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ヰ80 3番テーブルの戦い


ここは駅前にある大型スポーツジムチェーン『エッサイム』。


5階ラウンジの3番テーブルに、五十嵐(いがらし)葉南(はなん)は腰掛け、

飛鳥(あすか)めいずが来るのを待っていた。

今日の葉南は、真面目な優等生女子の姿で、モガのような髪型をヘアピンで留め、丸く湾曲した額を出す、アールおデコスタイルだった。

昭和のデパートガール風の、黄色い細身のワンピースは、豊子キッズ難波(なんば)鶴子(つるこ)が用意してくれたもの。生地には横向きに赤のステッチが入っていて、大きな白い襟の両サイドには、レトロなリボンが飛び出していた。


……やれやれ。救世主(メサイア)テストの会場に予定していた高周波音入れは、昨日の事件によって一時閉鎖、改装工事に入ってしまったわ……。

ひとまず計画は延期ね。


防犯カメラの丁度死角になっているこの3番席で、五十嵐葉南は、店の名物メニューの一つ、『BLTサンド 、トマト抜き』を注文し、

……添えられた2本のソーセージをフォークでつついて赤面していた。


「葉南ちゃん、お待たせ致しました。」


金髪の美少女、飛鳥(あすか)めいずが、急いで走ってきたのか、息を切らせながらテーブルの横に立つ。

葉南も立ち上がって、めいずを出迎える。


「あら葉南ちゃん……かわいいです。」


めいずは目の前にいる、小柄な少女から薫り立ってくる石鹸のような清潔な空気を胸に吸い込み、ニキビひとつない丸いおでこに沿った前髪の、柔らかい艶のある輝きを、優しい目で見つめていた。

そのギャラクシーな視線を見つめ返した少女は、


「ところでめいずちゃん……その格好は……?」と言って目を逸らした。


「あ、師匠。気付きました?最近の(わたくし)は、たゆまぬ努力の成果でそれなりに『声をかけづらいオーラ』を出せているようなのですが……まだまだ他校の男子生徒などに声をかけられる事例が後を断ちません。なので……今日は皆に怖がられるようなファッションにしてみたのですが…。どうでしょう?(わたくし)丁度、金髪ですし、うまく出来ているでしょうか?」


「えーっと……その首にしているのは、謎チョーカーよね……。現物を初めて見たわ。

……そしてルーズソックスに、胸を強調した襟デカの白シャツ。更に腰にまいたカーディガン……。めいずちゃん…それ、オタクに優しいギャルになっちゃってるわよ。」


「え?なにか違いましたか?ギャルは一般人から恐れられ、話しかけられづらい為、孤立できると聞いたもので…。」そう言うと、めいずは項垂(うなだ)れた。


「まあ、いいわ。とにかく座りましょ。めいずちゃんは何か頼む?」

「あ、はい。では、この『皮つきバナナのモロへいや出汁(だし)入りスムージー』をいただきます。」

「あら、おいしそう。」

「……ここ、本当に穴場ですよね。あまり、人にお教えしたくない名店です。」と、めいずは言いながら椅子に座った。


数分後、エッサイムの黒い制服を着た女性スタッフがスムージーを運んできて、縦長のプラスチック製のカップがめいずの前に置かれるのを見届けると、

葉南は「さてと。早速だけど…」と言って、足元に置いていた紙袋を膝の上に乗せた。


「お雛祭りの件よね?丁度、昨日いいものを入手できたのよ。」


「……入手、と言いますと…?」すでに若干の不安を感じながら、めいずはストローに口をつけ、

chu -☆と軽くすすった。


葉南は、ガサガサと紙袋に手を入れ、

布に包まれた何かをテーブルの上にポンと置く。


「な、なんでしょうか……そちらは。」


「昨日、偶然手に入れたのよ。」と、葉南は色白のお人形さんのような顔をこちらに向けて言い、少し興奮した様子で、布に包まれた何かを開梱し始める。


はらり……


紫色の光沢のある布が(ひら)き、

……その中央に、表面が微かにざらついた白いバスボールのようなものが現れた。


「え、えーっと…」

と、めいずは生唾を呑み込みながら静かに言った。


「しりこ玉よ。」


「し……?そ、それはなんでしょうか?」


「……亡くなった祖父(おじいちゃん)の巻物に書いてあったんだけどね?どうやら、このしりこ玉、女子がオシリスの門に入れると、一定時間、男になれるらしいのよ。」


「………」


「………」


「は、はい??!い、今なんとおっしゃいましたか???」


「え?分かりづらかった?つまり、この玉を女傑の穴に入れると、……男になれる(▪▪▪▪▪)らしいの。……結構、これ大きめだから、……多分お腹の中で溶けるまで丸1日くらいかかると思うわ……だからその間は、効果も持続するはずだから……めいずちゃんはお雛祭りの間中、ずっと男でいられると思うのよ。」


「ちょ、ちょ、ちょ、待ってください?!そ、それを入れるのですか??なんか大きくないですか?!で、今の話、『くらい』とか『らしい』とか『と思う』とか、ひとっつも確証のないお話ばかりでしたよね?!?そ、それ安全なんですか?いったい、それ、どこから持っていらしたんですか??!」

めいずは思わず大声を出し、他の席の客達がこちらを見る。


「めいずちゃん、しーーっ!!」と葉南は唇に人差し指をあてがった。

「これを何処から持ってきたかは内緒だけど、……多分こんなに大きいのは、今後もなかなか手に入らないわよ?で、これを使えば、ひとまずお雛祭りは回避できるはずね。めいずちゃんだから、特別よ?本当はボクが使ってみたいんだからね?一度、ボクも本当の男になってみたかったんだけど…、めいずちゃんが困っているようだから譲ってあげるわ……。」


「け、結構です!で、では、それは葉南ちゃんがお使いください……どのみち、わ、(わたくし)には、そんな大きなものは入りませんから……」と、めいずは最後の方は小さな声で言った。


「そう?じゃあ、これはやっぱりボクが使わせてもらおうかな。……でもまあ、確かにこの大きさは入らないかなあ。」

「……ですよね?」

「穴を広げるような訓練が必要かしらね…」

「そ、それはどのような訓練なのでしょう…」

「さあ……。そこまではおじいちゃんの巻物にも書かれてなかったわ。」


「あの、お嬢さん方、失礼ですが……」


急に落ち着いた若い男性の声がして、2人の少女がギョッとして顔を向けると、

……そこには身なりの綺麗な、ベージュ色のコートを着た男が立っていた。葉南が素早くしりこ玉に布を被せて足元の紙袋へ入れる。


……カシミヤのチェスターコートに黒い手袋。パリッと糊の効いたスラックスと、今磨かれたばかりのような黒い革靴…。

滑らかに梳かしつけられた黒髪には艶があり、額の生え際でゆるやかにカールして、上品にセットされていた。


淡い香水の薫りを漂わせながら、男はもう一度「失礼ですが。少し宜しいでしょうか?」と言った。


話しかけられても押し黙ったまま、男を無視する師匠に変わって、めいずが「…あの、何かご用でしょうか?(わたくし)達は見ての通り子供です。大人の(かた)が、改まって、(わたくし)達に何かご用がございますでしょうか?」

と、警戒しながらも淀みなく返事をした。


男は、「アハハ。僕は別に怪しいものではありませんよ。」と言い、「どちらかと言いますと、そこで黙ってお座りになっているお嬢さんの(ほう)が怪しい、と申しますか……」と葉南の横顔を可笑そうに見つめながら囁いた。


「……どういうことでしょう?あまり変なことをおっしゃいますと、(わたくし)、人を呼びますよ?」とめいずが微かに顔をしかめながら言う。

「おお、怖いですね。……いや、違うか。本当に怖いのはここにいる可愛らしいくノ一(くのいち)さんですよね?」


葉南がゆっくりと顔を上げる。そして静かに指をエンガチョの形にして、胸の前に持っていこうとしたところで…、

男が「おっと、イガラシハナンさん?妙な真似はやめたまえ……」と言って黒い手袋をした手で、葉南の手首を掴まえた。

「だ、だれか!!」とめいずが叫ぼうとするのを、葉南が片手で制する。


「…は、葉南ちゃん? 」「めいずちゃん…、下手に動かない方がいいわ…」

「…ど、どういうことですか?こ、この人はどなた…ですか?」


「申し遅れました。」と、端正な顔立ちをした若い男が葉南の手を離しながら言う。「僕の名は、山神(やまがみ)仁花(にけ)。……葉南さん?そのシリコンボール(▪▪▪▪▪▪▪)をご返却頂けませんでしょうか?」


「……お前、不信者(アンビリーバー)だな……」


「ふふ。僕らのことをそう呼ぶ者もいますね?最近、この周辺を荒らす、不届きな母娘(おやこ)がいると聞きましてね……ほら、つい昨日も、うちの歩兵(ポーン)を1人、刑務所送りにしたらしいじゃないですか。」


「…嘘をおっしゃい。昨日のあれ(▪▪)歩兵(ポーン)なわけないじゃない。……それに、何よりこのシリコンボールを取り戻そうとしにきたことが証拠よ。あの個体は、あんたらの重要な構成員の1人だったんでしょ?」

「………。まあ、隠しても仕方がないですね。……その通り、昨日貴女が倒したアンビリーバーは……、知能こそ低いですが、この縄張り(エリア)内に多く生息する野良アンビリーバーを纏めるのには丁度良い、恐怖の対象でした。あいつも昨日は油断したのでしょうが……まあ、正直、この僕でさえ、あれ(▪▪)を抑えておくのが難しかったくらいですがね。」

「……ちょっと待ってよ?このシリコン玉が何故必要なの?(臣又)者夕仏を終えた不信者(アンビリーバー)は復活出来るはずでしょ??」と言って葉南は紙袋を足に挟み、山神(やまがみ)と名乗った男を睨んだ。


「………」


「……喋り過ぎたようですね……さあ、早く返してもらいましょうか?」山神はそう言うと、机の下にある後醍芭(ゴダィバ)の紙袋に手を伸ばした。


「……やめなさい。それ以上動くと……アナタの大切なタマが溶けてなくなるわよ?」


山神の動きがピタリと止まり、首を(かし)げるような仕草で、葉南の足元に目線を落とした。


葉南のモガ風ワンピースから付き出す、…キュッと引き締まった白いハイソックスに覆われた脚と脚の間に、

口を開けたままの紙袋が挟まれているのが見える。


「少しでも動いてごらんなさい??この紙袋の中に才黄(サイキ)ッコ・ビームを放出するからね?」

「ハハハ……なにをバカな?君のような美少女が、そんなことが出来るはずがないだろう?」山神が腰を曲げ、手を伸ばそうとした瞬間、


…ボチョボチョボチョボチョボチョ……


と、紙袋内に重い液体がぶつかる音がして、葉南が「あら……残念!」と言って笑った。


「クソッ!なんて小娘だ!!お前?わかっているのか?!そのシリコンボールはな??そう簡単には入手出来ないものなんだぞ?!」


ふやけた紙袋から沁み出してきた黄色い液体が、店の白い床に溢れて流れてくる。


山神は、革靴が汚れないように1歩下がり、

……やがて急に笑い出すと、

「ハハハ……今日のところは君達の勝ちだ。

ああ……そこの横の綺麗なお嬢さん?君は夜道に気を付けたまえ。あと、この危険な少女とはお付き合いするのはやめた方がいいよ?」と言い、

高らかに笑いながらラウンジから出ていった。


「…心配しないでいいわよ、めいずちゃん。」と葉南が言う。

「この紙袋の中には、しりこ玉は入れていないわ。めいずちゃんのバッグに放り込んでおいたの!」


「心配しないで…って、そっちですか??わ、(わたくし)、夜道の(ほう)が心配です!」


「ああ、そっち?」と、葉南はビショビショになったスカートを搾りながら言った。「……今の男は多分、この地域の不信者(アンビリーバー)本当の(▪▪▪)親玉ね。それにしても変に気取った奴だったわね……。変態のくせに。……まあ、めいずちゃんは大丈夫っしょ。

ああいう()()を拗らせたような生命体は、美人過ぎる女性には手出しできないものなのよ。少なくともアイツは、めいずちゃんに危害はくわえないわ。アイツの言っていた通り、ボクと一緒にいる時の方が危険かも。

不安だったら念のため一眼レフを持ち歩いたら?100連写くらいしたら、そこら辺の有象無象の不信者(アンビリーバー)なら、悲鳴を上げて消滅するから。」

「わ、わかりました。では(わたくし)、明日からカメラ女子になります……。」

「そう不安な顔をしないで!わかったわ。今週中には地域の不信者(アンビリーバー)を壊滅させといてあげるから。…山神(やまがみ)仁花(にけ)…変な名前……でもアイツ…ちょっと強いかも…。」葉南はそう言うと、めいずの足元の荷物籠から、布にくるまれたしりこ玉を引っ張り出した。

「……これって、男になれる以外の効用があるのかしら??まさかお風呂に入れたら、フィギュアが出てくるとか……」


めいずは、師匠に腰に巻いたカーディガンを貸してあげ、「葉南ちゃん?お風呂に入ってから帰りますか?」と聞いた。


『The Battle of Table 3』

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