ヰ73 ショッピング オブ ショッキングピンク!
土曜日のセミナーに参加した時に、隣に座っていた女子と仲良くなった木下藤子は、
そのまま意気投合し、一緒に日曜日の買い物をする約束をしていた。
新宿東口で待ち合わせをした2人は、スマホで連絡を取り合いながら、電車に乗って徐々に距離を縮めていった。
「ヤッホー!亜理沙ちゃ~ん!」セーラー服にダッフルコートを着た姿の藤子が、ブンブンと手を振りながら走り寄ってくる。
亜理沙と呼ばれた少女は、
こめかみから長い触角を首辺りまで垂らした髪型以外は、爽やかポニーテールの藤子と同じヘアスタイルで、
後ろから見ると、背丈も同じくらいで瓜二つに見えた。
パッと見、コートの種類が違うだけで、姉妹か双子にも見える2人の少女は、出会いがしらに抱き合うと、
キャッキャと空中に跳ね、お互いのマフラーを首に絡ませるように巻き合って爆笑した後に、すぐにまたほどいた。
「今日1日マフラー、交換しない?」と亜理沙が言う。
「いいね!いいね!」 藤子はまだ、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら手を叩き、自分の赤いマフラーと亜理沙の緑のマフラーを取りかえっこした。
そして肘をくの字に折って腕を絡ませてきて、この世への無念をギュッと友人の腕に押し付けた。
「じゃ、行こっか」と藤子は寒さで赤くなった鼻にしわを寄せて笑い、
そのまま2人はふざけながらじくざぐに歩き始める。
「ねえねえ、藤子ちゃんの好きな人ってスポーツマンなんでしょ?」
と亜理沙が興味津々な表情で聞いてくる。
「うん。小学生の時はずっとテニスをやってて、今は勉強で少しお休み中。」と藤子が何処か誇らしげに答える。
「テニスかあ……軟式?硬式?」「硬式だよ。」「へえ……小学生の時から硬式のテºニスかあ…凄いんだね……」
「うん。この前、カイトのテºニスボール触らせてもらったんだけどさ……すんっごく固いの!!私、びっくりしちゃった!あんなのでプレイしたら痛そう……」と藤子は思い出して改めて体を震わせた。「ラケットも本格的なやつでさ……、ガットって言うの?すごくビンビンに張ってて、ちょっと怖いくらいだった。触っただけで切れそうだった……」
「イタ……」と亜理沙は想像しただけで思わず痛みを感じて顔をしかめた。
「男の人のテºニスって……ちゃんと見たことないけど、…なんか怖いよね。」と亜理沙が言う。
「まあ、でもこの前、カイトの愛・不穏で、外国人のプレイを一緒に見てたらさ……、女子も結構凄いのよ。あっちの人って男みたいに声を出すじゃん。その動画でもさ、コートの中に入れられて、動物か、ってくらい叫んでた。」「へえ……コート着ながら?」
「それも女同士のプレイでよ??なんか価値観変わっちゃいそうだった…」
「え?でもカイトくんはそれを藤子ちゃんに見せて、どうするつもりだったの??」と亜理沙が戸惑ったような口調で言った。
「……実は私もね、カイトに『こういうのシテほしいの?』って聞いてみたの…」「うわっ大胆!!」
「……そしたらカイト、『いや、木下はこういうのはしなくていいよ』って。『お前とやったらきっと怪我して痛い思いをさせるから…』て。『興味あるなら、俺がするところを見てるだけでいいよ。』て。」「きゃあああああ!!……ジェントルマン!!!」
藤子が赤い顔をして「……うん。カイトは多分……私をワイセツにしてくれている…」と言って俯いた。
「いいなあ……藤子ちゃんは。私も彼氏ほし~」と亜理沙が言うと、
藤子が「まだ彼氏じゃないって!!だからこうやってバレンタインの買い物を付き合ってもらってるんでしょ!……私、今年のバレンタインに賭けてるの。……亜理沙ちゃんてさ、なんかお洒落だし、流行にも詳しそうだから助けてもらおうと……」
「ええ~、私なんかでホントにいいの~?」と首を傾げる亜理沙のポニーテールが、藤子のポニーテールとぶつかって、ぼふんっ、と優しい音を立てる。
「まあね……私、彼氏はいたことないけど、…こう見えて結構モテる方なのよ……だから男子が何が好きかとかは、ちょっとわかるかも……」と亜理沙が少し得意気に言う。
「でしょ?でしょ?昨日のセミナーで話してて、何となくそう思ったの!亜理沙ちゃんお願い!私のバレンタインのプレゼントを選んで~~」
****************
2人の少女は仲良く腕を組みながら、新宿コトブキ町の雑居ビル群の辺りを歩いていた。
「……確かここら辺にあるはずなんだけど……」と亜理沙がスマホの画面をくるくると回しながら、地図と現実世界を見比べている。
「…ところでさ、藤子ちゃん、チョコは本当に市販のでいいの?」と聞きながら亜理沙は、藤子の手に提げられた有名店の紙袋を見つめた。
「……うん。色々と試してみたんだけどね。お腹を壊しちゃって……」
「え~~、ひょっとして試食のし過ぎ~?ダメだよ~、太るよ?」と亜理沙が藤子のわき腹辺りをつつくマネをする。
「……まあ、試食っていうか……、あれは試食っていうのかな?…お腹が荒れちゃってさ……。やっぱcock-paccoってあんまり良くないね。素人の投稿を参考にすべきじゃないわ……。」「ふうん?……で、チョコだけじゃパンチが足りないからプレゼントもあげることにしたわけか。」と亜理沙がニヤニヤしながら言う。「手作りのマフラーとかは?」
「……それも考えたんだけどね……私そういうの不器用で……実はカラッキシダメダメなの……。」
「アハハ……ではこの亜理沙ちゃんに任せなさい!……さ、着いたわよ!このビルみたい。2階にあるらしいわよ。」そう言うと亜理沙は、エヘン!と胸を張り、双子のポニーテール少女に負けじと、飛び出したこの世への無念をアピールした。
「ここさ……昨今の平成レトロブームで、また流行り出してるらしいんだよね……。」と外階段を先に立って上りながら、亜理沙は「昔の男の人は、こういう所でプレゼントをもらってたらしいよ。ギャルとか女子高生とかの、平成の文化って今メチャクチャ流行ってるじゃん?こういうお店はさ、当時最先端だったらしいのよ……だからね、ここで藤子ちゃんもプレゼントを用意してもらうといいんじゃないかな?」と言って、入口の扉に下がった看板を指差した。
『ブルセラショップ・マルゲロリータ』
…………。
………。
「……ふうん。亜理沙ちゃん?ここってなにを売ってるお店?」
と、藤子が、…看板イッパイに印刷されたハートマークを見つめながら言った。
「ぶるせらって…なに?」
「さあ。意味はよく知らないけど、イタリア語か何かじゃないかしら?当時の女子高生達は、この場所で手作りのプレゼントを作ることが出来たんですって!それを男の人達は凄く喜んで買ってたらしいわよ。」と亜理沙が言った。
「ふうん……『買ってた』ってどーいうこと?プレゼントじゃないの?」「さあ……。まあ、やっぱり間にお店が入ることでマージンが発生するんじゃない?そもそも、こういうプロ(?)のお店に頼らなくてもいいなら、藤子ちゃんも困ってないわけでしょ?」「それもそっか……」
「とにかく、手作りの一点モノが愛を伝えるのには一番なのよ!」と亜理沙がビシッと人差し指を立てながら言うと、
藤子は真っ赤になって「やだ!そこまで私、重くないよ!?」と言って友達の背中をポカポカと叩いた。
*チリンチリン*
手動の扉を手前に引くと、入店を報せるベルが鳴る。
甘い香りのする店内に入ると、黒い暖簾の掛かったレジカウンターの向こうで、エプロンをした店員の体が動くのが見えた。
狭い店内には足元にピンク色の絨毯が敷かれていて、入口から少し進んだ先にパーティションに囲われた試着室のボックスが立っている。
藤子が、入口の近くにあるショーケースを見て「見て見て!古いタイプのヘアアイロンがいっぱい!これヴィンテージかな?」と興奮した様子で言った。
「ホントだー。」と亜理沙も言う。「こういうのさ、お母さんが若い頃使ってたやつだよね。見たことある~。」とケース内に並んだ棒状の器具の前に立った。「昔のタイプってさ、ここの部分に小さい把手が飛び出してるんだよねー」と言って、サボテンの枝か、十手のような形をした部分を指差す。
「あれ?なんかこれ、震えるらしいよ。ひょっとしてマッサージ機能付き?」と藤子が言う。「でもこれ、女性用だよね。カイトはヘアアイロン使わないからなぁ……」
「このジェルは?」と亜理沙がピンク一色の棚から紫色の円筒形の容器を取り出した。
「ヘアジェルかあ……。カイトはこういう香り付きのやつは使わなそうだなあ……。」
「見て見て!ここに指サックがイッパイ売ってるじゃん!すっご~い。手芸専門店でもこんなに沢山見たことないよ!?全部、高級そうな箱入りだよ?!うわ~、私、結構針仕事好きなんだよね~その割に怪我しやすいのよ~」と亜理沙が興奮して大きな声で叫ぶ。「超薄型0.03㎜ですって!指先に布の感覚が伝われば、微妙なステッチもお手の物ね!」
「あ!ここ見て!めっちゃ沢山、防犯ブザーが置いてあるよ!カワイイ色のがイッパイある~!私もさぁ小学生の時、うンドセルにこういうのつけたかったなあ~。私のやつは涙型のピンクのだったんだけどさ……弛くてすぐ抜けちゃったんだよね。」と亜理沙が続けて言う。
「そうそう。すぐ抜けちゃって全然役に立たないの!」と藤子が笑いながら言う。
「教室でさ、ちょっと揺らしたり、引っ張ったりしてると抜けちゃって、その瞬間めっちゃ大きな●●●が出ちゃってさ!みんなが驚いて振り返るの!頭真っ白になっちゃって!」「アハハハハ……」と亜理沙が笑い、「あるある~、で、急いでもう一度差し込もうとするけど、慌てちゃってうまく差せないの!」「そう、そう、で、優花ちゃんに手伝ってもらって入れ直してもらってさ!」「優花ちゃんて誰よ?」と言って亜理沙はケラケラと笑った。
「でもこれってさ、……変貝者に遭遇した時使うんだよね。実際にそういうシチュで使った人知ってる?」と亜理沙が言う。
「さあ……私の周りにはいなかったなあ。…あとさ、これ使ったら、逆にそういう人は喜んじゃうってのも聞いたことがあるよ?」
「……まあでも、持ってると一応安心よね。」と言って亜理沙は錠剤カプセル型の水色の防犯ブザーを掴み、「これ、妹に買ってってあげよっかな…あの子のやつ、壊れかけてるし。」と呟いた。
「あ!見て見て!ペット用品も色々置いてあるよ。……この店面白いね。何でも置いてあるんだね。」と藤子が亜理沙の肩を掴んで揺する。
「この首輪とかカワイ~。あ、このプラスチックの穴空きボール知ってるよ!中にマタタビとか入れて猫に遊ばせるんだよね?」
「でも、それ、あんまりやり過ぎると、涎とか垂らして裸リっちゃうらしいよ?」
「あ、これアイマスクだ。こういう関係ないものも一緒の棚に置いてあるの…、面白いね。」「うそ!?なんで手錠まで置いてあるの??」
亜理沙はそれを見てしばし考えて、「ああ『万引きするな』、っていうメッセージじゃない?知ってる?軽犯罪のうち万引きの99パーセントは女性による犯行。チ。環の99パーセントは男性による犯行なのよ?」
「……万引きは軽犯罪じゃないわよ…立派な窃盗罪だから…」と藤子が言う。
「じゃ、チ。環は死刑ね」
「いや……チ。環は軽犯罪なのよね……言われてみれば何故かしら?こっちの罪の方が重い気がするけど……」
「あ、見て!あそこの棚!大きな注射器!…あとスポイトと…これは、ジョウゴ……?理科の実験道具かしら?このベルト付きのフック2個は何に使うのかしら?……なんかここらへんのグッズ、頭よさそ~」と言って亜理沙が近くにぶら下げてあったピンク色の看護婦帽を被り、
「……流石、昔の女子高生御用達のお店ね……あー楽し~…」と言った。
やがて2人の少女は周りを見渡し、「あ!あれプリクラじゃない?」と言って、別の暖簾が掛かったエリアに近付いていった。
そこへ、
…今の今まで黙って会話を聞いていた禿げた男性店員が、慌てた様子で走ってきて、「だ、だめだよ?!そっちは男性専用だからね!!」と言って立ち塞がった。
「ああ…!」と亜理沙がしたり顔で頷く。
「藤子ちゃん?どうしてか分かる?あのね、大抵のプリクラエリアは女子専用でしょ?でもね、昨今の社会状況を鑑みて、当然、男性専用エリアもないといけない、というわけですよね、店長?……まさにSDGs……」
「LGBTQの間違いでしょ……」と藤子が言った。
「と、とにかく、この先は行ってもつまらないよ。君達は向こうのボックスの方へ行って。最近の行政はこういうのに厳しいんだよ。ほら、君らも早いとこ目的を果たして帰りなさい。あと、僕は店長じゃない。バイトだから……
……ところで、君達まだ(注)餓鬼臭えみたいだけど、今日は何を卸していくつもりなの?」
と、痩せた禿げ男は少女達のコートの前から覗いたセーラー服をジロジロと見つめながら言った。
「……スミマセン。私達、初めてで……。そこらへんのこと…お店のシステムとか、よくわかってないんです……」と亜理沙が小さな声で言う。
「あ、じゃあ今料金表出すからちょっと待ってて。」
と禿げた男は言って踵を返すと、すぐに奥からラミネートされたメニュー表を持って戻ってきた。
「……最近で言うと亻吏用氵斉マックスが一番手軽かなあ?氵延亻寸きで一枚20円で買い取るよ。」
「………」「………」
「あの……マックスの供給が間に合わなかったのはコ□ナの時だけでしたよね……。確かにあの頃は布マックスを縫って洗って再利用してましたけど……」と亜理沙が恐る恐る言った。
「それに今私が持ってるのは使い捨てのだけですし。……この店は何の店なんですか?リサイクルショップですか??」
「ブルセラのブルはフ"▪ノレ▪マのブル。セラは今君達が着てるやつだよ。…さすがにブルは絶滅したから、もう履いてないよね?
…君らの着てる小ム女セーラーなら高額で買い取るけど、まあ、まだ卒業じゃないから売れないよね?
…あ、大い亻寸き革化下なら、3000円だよ。
スク>|<ならサ木ºーяー亻寸きで5万円。
氵心み亻寸きノヽº¯ノ〒ィなら2万円。
阝云毛は、今この場で扌友いてくれたら1本100円ね。
え?あれ?違うの?じゃ、じゃあひょっとして……、
ゝс の╯I╰亻更??……え?いいの?君達のなら合わせて8万円で買い取るよ!!おじさんコーフンしてきちゃッた!」
亜理沙と藤子は、棚に置かれていた防犯ブザーのサンプルを咄嗟に掴むと、下に向かって伸びたケーブルを引き抜こうとした。
しかし、それはブブブブ……と震え出すだけで、音が鳴らなかった。
「なによ、この不良品!!」と亜理沙は叫んで、禿げた男へ防犯ブザーを投げつける。
「藤子ちゃん!警視庁へ24よ!さすが眠らない街、新宿コトブキ町!恐ろしいわ!!」
焦った藤子は、119番へ電話し、
『消防ですか、救急ですか?』との声に
「中坊です!コトブキ町の雑居ビルです!」と答えた。
2人の少女は青ざめた顔で、料金表に目を落とし、
バイトの禿げオジサンが店長に電話している声を聞いていた。
「ねえ、藤子ちゃん?(コソコソ…)」「なあに亜理沙ちゃん?(コソコソ…)」
「私、500円分くらいを人示しちゃったかも(コソコソ…)」「……私も怖くて千円分くらい千ビっちゃった……(コソコソ…)」
「え?!それホント!オジサン、べんしょーしよっか??」いつの間にか電話を終えていたハゲが、カウンターから出てきた瞬間、
チリンチリン!!と消防隊が店内に突入してきた。
『Shopeeing of shicking pink!』




