ヰ78 文化交流
天然の金髪を靡かせて、大陸の美少女、飛鳥めいずが通学路Bを進む。
その傍らに、おまけ少女、設楽居睦美が辺りを警戒しながら歩いていた。
「大丈夫ですよ。設楽居さん。ここ最近、地域の見守りパトロールが功を奏したせいか、不信者?とかいったものは出なくなったとお聞きしていますよ。」と、めいずは涼しい顔で道の真ん中を堂々と歩き、近くの電柱に並べられたペットボトルをちらっと見やった。
「……いや、めいずちゃん…あれ、ホントに怖かったのよ。今でも夢に見るわ。念のため夜の水分は控えているくらいよ。」と睦美がブルブルと震え、自分のモコモコシルバージャンパーの腕をギュッと握り潰した。
「そうなんですか…私、夜、寝る前にハーブティーを飲むことを何よりも楽しみにしておりますので、同情致します。」
「……めいずちゃん?アナタ、地味な人生を送るとか言ってたのはどうなったのよ……メイクもなんか凄いし……」
「アイラインをちょっと引いたくらいですよ?あとは、ほぼ素っぴんです。ハーブに関しましては、私、万人受けするようなカモミールくらいしか嗜みませんから。ローズヒップとハイビスカスのブレンドのような、派手なものは好みませんし。…ところで設楽居さんはどのようなハーブティーがお好きですか?」
睦美は心の中で『麦茶よ……』と思ったが、黙っていた。
2人の視線の先に、以前不信者が出没した電柱が見えてくる。
思わず睦美は、めいずのコートの裾を、手袋をした指で掴み、背の高い美少女の後ろに隠れた。
「大丈夫ですよ、設楽居さん。日本は諸外国に比べると凄く治安がいいんですよ。私、驚くことに日本に来てから一度も危ない目に合ったことなどございません。」
「そうなの?」と睦美がピタとめいずの背中にくっつきながら言う。
「そうですよ。私、来日してからは毎日が驚きの連続でした。」
「例えば?」
「そうですね。まずこうやって、子供だけで登下校出来ること自体が驚きでしたし、あと、自動販売機の多さ!多種多様な飲み物がいつでも何処でも買えること!しかも自販機が喋る!」とめいずが興奮して喋り出した。
「まあ、あと高周波乙女淹れが無料で利用出来ることでしょうかね?中国ですと、全て憂慮うです。」
「へえ。日本て凄いんだ……」
睦美は何だか自分が褒められたような気がして、得意気な顔をして「中国ってやっぱなんか怖いよね。日本サイコー」と言った。
めいずがピタ、と立ち止まる。
「ん?めいずちゃん、どったの?」
「設楽居さん……。それ、日本人の悪いところです。何でも自分の国が一番…と勘違いしている節があるじゃないですか?」
「え?でも新幹線とか、フジヤマとか、ゲイシャとか、スシ、テンプーらとか?凄くない?」
「新幹線とか、何年前の話ですか……。いつまで『新』を名乗るおつもりでしょうか。……だいたいですね……私、色々な日本の習慣について、文句を言いたいことが沢山あります。あなた方、気付いていないだけで、結構変ですよ?実は一度ハッキリさせておこうかと考えておりました。」
急に荒ぶり出した大陸の女神に、睦美はビックリしながら、コートから手を放した。
「え?めいずちゃん、この素晴らしき『アジアの突然へンいタイ天国』邪パンに不満があるの??」
めいずは、後頭部から阿法華を飛び出させた設楽居睦美を見て溜め息をつき、
「はい。一杯ございます。例えば……」と言って立ち止まり、遠い目をしながら言葉を続けた。
「……まずは家に帰った時に靴を脱ぐことでしょうか。」
「え?中国だと脱がないの?」
「……まあ、これは地域にもよりますが、普通は脱ぎません。特に子供は脱ぐと風邪をひくから、と、どの地域でも推奨されていませんね。」
「え?そうなの?でもずっと履いたままだと汚なくない?て、ことは一日中履いてるの?蒸れて臭くならない?」
「え?脱いだ方が臭くありませんか?あと日本人は脱いだ後のものを玄関に並べておくじゃないですか?汚れのついた内側も見えてしまいますし、あれ、恥ずかしくないのですか?」
「……玄関に並べる……?いや、そんなこと考えたことなかったわ。でも、めいずちゃん、じゃあ海外の人は履いたままで音入れにも行くの?」
「…と、当然です。音入れなんて特に汚ないではないですか。」と、めいずが怯えたような表情をして言う。
「え?ちょっと待ってよ、めいずちゃん?履いたままで音入れって……びちょびちょになるわよね……?」「びちょびちょ?……ああ、そういえば、日本人は音入れに入る時、なにか花柄のパステルカラーのに履き変えますよね?あれも変じゃないですか?他の人が履いたものを兼用にするんですよね?不潔な気がします……」
「けん(に)よう……?めいずちゃん?何か勘違いか混同していない?けん(に)ようする場合には、特別な容器があるのよ?
そして履き変えるってなによ?めいずちゃんが言ってるその日本人家庭?特殊過ぎない?で、履いたままでするって?パステルカラーの花柄って…それひょっとしてオムレツのこと言ってるの?それなら履いたままでも出来るでしょうけど……でもそれ使うなら、音入れに入る意味ある??」
「私に聞かれましても……。逆に日本の方にお聞きしたいです。」と、めいずが答える。
睦美は、
……まあ、私は全部脱がないと出来ないクチだから……それはそれで特殊なのかも知んないけどさ……と一瞬考えたあと、
「じゃあ外国の人は、いつ脱ぐのよ??」と聞いた。
「眠る時は脱ぎますね。」とめいずが、ギャラクシーな瞳を輝かせながら答える。
「眠る時にね……確かなんかそういう健康法を聞いたことがあるような気がするわ……」と睦美が言った。「……で、日本への文句はそれくらい?」
「まだまだありますよ。」
「……寒いわ。立ち話もなんだし、ちょっと歩きましょう…」そう言うと睦美は、ジャンパーのポケットに手を突っ込み、鼻をすすると先に立って歩き出した。
「私が日本の小学校に来て一番驚いたのは……
……"ルシ∋ン文化ですね。休み時間になると女子は2人1組で乙女淹れに入るという風習には、本当に驚きました!ニーハオ乙女淹れもビックリです!」
「今のめいずちゃんを"ルシ∋ンに誘える猛者はいないでしょ……。まあ、私も1人が好きだから気持ちは分かるわ……」
「ですよね?!あと、つい先日行いました『節分』とかいう儀式。……あれも理解に苦しみます。」
「どのへんが?」と、睦美が先日の豆まきを思い返しながら尋ねる。……毎年恒例。歳の数だけ設楽居家では、バタピーを食べる。
『ママちゃんは、24個ね!』と言いながら、母花織がポリポリとピーナッツを歯で砕く。『こんなに食べたら、ママ、明日の朝にはニキビだらけになっちゃう~。海人くんはニキビだらけのお母さんより、ビキニのお母さんがいいよね~?』
『母さん……、そういう話は父さんに言ってくれないかな……』
『ちょっと待ってよ、お母さん?!抜け駆けは許さないからね?!お兄ちゃんは私のSSS《School Swim Suit》の方がいいよね~?』
『むーちゃん??それは反則よ?じゃあママだって学生時代の体操着を着て、創作ダンスを踊っちゃうからね?!』と、花織がプンプンといった顔をしながら叫ぶ。
『お兄ちゃん、こっち見て!睦美、こーーんなに太いの咥えられるんだよ?凄いでしょ!』
『なあに、むーちゃん?!はしたない!』
黒光りした太いeho巻きを咥える娘を見て、花織が母親らしく怒った声を上げた。
『ふ~んだ!お母さんは、こんなに太いの咥える必要がないもんね~~??』
それを聞いた設楽居父が、ショボン…と肩を落とす姿が見えた。
「……節分……楽しいじゃない。めいずちゃん、節分の何が問題なの?元々こういうのって全部中国がルーツじゃないの?」
「日本は独自の発展をさせ過ぎです!中国にはこんな行事はありません!
だいたい『服は~うち、お庭~外』って何ですか?!?この寒い季節に、子供の服だけをうちに残して、お庭に禅羅で放り出すだなんて!!それ、虐待ですよ??」
「まあ、さすがにうちも6年生にもなって、もうそんなことはしてないけどね?でも小さい頃は設楽居家でもやってたわよ?悪い子はネ⁄果でお外に出ていなさいって……。泣きわめく私を、お兄ちゃんが優しく毛布で包んでくれたわ……。(やだ……またあのプレイしたいかも……。)」
「とにかくですね?」と、めいずが軽く語気を荒らげて睦美の横に並びながら言う。「日本の土着そ信仰に根差したであろう、これらの風習には……私、全くついていけません。これらは外国人には全く理解不能なものなのです。クリスマスには倦怠期ー、バレンタインにはチョコレート、ハロウィンにはコスプレ大会……日本の方達はおかしいですよ……。」
「ふうん……で、めいずちゃんはバレンタインはどうするの?あの井伊直弼にチョコはあげないの?」と睦美が半分興味なさそうに、義務で聞いた。
「……ああ、そのチョコの件なのですが。shiriで調べてみたところ、チョコレートにも色々種類があるとのことですよね?」と、めいずは言いながら愛・不穏17を取り出した。
パツキンの色白少女が、ピンクに輝く爪で華麗にスマホを叩く姿を見て、
睦美が「め、めいずちゃん、愛・不穏に変えたの??あれほど嫌がってたのに?!」と叫ぶ。
「ああ、これですか?私、よく考えてみたのですが、ここ日本では女性は愛・不穏を所持していた方が目立たないということに気付いたのです。有象無象に溶け込むには、この方が良いみたいですね。アンドロイドは、若干引かれるという良さはありましたが、『あ、アンドロイドなんだ……』と、相手に変に気を遣わせる側面もあったので、…そういうのも何か面倒でしたので機種変更を致しました。」
「………まあ、アナタは半分外国人だから……、その失礼な態度も自覚がないのでしょう………まあ、その、あれね。ジャンルは違えど同じ美少女仲間として大目に見てあげようかしら………めいずちゃんのニイハオ乙女淹れとかの話を聞く限り、異文化同士の交流には…双方の歩み寄りが必要よね………睦美、我慢よ……日中友好。パンダ外交の為よ……」
「?…それで、設楽居さん?先ほどのチョコレートの続きなのですが。shiriが言うには、ぎりチョコという、ぎりぎりチョコではないチョコがあるらしいですね?」
「あ、めいずちゃん、それはダメよ!」と気を取り直した睦美が慌てて言う。「ぎりチョコは、嫌いな人にあげるものだから!!
ぎりぎりチョコに見える「あ(*)るもの」を下駄箱とか、机の中に突っ込んでおくものなの!最近は学校や職場での、ぎりチョコ文化は廃れてきてるというけどね。あれは本当に悪しき風習よ!貰った男子は相当、傷付くから。まあ、私は井伊直弼がどうなろうと知ったことではないけどさ、
……あれ、一日中臭うし、めいずちゃんはやめてね!」
「そ、そうなんですか。日本恐るべし。……じゃあ『トモチョコ』って言うのはなんでしょう?」
「ああ、それは『トモだチョんコ』ね。これ以上は言わせないで……このチョコは男子同士の告白の際にあげるものよ……めいずちゃんには関係がないわ。」
「ルールが難しいですね……じゃあ私は、この『本命チョコ』というものを向井様に差し上げればいいのでしょうか……?」
「そうね。それが無難よ。でもね?それだけじゃインパクトが足りないと思うから、お手紙を添えるといいわ。」
「お手紙(※中国語訳)をですか??」
「ええ。そうよ。最近はデジタルが多いから、丹念に穴炉具でね。匂い付きのものなんていいんじゃない?私も同棲している幼馴染みに贈るつもりよ。マン年筆は、私にはまだちょっと早いけど、今年はね、ガラスペンに挑戦しようと思っているの!ガラスペンて知ってる?ツルツルスベスベの溝に陰クを這わせて、紙に少しずつ垂らすの。ちょー可愛いんだから!あと、こういうのってさ?カリ具らふぇーって言うの?今イッパイ練習してるんだ。」
「……日本の風習って本当に不思議ですね…」めいずは、通学路の脇にぶらさがったCDを見つめながら言った。「前から気になっていたのですが、あのCDは音楽が入ったものなのでしょうか…」
「ああ、あれは多分、推しのライブチケットの抽選を当てる為に大量買いしたCDね。余ってるから吊り下げてるんだと思うわ。」
「日本に来た時、私は、あれは害獣を寄せ付けない為にしていると、聞きましたけど。」
「そうなの?ネット上には嘘の情報も多いから気を付けてね?AIとwwwikiの情報を丸飲みにしちゃダメよ?」
設楽居睦美は、前方に見えてきた自分のうちを見つめながら、
「あ、そうそう、めいずちゃんはお雛祭りどうするの?ほら、女の子のお節句。誰かにお呼ばれしてる?それともお友達をおうちに招くの?……この日ばかりは私も兄上を出禁にして、
おうちで舌しXパーティーするつもりだけど、…もし、めいずちゃんが誰からも誘われていないなら…ご招待しましょうか?」
「いえ、結構です……」
めいずは、(しまった、3月3日のこと、すっかり忘れていたわ……)と背中に汗をかき、
御守りに肌身離さず持ち歩いている、師匠からいただいた白い形代を、
ポケットの中で握り締めた。
『International exchange』
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