ヰ72 倫護カンパニー
実録ルポ。
この企業の恐るべき実態が明らかになります。
目を覆いたくなるような真実。
心臓の弱い方はご注意ください。
愛・不穏セミナー2日目。
1日目と違い、日曜日の今日は焼酎学生限定、『初めての愛・不穏』と題して、春に向けてのスマホデビューに合わせての基本講座が開催されていた。
銀髪のクールビューティー、ミス汁婆仁は、別室での保護者への説明を終えると、
流行りのドーナツ食べ放題と高級紅茶のテイスティングをする母親達を残して、
階の違う会議室へ向かった。
普段円形にテーブルの置かれた室内は、綺麗に片付けられ、薄紫色の絨毯の上には、ライブ会場のようなグレーのシートが敷かれ、
すでに集まった7名の少女達が体育座りで待機していた。
ミス汁婆仁はスーツの背中半分まで垂らした、さらさらの銀髪を、冬の静電気をものともせず滑らかに揺らしながら、
タイトスカートにピンヒールという出で立ちで、少女達の前に立った。
期待と緊張が入り雑じった目で、焼学4年から酎学1年生の少女達は、この大人のお姉さんを見上げ、すでに仲良くなった隣の子の腕を肘でつついたりしている。
少女達は皆、都心に出てくる為に思い思いのお洒落をして、今日の日を迎えていた。
講師の目の前にいる小柄な前髪ぱっつん少女は、頭の上に大きな黄色いリボンをつけていて、背中を丸めて隣の子とクスクス笑っている。クラシックな印象のチェックのワンピースに真っ白なタイツ。靴はエナメル質のブラウンで、それはまだ下ろしたてなのか瑕ひとつ付いていなかった。
ちょっと上向きの鼻が、生意気そうで可愛いらしい。
少女の隣で一緒に笑っている子は、ボブカットの髪を内巻きにカールさせていて、短めの吊りスカートからレース付きのニーソックスを履いた素足を覗かせている。意識していないのか、たまに脚の間から、ショーツの上に履いた黒いオーパーツが見え隠れしていた。彼女の顔は少年のように凛としているが、張りのある尖った睫毛と、少しグロスを入れた唇が、この子を少女らしい雰囲気に見せていた。
その後ろには横一列に並んで制服姿の酎学生が3人。いずれの子も、まだブカブカめのブレザーの肩を、本来の肩からずり落としながら、背中を丸めて体育座りしている。
ミス汁婆仁は左から、『吊り目ちゃん』『丸顔ちゃん』『美少女ちゃん』というあだ名を心の中で名付けた。
後の2人は、少し離れたところに座り、姉妹なのか、お揃いの水色のアリス風ドレスを着て、膝を並べて大人しくしている。
2人とも、ヘルメットのように艶々とした髪に天使の輪を輝かせ、一瞬白人かと思ったくらい青白い肌の中で、可愛らしい頬を真っ赤に染め、
妹の方が時折鼻をすすると、姉がポシェットからちり紙を取り出して渡してあげていた。
………。
あらあら、みんな可愛らしいこと……。焼学余年生が1人、録年生が3人、酎学位置年生が3人。
と、ミス汁婆仁は無表情に少女達を見下すようにして立ち、
自身のシークレット憮裸を潰さないように気を付けながら、腕を前で組んでいた。
……さて、…と。始めますか。
ミス汁婆仁は開口一番、
「みんなは今年の春からスマホを買ってもらうのかしら?」と表情は変えず、声色だけ楽しそうにして言った。
目のあった『丸顔ちゃん』が、
「はい。酎2から買ってもらえます。」と赤くなりながら答えた。
「愛・不穏17にするの?」とミス汁婆仁が聞いてくる。
「は、はい。お母さんにはそうお願いしています。」
「みんなは?」といい香りのする大人の女性講師がさっきよりは少し笑顔を作りながら言う。
少女達は、彼女の滑らかな長い銀髪に見惚れながら「「私たちも!」」「「セブチです!」」と口々に叫んだ。
「それは、それは。」とミス汁婆仁は言い、「じゃあ、みんなには愛・不穏のデモ機を配るから、まずは一度触ってみてね」と、あまり感情はこもっていないが、何となく優しそうな口調で続けた。
愛・不穏が子供達に行き渡るのを確認すると、ミス汁婆仁は早速、
「はい。今日ここにいるのは女の子だけですけど……、一応一から使い方を説明しておきますね。」と言って、講習用のスマホを取り出した。
床に座る少女達は、興奮した様子でスマートフォンを指で弄り始めている。
「はい、そこのあなた、それは男の子の使い方よ。」と言って、ミス汁婆仁は前髪ぱっつんの黄色いリボン少女の持ち方を注意した。
「女の子はスマホを水平にして。」と銀髪の大人の女性が、小柄な少女の手を軽くピシャリと打つ。
驚いた少女は、すぐに「スミマセン…」と言ってスマホを平らに持ち直した。
「縦向きのイ更器は男の子でしょ?あなた、その向きで、どう使うつもりだったの?」呆れた様子の講師が、大きなリボンの少女の手の中にある愛・不穏の角度をグイッともう少し下側に修正する。
隣に座る内巻きボブカットの少女が怯えたようにスマホの角度を水平にするのが見えた。
「……愛・不穏をきちんと使いこなすことで、あなた方は一人前の女性の仲間入りが出来ます。」と女性講師が静かに囁くように言う。
「……それともあなた方は人間を捨ててアンドロイドになりたいのですか?」
少女達は急に真剣な表情になり、黙ったままふるふると首を横に振った。
「では皆さん。」
講師の強い口調に対して、少女達は背すじを伸ばし、ばらばらに座っていた位置から体をずらして綺麗に並び直した。
「……それでは愛・不穏を体の中央に構え、狙いがはみ出さないように体の中心線に置くことを意識してください。」
「……ちょっと?あなた達、大丈夫?手袋をしたままだと画面を操作出来ないわよ?何年生?それくらい分かるでしょ?」
銀髪の女性の微かに苛々とした言い方に、
7人の少女らは慌てて手袋を脱いで素肌になり始めた。
黄色いリボンの少女はチェックのワンピースを縺れさせながら、すっぽり履いていた白い腕袋を、苦労しながら脱いでいく。内巻きボブカットの少女も、耳を赤くして肘まであるレース付きの手袋を引っ張って素腕を見せ始める。
「カバーも外しなさいよ?カバーを付けたままでどうやって操作するの?あなた達、ホント大丈夫??……あら、あなた?酎学生なのに…まだ蠅てないの?」と言ってミス汁婆仁が急に笑いながら『吊り目ちゃん』の前に立った。
今まで怖い顔をしていた講師が、笑ってくれたので、制服姿の吊り目ちゃんは「アハ、アハ、アハ…」と少しふざけたように笑い返しつつ、自分の体を手で隠した。
「…笑いごとじゃないでしょ。あなた、それ、男子で言うとスマほーけース並みに恥ずかしいことよ。……よくヘラヘラ笑ってられるわね………。まあ、いいわ。蠅てなくても愛・不穏は使えるでしょ、流石に。」
ミス汁婆仁は、まだ「アハアハアハ」と笑う吊り目ちゃんを馬鹿にするような流し目で見た後、その隣にいる美少女ちゃんを見つめた。
……小柄だけど、制服の下に、しっかりとした裸ムネがあるのが感じられるわね……。
そして、女子の不潔な場所に飛び交う黒く太い蠅たち…、ミス汁婆仁は「その年にしてその蠅具合…たいしたものね。……あなたさ、彼氏とかいるの?」と尋ねてきた。
「は、はい……います。」と美少女ちゃんが答えるのを聞くと、年齢=彼氏いない歴の女性講師は「………」と暫く沈黙し、
「……じゃ、あなたは縦持ちで操作しなさい。」と言った。
「え?……わ、私だけ縦持ちですか?な、なんで?」と美少女ちゃんが真っ赤になりながら言う。
「彳皮がいるんでしょ?(どーせ皮付きでしょうけど?)男の気持ちが分かるようにしてあげるんだから文句は言わないでよね?……ほら、あなたは立ってやりなさい?後の2人は座ったままでいいから。」
ミス汁婆仁は、残った姉妹の方を向いた。
「……なにをしてるの?」
お揃いのアリスドレスを着た姉と妹は、慌ててスマホを後ろに隠そうとした。
「ちょっと見せてご覧なさい。」
そう言って銀髪の女性講師が、姉の愛・不穏を取り上げる。
「なによこれ?!……あなた、誰がカメラモードにしていいって言ったの?!?……あなた、もしかして録画してたの??ちょ、妹の方のも見せなさい!!」彼女はスマホ内の録画内容を確認し、「ふざけんなよ??」と言って姉のドレスの肩紐を掴んで揺すった。
妹が泣き出す。
「うるさい!!」と言ってミス汁婆仁は、泣いている少女の背中をグイッと強く押した。
ウワァァァァァァァン……………
「うるさい!!あんた、この子を黙らせなさいよ!」とミス汁婆仁は、更に姉のドレスの肩紐を引っ張って、彼女を妹の体にぶつけた。片手の操作でフォルダ内を消去する。
「泣き止ませなさい!?誰よ、こんなガキを参加させてたの??愛・不穏はガキの玩具じゃないのよ??女の子のステータスなのよ?あなた達、分かってる??わざわざ高価な愛・不穏をお父さんお母さんに買ってもらうのには意味があるのよ?……それとも、あなた達は安物のアンドロイドで済ませるの??あんなの恥ずかしくて、学校で見せられないわよ??」
「ま”ま”ぁ~~」
妹の方は口を大きく歪ませた状態で、鼻水と涎を垂らしながら泣き続けていた。
「黙りなさい!!」
ミス汁婆仁は、スーツの内ポケットから、自分の私物の愛・不穏を取り出すと、ポリカーボネート製のスマホケースもそのままに、
「泣きやまないとあんたのお姉ちゃんをこうするからね!?」と言って、彼女の後頭部を鷲掴みにして、
……表面1平方センチメートルあたり約15,000個の細菌が付着したスマホ画面を、アリスドレスの姉の白い顔に近付けた。
「これにはね?亻更THEの表面にある約10倍に相当する細菌が繁殖しているんだからね??お姉ちゃんのキレイなお顔に、これを浸けられなくなかったら泣き止みなさい!!」
「ひっ」とひきつった声がした後、
……背後で、じゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……と、何かがくぐもった音を立て始めた。
ミス汁婆仁が振り返ると、
……内巻きのボブカットの少女の足元に置かれたスマートフォン画面に、
静電気を帯びた生体電流が激しくあたり、ディスプレイに触れた電気の乱れをセンサーが検知する度、スワイプやピンチなどの動作が行われているのが見えた。
「あらあら、あなた、上手に出来てるじゃない?」と言ってミス汁婆仁が馬鹿笑いする。びっくりしてアリスドレスの妹は泣き止み、急に解放された姉は飛び出していって妹を抱きとめた。
この女性講師は急に上機嫌になり、出来の良い生徒に接するように、ニコニコとしながらボブカットの少女の背中側に回った。
ミス汁婆仁は、少年のように凛とした顔に、長い睫毛を揺らすこの少女の、まだ震えている肩に腕を回し、
終わった後も足元でポツポツと断続的に、画面がタッチされている様子を見て「皆さん、ここに集まってください。」と言った。
そして、優しく少女の腕を支えると、彼女の繊細そうな白く細い指を手に包み込み、そのうちの親指と人差し指の2本を掴んだ。
「ほら……こうやってね。2本の指を画面に置いて……グッと開くの。
「ピンチ。拡大・縮小よ。見ててね?」
「まずピンチアウト。開く…こうやって2本の指でね。画面に触わったままで外側に押し広げるとズームインするの。
閉じるのはピンチイン。2本の指を内側に入れるとズームアウト。」
ミス汁婆仁は穏やかな口調で説明しながら、凛々しい顔をした内巻きのボブカット少女を支え、●ンチをコントロールする部分を、皆によく見えるように突き出させた。
そのまま少女の小さな指に自分の指を重ね合わせ、先端を食い込ませるようにして、広げたり閉じたりを繰り返してみせる。
「ズームを解除するには、この2本指で画面をダブルタップするのよ。」とミス汁婆仁は言った後、すぐに、
……ツンツン、とボブカット少女の柔らかい有機ELを叩くと、「んんっ」と彼女は声を出した。そのまま少女は、淡い香水の香りを漂わせる女性講師から、背面をダブルタップされると、堰を切ったようにshiriのショートカットが起動し、
画面上に新しいshiriのグロ・エフェクトが、クネクネと波打ちながら広がっていくのが見えた。
少女達はその演出に思わず口を押さえ、驚きつつ、目を離せずに凝視していた。
「どう?凄いでしょ、愛・不穏は。」と銀髪の女性講師が言い、
「わ、私もやってみたい……」と言った前髪ぱっつんの黄リボン少女に「いいわよ」と付き添い、「力を抜いてね。」と少女が愛・不穏をダブルまたはトリプルタップをするのを手伝ってやった。
見ると酎学生達は講師の手を借りずとも自分達でshiriを起動させ、スマホに覆い被さり、機能を試し始めているようだ。
ミス汁婆仁は、次にチラッとアリスドレスの姉妹を横目で見て、
……2人が助け合いながら愛・不穏からshiriを起動させようとしている様子を確認した。さすがアリスドdeレス……知的好奇心には勝てなかったようね……。ソクラテスは人間である。人間は死ぬ。ゆえにソクラテスは死ぬ……。クソ真理だわ。
………そう。
……日本人の女の子達は愛・不穏に抗うことが出来ない。特に若い層ほどその傾向は顕著だ。
だが世界的に見ると、いまやアンドロイドの勢力が明らかに拡大し、倫護カンパニーが劣勢であることは明らかだ。
その為……、我々がこの日本で布教活動することの重要性は、日に日に増してきている。日本人の女子の100%を愛・不穏持ちにし、男子のアンドロイド持ちは、全て千ー午、短塩、丼天、真ホッケ、根ホッケ、縞ホッケ!…と警告しておく。
…………。
………。
……。
昔、私に告白してきた男はアンドロイドだったわ……。
その場で私は振ったけど……、あれが、私の人生の中で、男とマトモにしゃべった最後だった……。
ミス汁婆仁は銀髪の前髪を指で掻き上げ、
部屋にいる7人の少女のそれぞれの愛・不穏の上に、個性的なshiriの回答が載っているのを見ていた。
……色もそれぞれ。形もそれぞれね……常識をはみ出すような回答あれば、きちんと収まっている子のもある……刺激が強いものもあれば、あまり感じられないものもあるわね……あら、美少女ちゃんは結局スマホを水平にして操作したのね、ま、そりゃそうか……。
「じゃ、みんな、指でスライドして、画面の上のものを全部スクロールさせておいてね。お洒落な女の子達は例えつけ爪をしていても、うまく操作出来るけど、……まだあなた達には無理でしょ。爪の間に入った分は後でウェットティッシュで綺麗に拭くといいわ。」
「今、スマホの画面はバイ菌で一杯だから、気を付けてね。」ミス汁婆仁は自分の愛・不穏で、少女達一人一人のshiriが出した回答を写真に撮り、マークアップツールでステッカーにした少女達の顔写真を上から追加していった。
「あ、まだバイバイしてない人は終わらせてね?終わる時はちゃんと言わなきゃダメよ。」
それを聞いた、酎学生の制服を着た丸顔ちゃんが慌てて、喉に突っかかるような声を詰まらせながら「さよおなら」をした後、shiriを閉じる前に残りの固体を全部出し切った。それを見た美少女ちゃんがクスクスと笑った。「やだあ、小姫~、加藤くんに、今の“さよおなら”のこと言うよお?」「やめてよ~!私だって佳代がスマホ縦持ちしてたの、秋山くんに言うからね~!あと瑞樹が蠅てないの…山岸くんに言っちゃおっかなぁ~」「な、なんで私までバラされなきゃなんないのよ??」
銀髪の女性講師は急に興味を失ったように真顔になると、先程の写真と合わせて、講習会2日分のデータを全て本社へ送信した。
ミス汁婆仁は、すぐに気を取り直し、
……次に鼻をつまむとニヤニヤと笑い出した。彼氏がなによ……あなた達、自分らの姿を見てご覧なさいよ………さ、これでこの子達の教育は完了ね。
今後も愛・不穏をご愛顧よろしくお願いしまーす♪
講師は芝居がかった仕草でお辞儀をする。
そして鈍い輝きを放つシルバーヘアをさらっと踊るように靡かせながら、彼女は消毒液で手を拭き、部屋にファブリセッシュを撒いた。
『An ethical company 』




