ヰ77 対リンゴ戦争参謀本部にて
「理科室の椅子に背もたれがない理由をご存知ですか?」
ピンクのスケルトン眼鏡をかけた短髪の少女、土田優茉が、
手札から黄色の6を2枚、同時に場に出しながら言う。
実験台の黒い天板の上には、UN(K)Oの戦場が展開され、
周囲には真剣な表情をした、少女達の顔が並んでいた。
「ん?それは、なぞなぞ?エロいやつ?」と、
幸運の、超ピラ子少女、近藤夢子が、
胸の裸陰を強調した白いセーターの前で、20枚以上のカードの整理をしながら言う。
「あ、いえ、なぞなぞではないですし、エロくもないのですが…」
「じゃ、興味ないわ……」
「危険な実験中に、背もたれがあると、素早く避難できないからよ。」と白装束の三浦詩が、手持ちのカードを出しながら言う。すぐに「あ、なによこれ?6じゃない?9かと思ったわ。」と詩は舌打ちをしてカードを引っ込めた。
それを見た夢子が「ガハハハ……」と笑い、「さすが部長ね。シックスナインとは畏れ入るわ。……にしてもこの椅子はお尻が痛くなるわよね。」と言った。
「ですね。背もたれがないから、防災頭巾をひっかけられませんしね。」と優茉が言う。
「ああ、防災頭巾と言えば…」と夢子が嬉しそうに4枚のカードを同時に出しながら口を開いた。
「あれ、なんのかんの言って6年間使うじゃない?だからカリメリでさ、血と汗が染み込んだ女子小学生のやつが高額で取引されてるわよ。…私も卒業したら売ろうかしら。」
「それ、ホントですか?!それが事実なら……ツチダはまだ5年分しか熟成しておりませんが、部費の足しにする為に、今すぐにでも売りたいです!」
「やめなさいよ。」と詩が顔をしかめながら言う。「小ガネ稼ぎの為に、あと1年間の安全を犠牲にするつもり?大地震の時、後悔するわよ。」
「確かに……」と優茉がショボンとする。
………。
詩は心の中で、
……あの防災頭巾に才ム"/機能を付けておけば、ある一定の割合で子供達の身に起こる授業中のあの悲劇を回避出来るのに……。と考えていた。
もし、私が将来その道の第一人者になれたなら…、全国の小学校にこの頭巾を導入して、彼らの尊厳を破壊する虎馬級の大惨事から子供達の未来を守れるのに……。決壊するダムに子供達が落ちないように、私は彼らを受け取められるような、そんな人間になりたい……。
ハイウェストの黒いジーンズと白いチョッキを着た優茉が、リスのように歯を出して嬉しそうに「UN(K)O!」と叫ぶ。
「……あなた、異様に強いわね……」と夢子が呟く。
「す、すみません。ツチダごときが調子に乗りました……。UN(K)Oと言うのが2秒ほど遅かった気もします……ペナルティとして2枚取りますのでお許しくださたい……」
「いや、そういうのはいいのよ。あくまで実力で勝っているのだから…普通にプレイしなさい。」と夢子が言うと、優茉が「ではお言葉に甘えて……ドロリつーっ……」と言い「私も、どろぉり、つ~っ」と詩がニヤケながら言った。
「むはっ」と夢子は白目を剥き、「……容赦ないわね……」と言いながらカードを取った。「おおっと?出たわよ…。喰らいなさい!『再生のリバー・フェニックス!』このカードが場に出ている間、全てのプレーヤーのストリームが逆流する!」「ムハッ?!」
「………ところで、土田さん?部費が必要って……あなたのところのシンブンブン、経営難に陥ってるの?」
「ハイ。三浦センパイ……正直、赤字で倒産寸前であります。……先日の我々のチ。環逮捕の記事と、相撲大会ネタには、ある程度の反響はありましたが……向井センパイの憤怒シ姿をカラー印刷にした為に……ギリギリ赤字でした。」
「紙印刷をやめれば?特殊紙の取り寄せにコストの大半を使ってるじゃない?」と詩が、タブレット上で、新聞部の収支報告書を見ながら言う。
「しかしながら三浦センパイ。その紙印刷こそが、我がシンブンブンの存在意義でもありますので……。それが出来ないのであれば、いっそ廃刊に……。近藤センパイ?エロ4コマ漫画、また連載してもらえませんでしょうか……。」
「いいけど、原稿料を貰うわよ?」
「……やめておきます。」と優茉が項垂れながら「UN(K)O…」と言った。
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「ところでさ。」
夢子が実験机を背もたれにして、椅子に逆向きに座り、胸の山脈を反らせながら言う。
「3組の飛鳥めいず、愛・不穏に変えたらしいわね。」
「マジで?!」と詩が言う。
「ちょっとちょっと……あの子、今日も睦美と一緒に帰ってるわよ。学校側が防犯上、下校班を組んでるからしょうがないと思ってたけどさあ……。睦美に変な影響を与えないか心配だわあ…」
「ちょっと待ってて」と言って、詩は自分のタブレットを取り出し、何かを打ち込み始めた。
「三浦センパイ、なんすかそれ?」と優茉が横から覗き込む。
「学年内の愛・不穏所持比率よ。」「ほう。」
「本校の6年生で、こちらが把握している範囲で、女子の6割が愛・不穏。1割がアンドロイド。3割がまだ所持していないわ。後、例外で私と近藤夢子は、ガラケーね。」「フィーチャーフォンと言いなさい。で、男子の比率は?」と夢子が聞いてくる。
「そっちは調査対象外よ。興味ないし。あ、転校生は愛・不穏だったわね。
……いまや3組のカリスマとなった飛鳥めいずが倫護カンパニー側に転向したことによって……3組の女子は全員陥落する可能性すらあるわね……」と、詩が険しい表情をして言った。
「それを調べてどうするつもりなんですか?」と優茉が言う。
すかさず夢子が、「設楽居睦美を守る為よ。」と口を挟む。
「……したらい…むつみ、さん。以前から皆様の話題に上るお方のようですが、どなたでしょうか?他ではあまり耳にしたことのないお名前ですが。」と優茉がタブレットで6年生の名簿を呼び出しながら言った。
「……設楽居はね…アンドロイドなの。少女型炉リボットね。コードネーム:『ライム』。動く球P体関節人形よ。私達は、設楽居を守る為に結成されたチームなの。あの子を純正品のままに保つことが私達の使命。愛・不穏に代表されるイマドキ女子のアタマカラッポな生態から、最も遠いところに彼女の存在を保全するのが我らの目的よ。作戦名、『ライムぎ畑でつかまえて』!」「…相変わらずアンタは…ぶれないわね……」と近藤夢子が呆れたような顔をして呟く。
「……なので、本校ではなるべく愛・不穏を使用する女子は少ない方がいいわね。アンドロイドは、言われなき差別と迫害を受けているから。」
土田優茉は、自分が愛・不穏を持っていることを言わなくて良かった……と心の中で考えていた。
「あ、そうだセンパイ方。愛・不穏と言えば、今度この近くで倫護カンパニー主宰のセミナーが開かれるみたいですね。」
「セミナー?なにそれ?」と詩が言う。
優茉はタブレットを数回叩き、「これです。」と画面をこちらに見せてきた。
『倫護カンパニーによる愛・覇奴を使ったアプリ作り』
『ダうんこーディングで学ぶプログラミング学習。10歳以上のお子様におすすめです!』
「は!倫護カンパニーは恐ろしいわね。……こうやって小さい頃から刷り込みを行うのね。…興味ないわ!」詩はそう言うと、まだ机に散らかっていたUN(K)Oを手で集め、片付け始めた。
「……ねえ、私達って最近ここでUN(K)Oばっかりしてるけど、先生にバレたらマズイわよね。」
「ああ、それなら大丈夫よ。理科の剣持先生なら大抵のことに目をつぶってくれるから。」と夢子が言う。「実は私ね、あの人が休日に駅前でパチンコしてるところを見ちゃったのよ。」「「ほわっ?!?」」と 詩と優茉が大きな声を出す。
「なんかその日の剣持先生、パチンコで凄い大当たりを出したらしくてさ、
偶然、通りかかった私が、…店の入り口近くの台で、パチンコを出してる先生を見かけたってわけ。……で、口止め料として理科室を自由に利用させてもらってるのよ。」
「そ、そ、そ、それ、新聞に書いていいですか??」と 優茉が真っ赤な顔をしながら叫ぶ。
「ダメよ。」と夢子がピシャリと言う。「先生も人間よ。きっと魔が差しただけなんだと思うわ。まあ、私も本物のパチンコを見れて、良い社会勉強になったしね。先生もあの日は凄く酔ってたみたいだから……、それに今は反省しているみたいよ?お酒もやめたらしいし。ほら、生徒の前でパチンコ出したくらいで、人生を終了させられるなんて可哀想でしょ?なんか年老いたお母さんと二人暮らししているらしいし…ストレスを解消する為に、パチンコを出してしまったと供述していたわ。それに、こんなことするのは初めてだとも言っていたわよ。」
「知らないわよ!そんなこと??私、明日から剣持先生の顔を見れないわ!!最悪……」
「アハハ…三浦詩?エロというのは奥深く、そして罪深いものなのよ……それにさ、私らなんて可愛いものよ。去年卒業した6年生の中には、教室で堂々とUN(K)Oしてた輩もいるらしいわよ。」と夢子が言う。
「あ、それ聞いたことあります!男女含めて5、6人のグループで、机くっつけてみんなでやってたらしいですよね!更にUN(K)Oにジュースを賭けてたらしいっすよ!」と優茉が興奮して、前に唾を飛ばしながら言った。
「…もう、わかったから…UN(K)OとかPAチンコとか……脳が腐るわ……」と詩が頭を抱えながら言った。
「……で、なんの話だったっけ?」と詩が、科学特捜部と新聞部の面々を見渡しながら言う。
「……た、確か倫護カンパニーの魔の手からシタライムツミさんを守るとかなんとか……。」と言って手書きのメモ帳に目を落とした。
「ちょっと、なにそのメモ帳?…土田?剣持先生の件、新聞に書かないでよ?」「はい。近藤センパイがそうおっしゃるなら……。
……では、ツチダはこのへんでお暇させていただこうかと思います。…*はあ*。ここ数日で不信者の目撃情報も、ぐっと減ったらしいですね。こう平和だと、新聞記事のネタが無くて困ります……」
「じゃあ、土田。これ知ってる?」と夢子が立ち上がり、奥の部屋を案内するように体を斜めにした。「…学校の七不思議、その2。理科室の怪。」
「勿論知ってますよ。人体模型が動くんですよね?」
「そう。まあ、正直動くところは見たことないんだけどね。伝説によると、この人体模型くんには、モデルがいるらしいのよ。理科が大好きだった男の子が、病気で亡くなる前に、遺言で自分の体を使ってくれって言ってね。……だからこの模型には魂が宿っているってのが、もっぱらの噂ね。」
「はい。知ってますよ。」
「でね?これは私がこの理科室の利用にこだわった理由でもあるんだけど…」と夢子が言いながら、
奥の部屋にある、白衣を着せられた少年像に近寄っていった。
「噂によるとね、この人体模型が動くのは、……ある体の一部だけらしいのよ。」
三浦詩を別室に残し、夢子と優茉の2人は、冷蔵庫や実験用具棚の並ぶ狭い部屋で、模型の少年の前に立っていた。
「つまりね?……この少年が思わず動いてしまうくらい、貴女が十分にセクシーかどうか……、この伝説はそれを物語っていると思うのよ。」
「はあ。」と優茉は半信半疑の顔でセンパイを見上げた。
「理科室を使用するようになってから、私はこれを毎日のように試してみてるわ。」「……と言いますと?」
ガバッ……と、夢子は少年の白衣を脱がし、体半分に細かく造形された内臓を|露《あらわ
》にした。
優茉は、先輩の目線の先を追う。
そこにはちょこん、と、彼女の弟のもののような閉じた小さな巾着袋が飛び出していて、
優茉が再び、先輩を見上げると、夢子はうっふ~ん♡と片目を瞑って、変な体勢の背苦いポーズを取っていた。
「センパイ……?」
「ああ、今日もやっぱりダメだったわね。ピクリとも動かない。……私もまだまだ修行が足りないわ。土田?もし、この人体模型くんが動いたら、一番最初にアナタに教えてあげるから。その時はさくらんぼ新聞の一面を華々しく飾りなさい。」「は、はい。ありがとうございます……」
「アナタも試してみる?」「……あ、いいえ……結構でございます……ツチダごときがおこがましいので…ご遠慮させていただきます。」
「そう?まあ、いいわ。確かにアナタじゃ役不足かもね。」「……はい…」
隣の部屋から詩が、「そろそろ最終下校時刻よーー」と叫ぶ声が聞こえ、
2人の少女は、模型に白衣を着せ直すと、「でも卒業までには何とかなるような気がしてるのよね~」という先輩に「頑張ってください。期待しております……」と後輩は答え、何とも言えない微妙な表情で帰り支度を始めるのだった。
『At the Headquarters of the Anti-Apple War』




