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新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第01章 -王都アスペラルダ城下町編-
1/8

Ep:000[勇者召喚]

この作品は下記『特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。』の修正版です。

https://ncode.syosetu.com/n4148ed/


2017年/7月から経験も無いまま溢れ出る創作意欲に任せて書き上げていた序盤の話ですが、作者自身が読み返す事も恥ずかしい出来であり、長編を書くんや!と無駄に高いやる気も相まって各話1万文字を越えている事も多く、修正が困難なこともありまして……。

ひとまず、時間を見つけて少しずつ書いて投稿して行こうと考えています。

改めてよろしくお願いいたします。

 勇者召喚時に発生した、天にも昇るほどの極光が消え──周囲には、召喚の余波で立ち込めた白煙が漂っていた。

 召喚に携わっていた面々は、その白煙の奥に動く人影を見つける。

 互いに魔力は枯渇し、満身創痍で立っているのがやっとの状態だったが──何よりも、彼らの目の前で同じ状態にもかかわらず、王族として背筋を伸ばし、辛さなど臆面もなく隠している年若い王女の後ろ姿が視界に入った。誰一人として、彼女の矜持を踏みにじりたくはなかった。


「ゴホッゴホッ! 何だよコレ……ゴホッ! 一体何が起こったんだ……ゴホゴホ!」

 白煙の向こうから年若い男性の声がした。

 戸惑いながら呼吸をすると白煙が喉を刺激し、咳が出ることを学んだ青年は、一旦息を止めて白煙から出ることを選んだ。状況がわからず視界が白一色に染まっている以上、危険も判断できないため、摺り足で白煙からの脱出を図った。ようやく視界が晴れた瞬間、綺麗な少女を筆頭に複数の男女がこちらを見上げていることに気がついた。


「え……?」

 青年は戸惑った声を上げた。

「ようこそいらっしゃいました、勇者様!」

 青年の戸惑いは置き去りにされ、王女が声を発した。彼女の言葉と共に、周囲にいた男女は頭を深く下げ、青年に礼を尽くしている。

「えっと、すみません……。まだ状況が飲み込めていなくて……。ここ……どこですか?」

 混乱が見て取れたのか、王女は一歩足を踏み出して再び声をかけてきた。

「ここは水の国アスペラルダ。私は貴方様を召喚した代表のアルカンシェ=シヴァ=アスペラルダと申します。貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 青年は答えた。

「俺はプルメリオ=ブラトコビッチです……」


 これが、勇者プルメリオとアスペラルダ王女アルカンシェの邂逅であった。

 ひとまず召喚時に想定されていた記憶の混濁が見られたプルメリオを、アルカンシェは客室へと案内した。


「改めて、勇者プルメリオ様。私の名はアルカンシェ=シヴァ=アスペラルダと申します。いろいろとご説明させていただきますが、その間にクッキーと紅茶を遠慮なく召し上がってください」

 テーブルの上に並んだ皿とカップを手で示されたプルメリオは、感謝しつつ手を伸ばした。

「ありがとう。アルカンシェ……さんは王女でしたっけ? じゃあ敬称も“様”って言った方がいいかな?」

 客室に入っても周囲を見回すのに忙しいプルメリオを、微笑ましげに見つめながらアルカンシェが答えた。

「そうですね。申し訳ありませんが……おそらく私は勇者様より年下でしょうけれど、身分階級のある世界ですので、そのあたりは気をつけていただけると、無用な諍いを減らすことができますね」

 アルカンシェの言葉に一理を感じたプルメリオは、理解を示して頷いた。

「わかりました。今後はアルカンシェ様と呼ばせてもらいます」


 混乱から復帰し、徐々に落ち着きを取り戻すプルメリオを前に、アルカンシェは人知れず息を吐いた。

 どうやら悪い印象は持たれていないようだ。勇者召喚は確かに、周辺国の協力あっての国家的事業だった。

 だが、それでも──アルカンシェは異世界人を「連れてくる」という行為自体を、簡単には認められなかった。あまり時間を置いても仕方がないので、ティータイムで落ち着いたプルメリオを連れて移動を開始したアルカンシェは、国王の元へと案内し、此度の勇者召喚を改めて詳しく説明した。


「──という事情で、やむなく勇者プルメリオを召喚したというわけだ。こちらの勝手な都合に憤る気持ちも理解できるゆえ、でき得る限りの力添えは約束しよう」

 アスペラルダ国王ギュンター=アスペラルダは、自己紹介と召喚の理由、そして魔王討伐の依頼を伝えた。

 その内容は、争いの絶えぬこの世界においても無茶な要求であると、ギュンター自身も理解していた。だが、世界情勢を鑑みれば、召喚せざるを得なかったという事情もまた否定できない。

 その無茶な依頼に、プルメリオは快活な表情で答えた。

「まっかせてくださいよ! 初めは確かに戸惑いましたけど、魔王を倒せば帰れるっていうならやります! いや、やらせてください! こういうの、憧れてたんです! すっごく嬉しいです!」

 その反応は、ギュンターも王妃もアルカンシェも予想していなかった。なおもプルメリオの興奮は続く。

「俺が勇者かぁ……感動だなぁ……っ!」


 アルカンシェは、異世界人という未知の知識を持つ人物に会うのを密かに楽しみにしていた。

 国王である父から勇者召喚の話を聞いたとき、この世界の問題を異世界人に任せるなど、人道的にもあり得ない選択だと感じ、各国にも、そして押し切られた父にも憤っていた。

 ただ、王都からほとんど出たことがないアルカンシェにとって、異世界の暮らしや知識に強い興味を抱くには十分すぎるほど大きな「釣り針」だったのもまた事実である。

 だが、この勇者プルメリオの様子を見て、アルカンシェの幻想は見事に砕かれてしまった。

 城下町の子どもと話す機会は多く、子どもでも王族として接するので期待も落胆もなかった。

 しかし勇者メリオの子どもっぽい反応を見て、「新しい価値観を持つ人物」に期待していた分、落胆してしまったのだ。

 イメージの押し付けではある。記憶が混乱していて、まだすべてを思い出していないとはいえ、本来なら元の世界や家族、友人のことをもっと強く気にするのではないか──と、アルカンシェには思えた。

 実際の勇者は、すでにこの先の冒険のことで頭がいっぱいのようで、今年十三歳になるアルカンシェが落胆したとして、誰が責められようか。


 メリオはその後程なくして城から城下町へ住まいを移した。

 武器の扱い方など生き抜くための基本的な事を教えた程度でメリオが勇んで城下町へ降りると言い出した時は流石に国王ギュンターも慌てた。聖剣などは流石に魔族領から最も遠い国であるアスペラルダには存在しなかったけれど、お金や市販品の剣を渡して放り出すなんて所業は考えが浮かぶことも無かった。きちんと順序立てて剣を扱える様にと色々と考えていた事は全て無駄となりなんとか届けたしばらくは困らぬほどのお金と兵士用に大量買いしていたアイアンソードを持ってメリオは早々に城下町に降り立った。

 今は冒険者ギルドで臨時PTを組んで宿に泊まりながらランク1ダンジョンを攻略していると聞いている。


 魔族との戦争は度々起こってはいるけれど国の上層部でその情報は止めている。

 民には混乱が起こらない様に気を配っているので勇者召喚の話も出回っては居ない。とりあえずメリオには数日中にユレイアルド神聖教国から選出された新米騎士が仲間になる為に来訪する事は伝えたのでそれまでは王都からも出ていく事は流石に無いだろうと監視を置いてひとまず好きにされる事になった。


「はぁ……」

 自室から兵士の訓練場を眺めながらアルカンシェは白い溜息を吐きだした。それを目にした専属侍女メリー=ソルヴァは問い掛ける。

「如何されましたかアルシェ様。また勇者様の事でも?」

 気の知れたメリーに考えが読まれアルシェは重い溜息を再度吐いてから振り向いた。

「……だってメリー。勇者様ってば、私と分かり合う時間すら惜しむみたいに、城を飛び出していってしまったのですよ……。ほんの少しでいい。話せる時間があれば……期待していた私が、馬鹿みたいじゃありませんか。確かに勇者様が想像していたよりは……アレだったけど……」

「幼かった、ですね。ですがアルシェ様だって時間を作ってまで会いに行かれなかったではありませんか。早い段階で苦手意識が出たとしてももう少しやり様はあったかと思いますが」

 メリーの抉る様な言葉に項垂れるアルシェ。その様子にメリーは微笑み紅茶を淹れる。

「あ~あ、異世界の話いっぱい聞きたかったなぁ」


 さらに数日が経ち勇者メリオは臨時PTでついにダンジョンボスを討伐するに至った。

 アスペラルダ王都にあるダンジョンはメリオがクリアした一つだけ。この報告に王宮はまた慌てる事になった。何せ勇者の仲間として来訪する予定の騎士は王都手前の町まで来ているはずなのにメリオがこのまま出発しそうな気配があったからだ。

 王城には出て行ってから寄った試しがない勇者をあと数日王都に留まらせなければならないと早急に冒険者ギルドに兵士を走らせてギルドマスターに相談をした。


「クエストで時間稼ぎですか? 正直この周辺でメリオ様が受けられる討伐にも限界がありますしその他だと常駐クエストになりますが薬草類も他の冒険者で十分回っているんですよ」

 冒険者ギルドの一室に通された兵士はギルドマスターのアインス=ヴォロートと相談していた。彼女は頬に手を当て悩む。

「冒険心や好奇心がとても高くいらっしゃり明日にでも王都を出そうな勢いなのです。どうにか騎士殿と合流してもらわないと色々と不拙くて……」

 誘拐という名の召喚をした為国としては強く行動を制限出来ない。しかし、各国が手配した若くして有能な仲間は魔王討伐には必要不可欠で出来得る限り早く合流をして絆を深め魔王を討伐してもらいたい。顔色の悪い兵士を前にアインスもなんとか頭をひねる。

「では、ギルドからボスドロップの緊急クエストを発行しましょう。期間限定で失敗しても一定の貢献度と報酬を約束して」

「おおっ!」

 アインスは喜ぶ兵士に冷静に釘を刺した。

「ですが報酬は王宮で用意いただきます。今後出発時に渡す予定だった装備とかを渡すチャンスだと思いますとギュンター陛下へ伝えてください」

「わかりました!すぐに確認をして報告に伺いますので!」


 兵士は部屋から飛び出すと城に向けて全力疾走を始めた。

 その姿を見送ったアインスは机から緊急クエスト用紙を取り出すとさっそくでっち上げを開始した。脇のチャイムを鳴らして部屋にやって来た職員に声がけも忘れない。


「メリオ様が見えられたら近日中に緊急の指名依頼があると伝えてちょうだい。報酬は弾むことも忘れず伝えて」

 職員は了承する。

「かしこまりました。受付の職員に周知しておきます」

「えぇ、よろしくね」

 部屋から職員が退出した事を確認したアインスは溜息を吐いた。

「ほんと……この国の人たち、平和ボケしてるからなぁ。メリオ様の行動力に、ついて行けるわけないか──はあ、また胃薬増えそう……」


 冒険者ギルドのギルドマスターの中でも王都のギルドマスターは特別で王族と繋がりも持っている。

 ギルド職員も他の町のギルドマスターもメリオが勇者という事は知らないが彼女は知っている。だからこそこの勇者召喚の裏事情にも精通しているし他国の筆頭ギルドマスターとも連携を取る事もある。これから魔王討伐までの間にどれだけ件の勇者が予想も出来ない行動をしでかし、そのフォローを頼まれるのかを考えて再び重い息を吐きだした。


 緊急クエストでの時間稼ぎは1週間稼ぐことが出来た。

 ギルドマスターらしく言葉巧みにメリオを説得し続け、放棄させることもなく1週間も時間を稼いだアインスは最終日の夜に職員を誘って酒場で大騒ぎしたくらいだ。ギリギリ仲間になる騎士が到着する、はずだったが再びどんでん返しが起こった。なんと先日の雨で地面がぬかるみ移動馬車が立ち往生する事件が起こったのだ。それに気づいた国王ギュンターは兵士に手紙を持たせて仲間候補の騎士の元へ走らせた。


「失礼する!この馬車にマクライン殿はいらっしゃるか!?」

 乗馬しながら一旦並走する兵士は御者にアスペラルダ兵士である事を伝えて客たちに向けて声を張り上げた。

「俺がマクラインです。兵士が出迎えてくれるなんて何の用ですか?」

 手を挙げ名乗る青年は真新しい鎧を身に付けたまさしく騎士だった。兵士が手紙を渡すとその様子に緊急事態と判断した青年は封を切ってその場で読み始めた。

「彼の者はすでに王都を出立しております。馬が乗れるのであればこの馬を譲りますのですれ違った移動馬車に追いついて下さい」

「馬は勝手に戻る様に調教されていますか!?」

 青年の言葉に兵士は笑った。

「もちろんです!さあ、行ってください!」


 兵士と青年の様子を見ていた御者が気を利かせて周囲を確認したうえでゆっくり馬車を止めてくれた為兵士の最後の発破を受けた青年はすぐに馬に飛び乗った。兵士は御者に迷惑料を支払ったのちに客として青年が座っていた席に自分が座った。

 国王は優しく通常業務以外で急がせた兵士にその分の金銭を渡していたので兵士はその後ゆったりと馬車に揺られて王都に帰還した。


 ——数日後、隣の町にある冒険者ギルドからの報告が届きメリオとマクラインが合流してPTを組んだ旨が国王に知らされ王宮はひとまずの安堵を得られた。その後すぐに次の騒動がやってくるとはこの時、国王も王女もギルドマスターも思ってもみなかった。

読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、

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よろしくお願いします。

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