ヰ81 楽しいバスタイム
総合複合施設『エッサイム』のコインランドリーに飛鳥めいずを残し、
五十嵐葉南は大浴場へ向かっていた。
1人で残ることを不安がるめいずを必死に宥め、ランドリー部屋の四隅に白い形代を立ててあげると、
「じゃ、めいずちゃん、洗濯をヨロシク!」と言って、葉南は備え付けのバスローブに着替え、歩き去っていった。
念のため、しりこ玉の入ったビニール袋を片手に提げ、それをブラブラと振りながら廊下を進んでいく。
更衣室の手前まで辿り着いた葉南は、
…少し考えた後、髪を無造作に掻き混ぜると、青いサインの表示された男性用の方に入っていった。
中にいるのは3人。
太った中年男性1人と、若い大学生2人組。
大学生はタオルを腰に巻き、中年男性は手ぬぐいで前を隠していた。
葉南はバスローブを脱ぎ、自身も素早くタオルで前を押さえる。
……さてと、っと
ロッカー内に、ビニール袋に入ったしりこ玉をぶら下げ、上からなぞるように丸い形状を触ってみる。
改めて指の関節で球の直径を測り、そのまま素知らぬ顔をしながら葉南は、自分の指の先端を女傑の穴に軽く入れてみた。
……全く無理ね。
葉南はその指を鼻先に宛てて、しばらく考え事をする。
……(くんくん)……山神は、このしりこ玉をどうするつもりだったのかしら?山神は男よね?(くんくん)…て、ことは奴にとって、このしりこ玉には何か、他の御利益があるはずよね。それが何であるか……
……やはりボクが試してみるのが一番早いのだろうが…(くんくん)……この大きさではとても無理よね。
それに、よく考えてみたら、これって不信者のしりこ玉よね……。このシリコンボールは、いわゆる、おじいちゃんが書き残していた普通のやつとは違うものなのかも知れないわ。はっ?!も、もしかして恐ろしい副作用でもあるとか?!
……あらやだ。これ、めいずちゃんに試させなくて良かったわあ……。(くんくん)
…そこら辺にいる普通のおっさんのしりこ玉を抜いてみて、いっぺん試せればいいんだけど………流石にそれは犯罪よね。
葉南はそのまま大浴場に入っていき、3人の利用者達から一番離れた所で湯船に浸かると、
前を隠していたタオルを湯の中から出して、ジュボボボ…と搾り、それを折り畳んで頭の上に乗せた。
……ふう。
あったまるわ……。
あのしりこ玉……やっぱりここに持ってきてみようかしら。
試しにこのお風呂に入れてみたら、効能があるかどうかを確かめられるんじゃない?
女傑に入れられないんなら、どうせ、ボクが持ってても仕方ないしね。…ただ気になるのは山神のあの焦った態度。あのシリコンボールには何か秘密があるはず……。
葉南はザバァ……と、お湯を滴らせながら立ち上がり、誰もこちらを見ていないのをいいことに、
タオルを頭に乗せたまま、髪を洗う中年男性の横をスタスタと通り過ぎていった。
そして葉南がガラッと横開きの扉を開けて更衣室へ戻っていくタイミングで、チラッと後ろ姿を見た大学生は、
背中の蒙古斑を興味深く眺めていた。
****************
しばらくすると、先程の少年が、腰にタオルを巻き直し、手にビニール袋をぶら提げて戻ってくる。
先に入っていた男性達は、そちらを振り返ることもなく、
くつろいだ様子で湯船に浸かっていた。
タオルを腰に巻いた少年は、一度左右を見渡すと、ビニール袋の中に手を突っ込み、粉っぽい白のバスボールを取り出した。
そして、それの臭いを嗅ぎ、くるくると手の中で回しながら観察をすると、
おもむろにポイッと湯船の中にバスボールを投げ入れる。
白い球は、ポチャン、と音を立てて一度沈むと、すぐに水面に浮かび上がってきて
シュワワワワ………と泡を出して溶け始めた。
少年は興味深そうな様子で、それをじっと見つめている。
やがて、白い球は形を崩し、バラバラに四散すると、更に細かい泡となって消えていった。
…………。
………。
……なによ?これだけ?
葉南はガッカリして、湯船に近付き、その中へ手を入れようとする。
ピチョン………
やけに静まり返った大浴場内に、
お湯を蹴るような、静かな音がこだました。
葉南は背中にゾゾゾ……と鳥肌が立つのを感じ、手を入れる前に跳ねるようにして立ち上がる。
ギュルルルルル………
おおっとぉ??この気配は……不信者じゃないの?……やあね。いきなり出てきたわね……。
……いや、ちょ、待って?!
葉南は瞬時に理解した。
湯船の中で、3匹の不信者が、身体を奇妙な方向へ捻じ曲げて「うみゅ……せべ……あガぺ………」と口から泡を吹きながら何事かを呟いているのが見えた。
中年の不信者が、こちらに気付き、湯に足を取られながら膝を揺らして近付いてくる。
顔には満面の笑みを浮かべ、歯をカタカタカタカタ……と鳴らす。男はすぐに浴槽の外へ飛び出すと、だらしなく膨らんだ腹を床のタイルに滑らせ……、
そこからは急に恐ろしいスピードで移動してきた。
カサカサカサカサカサ………
即座に葉南は、「暗、氾!蝕、槃!咖隷、叛!」と連続で印を結ぶと、後ろに飛び退きながら、手近にあったシャンプーを掴み、
中身を勢いよく床にぶちまけた。
ツルッと滑った中年不信者は、そのままの勢いでペンギンのように腹を下にして、奥に積まれた風呂桶のタワーに突っ込んでいく。
ガラガラガシャ~~ン!
葉南は腰に回したタオルを締め直し、
……なるほどね。了解。
……しりこ玉から溶け出したエキスか何かが、この3人を不信者に感染させたのね……と考えていた。
……逆に言うと、彼らは昨日の不信者の能力を三等分して受け継いでいるのではないかしら??
…多分、そういうことね。……きっと山神は、あのしりこ玉から昨日の不信者の能力を吸収出来ることを知っていたのね…。にしても不信者というものは、女子を見抜く能力が凄いわね。もうボクが女だってことがバレたわ…。
考え事をしていた葉南は、ん?と意識を前方に戻し、
……さっきまで視界に捉えていた大学生2人の姿が消えていることに気付いた。
まずい!?
葉南はここから脱出しようと足の裏で床を蹴り、跳躍しながら身体を捻ろうとした………はずが、
いきなり両脇から筋肉質の大学生男子の体を持った不信者2人にガシッと押さえられ、
そのまま身動き出来なくなっていた。
ヤバイ!!
葉南の顔から血の気がさあっ…と引く。
2人の若く力強い不信者達の硬い肘が、自分の両方の脇腹に当たってくるのを感じる。
そんな中、散乱した風呂桶の間から、中年男の姿をした生き物が四つん這いのまま起き上がるのが見えた。それは、毛の生えたぶよぶよとした腹を床に擦り付けながら、
体を海老反りにして、腰をヌルヌルする床に押し付け、どこか気持ち良さそうに目をとろんとさせつつ葉南の方へにじり寄ってくる。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ………
葉南は大学生の拘束から逃れようと、必死に踠き続けた。
中年男性の顔をした不信者が、葉南のすぐ前まで這い寄ってきて、
優しい先生のように、にっこりと笑う。
黒い点のある脂ぎった鼻をテカらせて、この禿げかかった男は、頬を少年みたいに赤く染めると、
葉南のお腹の前で、並びの悪い黄ばんだ歯を見せた。
そのまま、その口で葉南の湿ったタオルの端に噛み付き、ゆっくりとそれを下に引っ張っていく。
しっかり両腕を押さえている不信者2人が、更に体を寄せてきて、猿のように鼻の下を伸ばしながら、葉南のお腹の下から現れるであろうものを覗き込んできた。
……その時だった。
大浴場の扉がガラリと開き、
ベージュ色のコートを着た男が靴のまま浴室に入ってくるのを、葉南は視界の端に捉えた。
不信者達の動きがピタリと止まる。
「アハハ……どうぞ、どうぞ、君達。続きを行いたまえ。僕に遠慮することはないよ?」
「や、山神!お前、まだいたのか!?」と、葉南が辛うじて威厳を保ちながら強い口調で言う。
「アハハ……五十嵐葉南くん…いやあ、無様だね。愉快、愉快。やはり思った通り、君はシリコンボールを隠し持っていたんだね?……そしてあろうことか、それをこのお風呂で使用した。
……結果、奴の力が、そこの哀れな3人に移ってしまったというわけか。」
楽しそうに山神は、黒い手袋を外すと、爪の先まで綺麗にやすりをかけた長い指を出し、
シルバーの指輪を輝かせながら手を擦り合わせた。
「そうだね…君のようなタイプはスピードで戦うのが得意だろうからね。奴が3人に分割してしまうと、力が弱まる代わりに3人同時に相手をしなければならなくなるから不利になってしまう。……だがね。僕にとっては……奴の力が三等分になってくれたことは逆に好都合。これなら僕でも御せるね!」山神はそう言うなり、コートを翻して飛び込んできた。
そして「失礼!」と笑顔で言うと、
腰を低くしてバッ!と腕を振り下ろした。
思わず目を閉じた葉南は、
……急に静かになった辺りの様子に戸惑いながら、恐る恐る目を開けてみた。
それと同時に、両脇を掴んでいた2匹の不信者が腰砕けになって床に、ペタンと座り込み、
目の前の中年不信者は、脚を開いてうつ伏せになったまま、まばらな毛の生えたオシリスを痙攣させて「ん、んん……」と喘ぎ声を上げているのが見えた。
葉南のタオルはまだ腰に巻かれたままで、…モロザシにはされていなかった。葉南は赤くなった腕を擦りながら、山神の方を振り返る…。
…彼の大きなマジシャンのような手の指の間には、3個のしりこ玉が挟まれていて、
その位置を器用に左右に入れ替えながら、山神は「アハハ……」と笑っていた。
「やったぞ!これで、僕は更にパワーアップ出来る!五十嵐葉南、君のおかげで僕はより強力な不信者になれるよ。これを体に取り込めば……
僕は肉体面でも最強の存在になれる!!お礼を言わせてもらうよ!」
楽しそうに笑う山神を見て、葉南は迷わず自分の腰のタオルを剥ぎ取ると、それを山神の顔目掛けて投げつけた。
びちっ!「うは?!」
葉南は一瞬、蛙のように腹を出しながら腰を低く落とすと、
思い切りジャンプし、山神の手からしりこ玉を奪いながら彼を飛び越え、
後ろの壁を蹴って三角飛びし、浴場中央の背の低い敷居壁の上に着地した。
山神が慌てて自分の手を見ると、しりこ玉は一つだけになっていた。
「くそ!」と山神が言い葉南の方に顔を向けると、彼女の手に2つのしりこ玉が握られていているのが見えた。「山神?そうはさせないわよ……」
タオルを投げ捨てた山神は、真顔になり、「……返したまえ…」と言うと、
スッと、コートの前を開け、流れるような動きでスラックスのベルトを引き抜く。
葉南は、手に持ったシリコンボールのせいで、印が結べないことに気付き、チッと舌打ちした後、半歩後ろに下がり、足元に何か役立つものがないか、足の指先だけで探し始めた。
山神は、少女の目の前で、コートを着たままブリーフ姿になると、小さなしりこ玉を持った手を背中側から突っ込み、ゴムの内側にそれを差し込んだ。
山神は「うっ……」と顔をしかめ、
一瞬、爪先で立ち、顔を真っ赤にして、ぶるぶると震え出す。……やがて涙が頬を伝い、痛みを我慢するようにギュッと目を瞑り、深呼吸をすると…最後に静かにズボンを上げた。
俯いていた顔が徐々に上目遣いになって、ゆっくりと顔を上げていく。そして山神は微笑んだ。
その間、葉南は足元にあったシャンプーボトルをシャコ、シャコ、シャコ、シャコ……と何回もプッシュし、蛇口のお湯を混ぜて発生させた大量の泡で即席のビキニを作ると、それを身に纏っていた。
葉南が足の指に触ったプラスチックの柄杓を肩の高さまで蹴り上げ、その中にしりこ玉を放り込んで左手に持ち直したところで、
「……あははは…感じるぞ!!ち(ん)からが増大して、漲ってくる!!(ッ)気力も持続するぞ!!あははは……凄いな!奴のパワーは!!」と山神が叫ぶのを聞いた。
「……アナタ大丈夫?ボクが見たところ、
昨日のアレは矢豆⌋┃⌊でhow-Kだったわよ?」と葉南が言う。
「ほう。そうかね?では五十嵐葉南くん、今から僕のパワーハラスメントを見てみるかね?」
「……結構よ。」
「たった3分の1でこの効果……。これは凄い……。さあ、五十嵐葉南?怪我をする前にその2つのボールを渡しなさい。」
葉南は泡のビキニ姿で山神に対峙し、緑色の柄杓の中で、2つの玉を遠心力でコロコロと転がしながら、
「このタマタマがそんなに大事?」と言った。
浴室の床に力なく横たわる3人の男性。
葉南は舌なめずりをして、自分の唇の上から塩分を補充する。
…油断は禁物よ。今ボクが相手にしているのは、不信者の中でも、かなり危険な個体。
一瞬の判断ミスが命取りになるわ。
……しかし今はこの2つのタマタマが、足枷でもあり、…逆に事を有利に運ぶ鍵にもなる……。
葉南は右手だけで
「免!」「装!」「隷!」「タム!」と印を結び、
山神の正面に張り巡らされている、見えない第一結界を解除しようと試みた。
「無駄なことはやめたまえ。」と山神が言う。「パワーアップした今の僕には、そんな小手先の術は効かないよ。」
なるほど……これは本格的にヤバいわね……。
葉南は額を流れ落ちる汗が、バブルビキニに落ちて肩紐が溶けるのを感じつつ、柄杓の中に右手を入れ、タマタマを指で転がしてみるのだった。
『Enjoy bath time!』
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