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ヰ98 尊厳


呆痴彼女ストーリーモード第986章

『別の選択肢』


意識を失ったまま機械に繋がれた呆痴彼女、

才羽根楠(さいばねくす) 炎眼(えんめ)は、かつては焔のように赤かった瞳を、二度と開くことのない目蓋に閉じ込めて、

まるで大人しい少女のようにベッドに横たわっていた。

主人公(オレ)は、彼女の細い指に巻かれたバンドから伸びるケーブルと、

身体中に突き刺さったチューブを見つめ、

シュコッ、シュコッ、と規則正しく動くポンプの音を聞いていた。


……クソ。


いったい……彼女の尊厳は何処にあると言うのだ。これではまるで生きる屍ではないか。あの、誰よりも生意気で、元気一杯だった炎眼(えんめ)が……今の自分の姿を見たら何と言うか……。

機械のモーター音と共に、炎眼(えんめ)の痩せ細った喉に刺されたチューブを通して白い液体が注ぎ込まれていく。

同時にベッドの下に力なく伸びたカテーテルの中に、薄黄色の液体が流れて落ちていくのが見えた。


その時、「○○○(主人公)!!」と大きな声がして、病室の扉が勢い良く(ひら)かれる。


俺がゆっくりと顔を上げると、

声の主は……目の下に大きなくまを作った俺の顔を見て、一瞬(ひる)んだ。

「……ちょ、ちょっと??アンタ…アンタも相当参ってるじゃない!!だったらなんでよ?!なんでこのままにしておくの??こんなこと(▪▪▪▪▪)誰も望んでないでしょ?!」


水色の髪をストレートにした白徒洲(しとらす)霊紋(れもん)は、今は普段着の巫女服の赤い袴姿で、四角い紙を繋げた祓串(はらえぐし)を腰に差していて、帯の反対側には神楽鈴(かぐらすず)も刺さっていた。

その金色(こんじき)の柄には3段の輪が並び、下から7個、5個、3個と順番に鈴が取り付けられている。

別名、七五三鈴とも呼ばれるそれは、霊紋(れもん)が歩く度に、シャリンシャリン…と音を鳴らした。


○○○(主人公)!!アナタ、みんなを守るって言ったじゃない?!助けてくれるって言ったじゃない??あれは嘘だったの?!今すぐ炎眼(えんめ)を助けてあげてよ!!アナタは王立認定狼人ホームの介護福祉士なんでしょ!?今すぐ何とかしてよ!こんなのあんまりよ!!」

途中から俺の胸を叩きながら、霊紋(れもん)はぽろぽろと涙をこぼしていた。

……俺は自分の無力さを思い知りながら、少女の水色の髪を見つめていた。


「……俺は……医者(ドクター)ではないんだ……。それに、炎眼(えんめ)に生命維持装置を付けることを望んだのは………彼女の家族だ……。俺達にはそれを止めることは出来ない。」


「そんなのおかしいよ!!だいたい炎眼の家族は、炎眼のことを無視してたはずだよ?!こんな言い方したくないけど、あの人達は、炎眼が生きてようと死んでいようと気にしないタイプの人間だったと思うわ!!」と霊紋(れもん)が叫ぶと、「炎眼(えんめ)ちゃんをこの苦しみから解放してあげて!!」と言って、とうとうその場に崩れ落ちた。


俺は情けないことに、彼女を支えようともせず、ただその場に立ち(すく)みながら「ゴメン……俺には出来ないよ……」とだけ言った。


…………。


……彼女の家族が、炎眼を生き長らえさせている理由は簡単だ。彼女に支払われる年金受給額が介護費を上回るからだ。それをアテにしている家族は、彼女を殺したくないのだ。


だが…………殺したくないのは俺も同じだ。きっと霊紋だって本心ではそう思っている……。


……炎眼(えんめ)が目を覚ます可能性は限りなくゼロに近い……。それは分かっているんだ……。でも、でも、もしかしたら、今も彼女には意識があり、

今もただ夢を見ているだけかも知れないじゃないか。

……悪夢なら覚めさせてやりたい……。でも、……もし炎眼が楽しい夢を永遠に見続けているのなら……どんな形にせよ彼女が生き続けていてくれるのなら……。

炎眼の家族が彼女を生かし続けてくれていることに、どこか安心している俺もいる。

炎眼が苦しんでいるなら解放してやりたい……。でも、でも………。


いつしか俺の頬にも、涙が伝っていた。


それを見た霊紋(れもん)が、「分かってるよ…私だって……。無茶苦茶言ってるのは自分でも知ってる……。でもね、○○○(主人公)?可哀想な炎眼(えんめ)ちゃんに繋がっている、このケーブルを引き抜けば……、助けてあげられるんでしょ?解放してあげられるんでしょ?…でもそうすれば、今の法律では殺人になっちゃうんでしょ??炎眼ちゃんを助けることで、○○○(主人公)が犯罪者になっちゃうなんて、私はイヤ!そして私も……犯罪者になる勇気はない………自分勝手だよね、私……。笑っちゃうよね……?」

そう言うと、霊紋は疲れたようにベッドサイドの椅子に腰を落とした。


「……もう、幸せな時間、楽しかった時間は戻ってこないのかな……私、あの頃に戻りたい……」


諦めちゃダメ!() ()


震えるような声が、病室の消毒された空気を切り裂き、

俺は重い頭を上げ、聞き慣れたその声の主の(ほう)を向いた。


「……水鳥(みとり)……どういうことだ……」と俺は、からからに乾いた口を(ひら)いて言葉を発していた。


「……世界の望みが、全て叶うと言われるユリトロピアの庭で……、」とMEGAネケモ耳母音少女が、薙刀を手に呪文のように囁き始める。

「太古の昔、私達の祖先、智奉(ちほう)狼人(ろうじん)らは、MEGAネミミ(女神)様と契約を結んだの!そして、その約束はいまだ履行されていない……。私達は永遠の命と引き換えに、楽園を追放された民の末裔なのよ!」

「……しかし!」と俺が言うと、水鳥(みとり)は、1歩前に出ようとした俺を片手で制した。

炎眼(えんめ)ちゃんをこんな目に合わせた地獄ヘルパーと、ケアマネー邪を許してはいけないわ!」


「でも、今の私達じゃ…勝ち目はない!」と霊紋が叫ぶ。


「……そうね。今の私達じゃね(▪▪▪▪▪▪▪)……」と水鳥(みとり)が言った。


「ま、まさか、お前は俺に………もっとME・GA()チャ・クラを引 (ら)かせるつもりなのか?!」


「……そうよ。」と水鳥(みとり)が微笑む。「Z(ゼット)off(オフ)コラボアイテム第2段、『蒼き光を遮るMEGAネ』。戒護神具(サブ)クエスト・王国の謎『シッキングダムの秘宝』。

有償ジェムストーン限定『ネ⁄刀夜の死逸』。

特に今回の死逸(しいつ)装備は、霊紋のマントを赤く染めることの出来る、ファンなら必帯のアイテムよ!(サブ)クエの『ヒッタイト王国の秘宝』と合わせて、『神々の黄昏』を発動させることで、才羽根楠(さいばねくす) 炎眼(えんめ)の隠された能力を解放することが出来るわ!多分!」

「マジで?!それじゃあ有償ジェムストーンを買わなきゃ!」

○○○(主人公)~~、私、『ネ⁄刀夜の死逸』ガチで欲し~~~、買って買って~~」と霊紋が俺の膝にすがり付いてくる。


「よし。分かった……」と俺は言った。「だが正直なところ、無償での10連ではたかが知れている…。しかしながら2月28日までならバ連帯保証人キャンペーンで、たった1万円で100連を回せるはずだ。……あと2週間か…ここであと何回、回せるか……勝負に出るしかないな……」


「さすが○○○(主人公)!さすまる!サスマタ、猿素股(さるすまた)!」と水鳥(みとり)が笑う。「3月からは《予告》『お非難(ひなん)様、女子クレーマーの逆襲(仮)』も控えているからね!!運営も次から次へと、えげつないわね!」

「……がんばるぞ………」と、俺は小声で(つぶや)いた。


****************


呆痴決起の列に並ぶ弱者男性達は、各々が自分のスマホに向かい、ME・GA()チャ・クラを(ひたい)(ひら)いていた。


「お兄さん……ホントに課金してませんよね……」と、美少年向井(むかい)(れん)が言う。


「あ?うん?何か言った?」と設楽居(したらい)海人(かいと)が首を伸ばして列の先頭を見つめながら言った。

「……それにしてもむつ、遅いな。混んでるのかな。」


「え?は、はい、そうですね。遅いですね。」


「……ねえ、君、悪いけどちょっと見に行……いや、逆に順番を取っておいてもらえないかな。まだ列は動かなそうだし、俺、妹の様子を見てきたいんだ。」と海人が言う。


蓮は、「分かりました!お任せください!」と即答した。


「じゃあ、ちょっと行ってくるよ。……万一列が動き出した時の為に電話番号を交換しておこう……………よし。……じゃあホント悪いね。後で何か(おご)るよ。よろしく~」そう言うと海人は、そそくさと小股で列を離れ、一目散に2階に向かって走っていった。


…………。


………。


……さて。


向井蓮は左右を見渡すと、コートのポケットに手を突っ込み、

呆痴決起の列から離れていった。


先程からその様子を見ていた五十嵐(いがらし)葉南(はなん)は、救世主(メサイア)が列を離れた瞬間にすぐに後を追った。

入れ替わりに、尾刀(おがた)水鳥(みとり)の姿をした難波(なんば)鶴子(つるこ)がやってくる。


スマホに向かって俯いていた男性達の間で、どよめきが起こる。


「「み、みとり………」」ザワザワ……


リアル水鳥(みとり)はキョロキョロと辺りを見回し、相変わらず葉南の姿が見えないのを確認した後、

手に持っていた大きな白い紙袋の中に手を入れた。


そして、寝ないで研究を重ねた、水鳥(みとり)叡僥(えいぎょう)スマイルを完璧に再現してニッコリと微笑むと、

「無料体験実施中で~す!アナタモワタシモ今すぐ登録ぅ♡」と悩殺MEGAネ(ウイ)ンクを繰り出して、資料を配り始めるのだった。



『dignity』

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