ヰ67 作戦会議
巻き毛の美少年、向井蓮は机に置かれたタブレットを見ながら、
「だいたい分かった。」
と言った。
「…君らは、このツチノコ(隠語)が、犬のフンではなく、不信者の残していったものだと推測しているわけだね。」
「そうよ。そしてね、以前から不信者が目撃されていたC班の通学路だけでなく、先日、A班の通学路でもツチノコ(隠語)が発見されたのよ。」と三浦詩が言うと、
その言葉を継いで、5年生の土田優茉が立ち上がりながら話し始めた。
短髪でピンクの眼鏡をかけた、小動物のようにせわしなく目をパチパチとさせるこの少女は、
「ここです。」と言ってタブレット上の地図を拡大した。
「この場所でツチダは、早速ツチノコ(隠語)の新鮮な検体を採取いたしまして…、それを、前もって三浦センパイからご紹介いただいておりました検査業者に送付したところ…
1日でオンラインで返事が返ってまいりました。」
「で?」
と、蓮が卓上でメモを取りながら後輩を促す。
「はい。検診結果は良好。異常なし。……つまり、業者はこれを、何の問題もなくヒトのものであると判断しました。」
「……なるほどね。」と蓮は険しい表情で地図上の✕印を見つめた。
次に三浦詩が言葉を継いで立ち上がる。「時間帯は私たちの予想通り…下校時間である14時から17時頃。人の流れが途絶えた瞬間を見計らっての出現。これらの動きから予測するに……この不信者は、ある程度の知性を持っていることが予想されるわね。」
セクシーこけし少女、近藤夢子が、グレーのパーカーの前を少し開いた姿で黙って意見に耳を傾けている。
「この証拠だけで、警察に行けませんか?」と土田優茉が手をグーに握りながら、夢子に訴えた。
「う~ん、こ れだけじゃ、弱いわねえ。やっぱり不信者そのものの姿を捉えた画像なり映像なりが欲しいわよね。そのほうが決定的証拠として、揺るぎないものになると思うのよ。」と夢子が眉を寄せながら言う。
「そうよ。生ぬるいことは言ってられないわ!とうとう睦美の通学路のすぐ隣のエリアまで汚染されたのよ!」と詩が肥を荒らげる。「調べたところによると不信者は……、カメラに収められるとその大半の力を失うそうよ!私達で、この異形のものを封印しましょう!」
「不信者狩りかあ……ちょっと子供だけだと危険な気もするけどなあ。」と蓮が自分のスマホで、ツチノコを検索しながら言う。
「このツチノコ…てさ…、隠語以外にも本来の、別の意味、…つまり実体があるってことを知ってる?」と蓮が慎重に言葉を選びながら呟いた。
夢子がそれに反応し、慌てて蓮の耳元で言う。「やめなさいよ。そんなの、ここにいるみんなは薄々気付いているわ。それを分かった上での狩りよ。」
すぐに蓮が「……不信者のツチ○コは、こちらを見つけると、体を反らすような威嚇行動の後、口から毒を発射するんだ。…更に今回の個体は別なツチノコの産み落としもするようだから、二重に危険だ。
…このマップを見て思うのは、ここ最近の行動範囲の不規則性から察するに…故意に活動場所を分かりにくくしているような気がする。つまり、知能が発達した個体であることが予想されるよね。
だとしたら、この不信者は道具を使える可能性もあるね。容器に入れた毒液を持ち運んでいる場合も想定しておかなければならない。
…それが無色または白色の場合は粘度が高く、衣服などに付着すると後で固まって取れなくなる。
…色の付いたものである場合は、基本さらさらの液体だけど、強い臭いを発するので、浴びせられた瞬間に気分が悪くなるはずだ。」と早口で一気に解説した。
「……キダルト…アナタ、詳し過ぎない……。ほぼ不信者じゃない……。」と夢子が青ざめながら言う。
「まあ、でも毒をもって毒を制す、とも言うしね。アナタみたいな変態が、仲間にいてくれて心強いわ。」「……どういたしまして…」
「早速、今から狩りを開始しましょう。」と詩が立ち上がる。「今は丁度下校時刻。第一陣の生徒達が、ある程度集団的な下校を終え、……私達のようなダラダラと学校に残っている生徒が、そろそろ少人数で帰宅を開始する頃合よ。」
「そうね。不信者が動き出す条件は揃っているわね。」と夢子も言う。
「……では」と詩がタブレットの地図を拡大しながら「二手に別れます。」と改まった口調になって言った。
「まず、少し前まで目撃情報が集中していたC班の通学路には、向井蓮と新聞部の土田優茉が向かってください。向井蓮は下級生の護衛をするように。
不信者に遭遇した際は、まず身の安全を確保すること。もし、撮影に失敗したとしても、深追いは厳禁です。
…ツッチー?防犯ブザーの動作確認は必ずしておいてね?いざとなったらトカゲのシッポ切り。向井蓮を置いて逃げること。」「了解です!」と優茉がビシッと敬礼する。
「…ま、いいか。」と蓮は半分納得のいっていないような顔で呟き、「詩ちゃん達はどうするの?」と聞いた。
「詩ちゃんて呼ぶな、ヘンタイ。
…私と近藤夢子は、A 班の通学路に向かいます。
棲息域を移動したと思われる不信者が、このAエリアに出現する確率は、かなり高いと思われます。
ただ、忘れないでいただきたいのは…こちら側は普段、設楽居睦美が利用する通学路Bと、道路を挟んだ向かいだということです。……不信者、またはツチノコによるBエリアへの汚染を許すわけにはいきません。以上。気を引き締めてまいりましょう。
……近藤夢子。アナタの乳タイプの勘、…期待してるわよ?不信者は人に擬態している可能性が高いんでしょ?…アナタの特殊能力だけが頼みの綱だからね……」
「任せなさい。」と夢子が胸を張る。
「……三浦センパイ、失礼ですが、科学特捜部が勘のような曖昧なものに頼るのは平気なのでしょうか?…なんか意外です。」
土田優茉が、若干不安そうな表情になって聞いた。
すると詩が「ああ、それはね」と答えた。「…勘や直感というものはね、実は知識と経験の積み重ねから導き出されるものなの。近藤夢子のように、膨大なエロ関連の知識を頭に詰め込んでいると、それが自動的に…彼女を今取り巻いている状況、…感じている視覚、聴覚、匂い、などを瞬時に分析して、脳が最適と思われる回答を導き出してくるってわけ。
それが勘と呼ばれるものの正体よ。私は近藤のエロ関連の直感に全幅の信頼を置いているわ。」
「そもそも不信者というものは、エロに分類されるのでしょうか……。」と優茉が言う。
それを受けて夢子が「……そうね。そこは確かに微妙なところね。まあ、ヘンタイやグロも、エロに含まれるというのが私の見解よ。」と言った。
詩は、
……よし!失ョッ禁グな出来事に備えられるよう…まわしもバッチリ締め直しておいた。
科特部出勤よ!!…と心の中でエイエイオー!と叫んでいた。
……。
「ところで、近藤夢子?今日の帰りの会以降、睦美を見かけなかった?」
「ああ、そういえば3組の金髪女、飛鳥めいずとなんか話してたわね。あの子意外におしゃべりで話が長いから。」
「あ、その人知ってます!最近、イメチェン(?)して美女デビューした方ですよね?」と優茉が言う。
夢子が「美女ねえ……アナタのとこも美少女だらけの魔窟だって聞いてるわよ?5年3組、さわやか3組、触らぬ神に祟りなしってね……」と言う。
「宍戸家のお嬢様もいるしね。あそこには近寄らない方が無難だね。」と向井蓮も口を揃えて言った。
「ところでキダルトくん?最近つるんでる赤穂さんをほっといて大丈夫なの?アンタ、飛鳥さんという高スペックの許嫁がいながら、他の女にも手を出してさ…更に赤穂さんってshit!深そうよ。平気なの?」と夢子が面白がっている様子で聞いてくる。
「ああ、時雨ちゃんは、今日は一人で買い物があるんだってさ。」
「……ああ、バレンタインの準備ね…」
「赤穂さんのことなんてどーでもいいのよ。で、その後睦美を見かけた?見かけなかった?」と詩が尋ねる。
「いや……一人で帰ったんじゃないかな……あっ?!」と蓮が小さく叫ぶ。
「「まずい!!」」
と蓮と詩が同時にランドセルを鷲掴みにし、走り出す。
「嫌な予感がするわ!!作戦変更!!B班の通学路に急行します!!」
慌てて、夢子と優茉が2人の後に続いて準備を始める。
「近藤センパイ!どう思います?センパイの勘では??」と廊下を走りながら優茉が大声で聞いてくる。
「そうね。確かに設楽居睦美はリアル草タイプ少女……どく、むしタイプの不信者とは相性が悪いわね……。ああいう華のないタイプがもっとも狙われやすいのは確かね。」「なるへそ。」
「まあ、とにかくアナタはカメラを準備しておきなさい。報道カメラマンとしての覚悟はいい?目を覆うような現実と向き合うことになるかもしれないわよ?」
「はい!こう見えてツチダは上に兄2人、下に弟1人がおりますので、小さき頃より男兄弟の中での紅一点、フェアリーざっそうタイプとして育っております!!耐性はばつぐんであります!」
「了解」と夢子は言うと、「さあ、面白くなってきたわよぉ……」と呟き、
すでに小さくなっている2人のクラスメイトの背中を、スピードを上げて追いかけ始めた。
『sctrategy meeting』




