人のことを考え、宗八は疲れた体で地面に倒れ込むのであった。
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