ヰ95 それぞれの決意2
飛鳥めいずは、ゴールデンヘアを靡かせて、
70年代風コートの襟を立てながら、首から提げた一眼レフカメラのファインダー越しに、エモい朝焼けの街の風景を眺めていた。
あれから不信者に遭遇することはなかったが、
めいずは念のために外出中はカメラを持ち歩くことにしていたのだった。
カメラを顔の前から離すと、いつの間にか目の前に、夢かわロリのお秘め様コーデに身を固めた五十嵐葉南が立っていた。
「お待たせ。」と女子バージョンの葉南が、きゅるるん、とした声で挨拶をする。
「は、葉南ちゃん……可愛いです……」とめいずが思わず溜め息をつきながら、ピンク一色の少女に向かってカメラを構えた。
「おっと!?ちょっと待って。カメラはNGです……」と言って、葉南が素早くレンズに白い形代を貼り付ける。
「あ、申し訳ございません……。葉南ちゃんって写真撮られるの苦手でしたっけ?」
「うん。ボク昔からカメラは苦手で……忍者だから基本、小さい頃からカメラには写らない生活を送ってきたし……写されるとちょっと眩暈が……」
「意外な弱点ですね……」
「まあ弱点とは言っても、日々、死角に入って生活しているから平気だけどね」と葉南はニヤリと笑いながら言った。「ところで、めいずちゃんは不信者を撃退する為に、そのカメラを持ち歩いているの?」
「はい。そうです。」「重たいでしょ?形代を使ったら?」
「あ、いいえ……それはちょっと……」「ふうん?……ま、いっか。で、今日の相談はバレンタインの件だよね?ごめんねーめいずちゃん。こんな朝早くに来てもらっちゃって。……実はボク、今日は大忙しなんだ。
これからすぐに新宿に戻って、主の任務をこなさなきゃいけないのよ。」髪の毛に大きなすみれ色のリボンを付けた葉南が首を傾げ、上目遣いに背の高いめいずを見る。
「…葉南ちゃん、可愛い…」と、めいずはもう一度言い、「はい、その通りです師匠。バレンタインの相談なのです。」と顔の前で両拳をグッ!と握りながら顔を近付けてきた。
「……向井様へのチョコレート。実はまだ選びきれていないのです……」
「え?まだ?て、今日はもう当日よ。遅くないですか??」
「はい……向井様は地味なチョコがお好きでしょうから、色々と買ってみたのですが……どれもいまいちで……地味なものだと本気度が伝わらないと言うか……」
「なるほどね。」そう言いながら葉南は手首を裏返し、フリフリの袖から覗かせた金色の腕時計をチラッと見ると、早口で続けた。「そうね。でも、めいずちゃん?そもそもこの件でボクに相談しようと思ったのは何故?」
「……はい。葉南ちゃんなら男の子の気持ちを良く研究されていると考えたものですから。」
「まあ、そういうことなら……確かにボクは適任ね。……そうね。じゃあ言わせてもらうけど…男子って生き物はみんなガキだから、おまけ付きのお菓子でもあげときゃ喜ぶわよ。」と葉南は袖を戻しながら言った。
「おまけ付きですか?」
「そう。オマ毛付き。」葉南はそう言いながら、めいずの金色の髪の毛をジロジロと見て、そのまま目線を彼女の大人っぽい腰の方まで落とした。
「……まあ、それは冗談。」と葉南は笑い、「?」とこちらを見つめ返して、何かを言おうとするめいずを手で制した。
「そうね。チoコボールでもあげとけばいいんじゃない?」
「チoコボール?……ですか?」
「そう。金なら1枚。銀なら5枚。金のチoコボールが出たら大当たり。2つ揃えてお漏茶の振ルーツポンチ缶詰めをGET出来るのよ!…あ、そうだ、ねえ、めいずちゃん、見て見て?」と葉南は途中から興奮して、口から唾を飛ばし始め、より一層早口で捲し立てると、
金髪の美少女の前で、いきなり自分のピンクのフリルスカートをガバッ!と胸の辺りまで捲り上げてみせた。
「キャ?!」とめいずが思わず顔を手で覆う。
………その後、めいずがゆっくりと指を開いていくと……、
毎度お馴染みの脳犯な少女の腹部が見え……、改めて(んん?)と目をこすりながら二度見すると……、
夢皮に覆われた薄だいだい色の越智くんちが、小柄な少女の丸いお腹の下に、ちょこん♡とぶら下がっているのが見えた。
「な!な!なんですかそれは?!?」と、めいずが上ずった声で叫ぶ。
「どう?凄いでしょ?これ。研究に研究を重ねて、ようやく完成したのよ!まるで本物みたいでしょ!」
「な、なんでそんなものくっつけてるんですか??きょ、今日の葉南ちゃんは美少女のカッコウじゃないんですか?!」
「ああ、これって付けるのに結構時間がかかるのよ。ネットで特殊メイクの勉強もいっぱいしたけどさ、……どんなに急いでも1時間はかかるのよね……。で、今日は任務で男女両方を行き来する予定だから、前持って準備しておいた、というわけ!」
「な、なんの任務ですか??あ、いえ、聞きたくはありませんが……」
「アハハ、驚いたでしょ?それでね、実を言うとね~?これだけじゃないんだよ~、めいずちゃん、見ててね?驚くよぉ~」
葉南はそう言うと、1歩後ろに下がって、すぐ横のブロック塀に向かって体を斜めにすると、両手をお化けのようにしてスカートを摘まんだ姿勢で、おへそを前に突き出した。
葉南は悪戯そうに、首だけめいずの方を振り返り「それ!」と可愛い声を発する。
すると、お椀のように膨らんだお腹の下で、越智くんちがピクリと上に跳ね上がり、
次の瞬間、弧を描いてキラキラとした半透明の美ー夢が放出された。
……それは壁に当たりながら((じゅぅぅぅぅ……))と染み込んでいき、
やがてめいずと葉南の足元で白い泡を作りながら、冬の朝の冷たい空気にホカホカと湯気を立ち昇らせていった。
「うぎゃ~~~」と、めいずは美女らしからぬ悲鳴を上げ、ほとんど躓くようにして足を縺れさせながら逃げ出していった。
葉南は、「………」と無言で壁に向き直り、越智くんちの側面を優しく指で摘まんで、ピン!ピン!と軽く振ると、先端に残った雫を飛ばした後に指先で綺麗に拭き取った。そして片手で捲っていたスカートの裾をストンと元通りに下ろす。
……あら、驚かせ過ぎちゃったかしら……。まあね。これ、どう見ても本物だしね……。
ふふ……よし。これなら救世主も騙せるはず。
……計画はこうよ。
まずはロリ美少女の姿で近付き、「本命です!」と言ってチョコレートを渡す。…その場で救世主がチョコを受け取ったらロリ昆虫確定。もし、受け取らなかった場合は、即、キノコたけのこ男の娘☆作戦に変更よ。……設楽居海人の太いキノコと、ボクの皮つきたけのこをご対面させ、長い間続いていたキノコたけのこ戦争に終止符を打つのよ。
設楽居海人が恋態だとわかったら、ネルネ様にその旨をお伝えし、後はしりこ玉でも何でも抜いて、外に放り出せばいいでしょ……。
今日は鈍器法廷にネルネ様が直々に来る予定だし、そこで、この設楽居海人という男が救世主候補であったことをお教えし、同時に昆虫であることを暴けばいいのだから簡単ね。
自らの計画に興奮した葉南は、スカートの下で残響が太ももを伝い、白いニーソックスの片方を湿らせたことに気付き、
……この越智くんち、どこまでリアルなのかしら……と我ながら驚きつつアルコールティッシュで、沁みになる前に山吹色のスジを拭き取った。
……それにしても、この越智くんちってのは本当に便利ね……。思い立ったらすぐに抱擁出来るってのは素晴らしいわ。男が、どこでもこれをすぐに出したがる気持ち、……正直分からなくはないわ。
そう考えながら葉南は、ほとんど無意識のうちにベルト側から手を突っ込み、越智くんちをムニムニと触っていた。
……手触りにもこだわって作っている。
ネット上で調べた結果、本物の越智くんちの感触は、海洋生物のナマコとそっくりだと言うことだった。
葉南は某エ□島水族館にある『タッちんグプール』で、小さなサメやウニと一緒にナマコを素手でじっくりと触って研究してきた。
……フニフニした体は、しばらく触っていると固くなっていく。
……なるほど……。
でもそこまでは再現するのは難しそうね……。
いっそ、ナマコをお月又に挟んでおけばいいかしらね……。
まあ、これは今後の課題にしておきましょう。
ナマコが口から白いキュビエ器官をドピュッと出したのを見て、葉南はそっと手を塩水から抜いたのだった……。
あ!こんなことしてる場合じゃなかった。
設楽居海人と、設楽居睦美よりも先に新宿に戻らないと。
葉南は、スカートの中で越智くんちが揺れる感覚を楽しみながら、シュタタタタタ……と、人気のない道を走り去っていった。
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「……あなたねえ……」と、白ロリ服に、正装の黒い翼を付けたネルネが、
ハートのアップリケの眼帯を付けていない方の目で、呆れたように鶴子のことを見つめて言った。
「だから何度も言ったでしょ?女の子は女の子にチョコを贈ったりしないの。分かる?お、と、こ。お、ん、な。これは違う生き物なの。……ったく。そりゃ世の中、チョコメーカーの思惑に乗せられて、
…男女問わずチョコを買いまくって贈りまくる、
舌し彳〒ブームがあるのは知ってるわよ?
…でもね、おつう?うちは豊子キッズ。ブームを作る側にはなっても、踊らされる側にはなってはいけないのよ?お分かり?」と優しく、ポカポカとサスマタで鶴子の頭を叩いてやった。
「……あ、有り難う御座います……」と鶴子は赤面しながら俯き、「では、このチョコは御虎子に捨てて戴いて構いません……むしろそうして戴けませんでしょうか……」と小さな声で言った。
「バカ言わないの。私は食べ物を粗末にしないわ。食後のデザートにみんなで食べましょ。」「はっ!」
「……ところで、おつう?アレは完成したの?」
鶴子はゴクリと唾を呑み込み……「はい、完成致しました。御待たせしてしまい誠に申し訳御座いませんでした……」と言って、
鈍器で買ったマメイロ・クロズミがプリントされたタオルにくるまれた、細長い物体を差し出した。
ネルネは期待に満ちた眼差しをそれに向け、「開けなさい」と右手を差し出しながら言う。
「はっ!」と鶴子は短く答え、
バサッとタオルをほどいた。
……ネルネの目の前には、
波打ちながら途中から螺旋状になった白い杖があり、
2匹の蛇が絡み合いながら先端でディープキスをしている造形を、鶴子が誇らしそうに主に見せていた。
「蛇のデェープチッスは、貴女のオリジナル?」とネルネが静かに言う。
「はい。ネルネ様の前衛的なイラストには、色々と解釈可能な部分があった為、構造上、補強の必要な場所も多く、耐久性の観点からも創作を加えさせて戴きました。これは蛇がお互いの毒を飲ませあっている構図です。瞳には、ネルネ様のお部屋をお掃除した時に落ちていたパワーストーンを嵌め込ませて戴きました。」
「なるほどね……。ちょっと持ってみていい?」「はい。勿論。これはネルネ様の物です。」
ネルネは杖を受け取ると、上から下までジロジロと舐め回すように観察し、ブンブン、と振ってみた後、
よっこらしょ♡と立ち上がり、
口を噛み合わせて首をハートの形に曲げた2匹の蛇の上に脇を挟んだ。
「なかなかいいんじゃない?」
「あ、有り難う御座います。」
「合格よ。流石、おつうね。」ネルネの背中で黒い翼がピコピコと動く。彼女の黒いマスクにはサメのようなギザギザの歯がプリントされていて、目尻には歌舞伎メイクに似たピンクのアイラインが引かれていた。
「と、ということは……恐れながら…ホワイトデーのお願いを、き、聞いて戴けるのでしょうか……」と鶴子が小さな声で言う。
「え?何だっけ。私、何かそんなこと言ってた?」
「は、はい。硝子の詩憫のお手紙にそのようなことを……。」
「あれえ?そうだったっけ?ホワイトデーて男から女の子に返すやつじゃなかったっけ~てへぺろ☆ネルネ間違えちゃった~」
「そ、そんな……」
「いや、ごめんなさいね、おつう。ほら、知ってるでしょ?私、忘れっぽくて。でもね、そう言ったのなら約束は守るわ。女子に二言はないって言うでしょ。で、何をして欲しいの?」
鶴子は緊張したように、深呼吸をし、一度目を閉じると、渇いた口の中から掠れた声で言った。
「乃望竹千代さんに会わせて下さい……」
「え~~~、そう来たか……」とネルネは杖の先に付いたゴムをトントンと床に試し突きしながら呟いた。
「貴女、倫護カンパニーの人間でしょ?目的はそれだったの~?」
「……も、申し訳御座いません。」
「謝ることはないわよ。どうせ、貴女のことだから、不遇な人生をいいように利用されたうえでの、今の境遇なんでしょ??あ、もしかして、家族が人質に取られてるとか?奴隷戦士には有りがちよね……」
「ネルネ様には何もかもお見通しで…」
「まあいいわ。貴女、カンパニーで働き続けたいの?それにもよるわ。」
と、ネルネは偉そうにふんぞり返りながら言った。
「………本当は、出来ればカンパニーから逃げたいのですが……ご推察の通り、私に裏切りは許されません。」
「そう……。まあ、チヨさん次第だから、あまり期待しないでね。じゃ、今度ちょっと相談してみるわ。これでこの話はおしまい!さ、そろそろ出掛ける時間よ。予言書によると、今日の呆痴決起に救世主が来るらしいからね。」
そう言うとネルネは片足で立ち、ブン!と杖を振って心の中で『セプテルミヌーヴァ!!』と唱えると、クスクスと笑うのだった。
『Each person's determination2』




