ヰ66 ヒーローインタビュー
「おい、ヘンタイ!、微笑年、キダルト!好色一代男!」
と、三浦詩は、苛々とした声で呼びかけ、
最後に「向井!なんで無視すんのよ?!」と言いながら、向井蓮の肩を掴んだ。
「え?僕のこと??」と蓮は驚いて振り返り、
「なあに?僕は破門になったから、てっきり永遠に無視されるのかと思ってたよ。」と言って嬉しそうに微笑んだ。
「そうしたいのはやまやまだけどね。……少しアンタに聞きたいことがあるのよ。」
詩はそう言うと、「ちょっと顔を貸しなさい」と蓮を理科室に引っ張っていった。
ガラリ
「入るわよ」
「ちょ、ノックしなさいよ?!」と鏡を見ながらセクシーポーズの研究していた近藤夢子が、飛び上がってこちらを見る。
「ん?あら?キダルトくんじゃない?
…どーしたのよ詩さん?そいつを科特部に復帰させるの?」と夢子が、無駄にはだけた肩を戻しながら言った。
「違うわ。尋問よ。」と言って詩が、戸惑う蓮に向かって椅子に座るよう命じた。
「アンタさ、手を後ろで縛ってもいい?」と詩が言いながら棚の前に移動し、手にガスバーナーのチューブを握って戻ってくる。
「だ、だめに決まってるだろ」と蓮は言い、「何なのいったい?僕が何かした?」と聞いてきた。
詩は呆れたような顔をして「アンタさ……、新聞部に画像を送りつけなかった?」「はい?」「ウコンドロップよ。」「は?あの件でまだ僕のこと、疑ってんの?」
丁度その時、ノックの音がして、「失礼します!」と、土田優茉が入ってきた。
「誰?また新キャラ?」と蓮が言う。
「はい。小生、新聞部編集長兼、報道記者、ツッチーこと土田優茉と申します!5年3組出席番号16番。以後お見知りおきを!」
「……『小生』は、男が使う一人称だよ。」と蓮が言う。
「…先輩。失礼ながら、今の時代、『男だけが使える言葉』といった考えは、お古いのでは……」と優茉が返す。
「そうよ、そうよ、微笑年。夕ヒぬといいわ。」と詩が言う。
「け、喧嘩はおやめください先輩方……。ツチダごときが一人称を主張すること自体がおこがましいことだったかもしれません。こ、このことはお忘れください。」
「ああ、僕も悪かった。だいたい今どき小生なんて男でも使っている奴はいないから、別に誰が使ってもいいか。……ところで、新聞部の画像って何の話?」と蓮が、ガスバーナーのチューブを持った詩に背を向けながら言った。
「えーっと、この方は協力者なのですか?教えてもよろしいのですか?」と優茉が尋ねると、
今までニヤニヤしながら黙って見ていた近藤夢子が「さあね。まあ、一応キダルトくんの意見も聞いてみましょうか。」と言った。
詩が「しらばっくれるのもいい加減にしなさいよ??」と一歩踏み出してきたところを、
夢子が、まあまあ、と押し留め、「ねえキダルトくん?アナタはこの写真…どう思う?」と言って優茉から受け取っていた印画紙を取り出した。
何枚かの通学路の写真を見せられた蓮は、しばらく黙って目を通していた。
「で…これが、……なにか? 」と美少年が困ったような表情をして言う。
土田優茉が「それ、メールで送られてきたんです。」と口を挟む。「誰から?」と蓮が尋ねる。
「はい。新聞部が『密告者』と呼んでいるとある人物からです。以前からこの人物はうちに情報を提供してくれていまして……。
正体は不明なんですが、毎回毎回面白いネタを持ってきてくれるんですよ!例えば、ある先生がスーパーで焼き芋3本買ってたとか……、男子が女子に告白してフラれて泣いてたとか……。ただ、今回のような危険な情報は初めてです!」
「危険な情報ねえ……」と言って蓮は印画紙を机に広げた。
「…はい。それ、ツチノコの写真です。猛毒を持っていて、2メートルくらいジャンプするらしいです。」と優茉が『未確認生物ファイル』という男子小学生が読みそうな本を開きながら言った。
夢子が蓮に向かって「そのチチクリ屋ってのは、アナタのことじゃないのよね?」と言う。
「やめてくれよ?違うに決まってるじゃないか。だいたい僕はそんなに暇じゃない。」「どうだか…」と詩が鼻を鳴らしながら言った。
「で、君らはこれがツチノコの写真だと言いたいんだね?」
と蓮が紙を指差しながら言う。「どう見ても犬のフンみたいだけど。」
「ですよねーー」と優茉がまた言う。
「ところで先輩?」「ん?」「もしや先輩は、先日、子供わんぱく相撲大会で賞を取った向井蓮さんではないですか?」
「え?そうだけど………それがなに?」と蓮は嫌な予感を感じながら答えた。
「相撲大会は写真撮影不可なので、取材はしなかったんですが……。我が校から優勝者が出たと聞いたものですから…、改めて取材させていただけませんか??」ムフー、と鼻息荒く新聞部の5年生が迫ってくる。
「べ、別に優勝したわけじゃないよ。雨で中断しちゃったわけだし。敢闘賞だよ、敢闘賞。」
「向井センパイ!写真も撮らせていただけませんか?あとインタビューもよろしくお願い致します!!」
「まあ、いいんじゃない?受けてやんなさいよ。」と夢子が言う。
「キダルトくん?アナタのはんらん写真が載れば、この子のシンブンブンの発行部数増に貢献出来るかもよ。」
「……なんで僕が新聞部に協力をしなきゃならないんだよ……」
「じゃ、ちょっと待ってて!」と言うなり夢子がピューっと駆け出し、理科室を飛び出していった。
「センパイ、噂によると、他校の男子と死闘を繰り広げたらしいじゃないっスか!」と優茉が興奮して机に手を突いて大きな声を出す。
「その時の様子、是非詳しくお聞かせください!」
ガラガラピシャン!!
雷のように理科室の扉を勢い良く閉じて、夢子が戻ってくる。
「キダルトくん、持ってきたわよ!」
蓮が顔を上げると、おセクシーな丸みを帯びた体のわりに、顔は座敷わらしの少女が、息を切らしながら、相撲のまわしを腕に下げて立っていた。「…これ、ずいぶん前から体育館の倉庫にかかってたやつだけど構わないわよね?」
「ちょっと待て……構わないって…いったい何を言ってるんだ。」
「写真よ。新聞に載せるやつ。」「だから…なんで、…まわし?」「…相撲だからよ。正装でしょ?後で表彰状も撮らせてやってね。」
「…おい待て、なんで僕がまわし姿にならなきゃならないんだよ。」
優茉が「流石です、近藤センパイ!巧みな交渉術!向井センパイのまわし姿なら最新号は売り切れ間違いなしです!」と叫んだ。「……これは、なんならツチノコよりも足が早いかもしれませんよ?!うっひょ~!向井センパイ!お願いします!!」
危険を察知して無言で逃げようとする蓮を、夢子は後ろから羽交い締めにし、「土田!まわしを!」と言って後輩に合図を送った。
詩は胸の前で腕を組み、「……なるほどね。アンタらのやりたいことは分かったわ…。ほら、微笑年?恥をかかされたくなかったら、今すぐ本当のことを言いなさい?」と言った。
「や、やめ……」と言う蓮のズボンに優茉が、ガシッと手をかける。
「やめろ!?分かった分かった!!…まわしに着替えるから!……無理矢理はやめろ!」と蓮は言い、拘束を解かれると、下級生の女子からまわしを受け取った。
「フン、アンタらは甘いわね…」と詩が夢子の顔を見ながら言う。
「あ、逃げるといけないから、ツッチーは扉の側にいてね。」と夢子が後輩に的確な指示を出す。
「いったいどうなってるんだ、うちの女子たちは……。」と蓮は言い、「ねえ、まわし姿の写真を撮らせてあげてもいいけどさ?……その代わり、と言ってはなんだけど…僕を科学特捜部に戻してくれないかな?」と儚げな微笑みを湛えながら目を合わせてきた。
「そこんとこ、どうなんです?三浦センパ~イ?」と扉の横に立つ優茉が声を張り上げる。
「なんでそんなにうちの部に入りたがるのよ??」と詩が顔をしかめた。
「え?今は言えないけどさ……。ダメ?」と蓮が言う。「これは睦美ちゃんの未来の為なんだ。正直な話、君は僕に協力した方がいい。僕はね、1周目の君の未来も知っているんだよ?教えようか?大人になった君は化学の分野で、ある偉業を成し遂げるんだ。だからこそ君はその比類なき能力を、手遅れになる前に今から平和の為に利用すべきなんだ!!」
詩は一瞬ビックリしたような顔をして、次にチラッと夢子の顔を伺った。
「……まあ、いいんじゃない?」と夢子が代わりに、にやけながら答える。「UN(K)Oは2人よりも3人、3人よりも4人の方が面白いわ。それに今回のC班通学路の調査、男子がいた方が心強いから。」
「……確かにね。じゃあ、微笑年?今回の調査限定で……、傭兵としてアナタを雇うわ。それでいい?」と詩が言った。
「契約成立だね。」蓮が握手の為に手を差し出す。「調子に乗るんじゃないわよ。」と詩がその手を無視する。
「さて……」と夢子が心なしか赤い顔をして呟いた。
「キダルトくん?この場で着替える?それとも奥の部屋?……私はね、どっちでも構わないんだけど?」「着替え中も撮影してよろしいんでしょうか?!」と優茉もタブレットを手に近寄ってくる。
「やめときなさいよ。よく考えたらコイツ、まだダブルハムちゃんよ?」と詩が言った。
「ダブルハムちゃん?それ何の隠語よ?」
「近藤夢子さあ…だいたいアンタ、こいつに下半神の具現化をさせてしまうと、不信者と同じことになるじゃない?おぞましいわ…」
「先人の言葉にある通り…但しイケメンに限る…てこと。…ギリシア彫刻の美少年は、教科書でも無修正……」と夢子はフフフ……と笑い、「まあ、いいわ。キダルトくん、向こうで着替えていらっしゃい!」と背中を向けて、優茉にもタブレットを下ろすように指示した。
数分後、夢子と優茉がきゃあきゃあ騒ぐ中、向井蓮は、カメラの前でガッツポーズを取ったり、猫背でウルトラファイティングポーズを取ったりしながら、
虚無に近い表情で、さくらんぼ新聞の取材を受けたのだった……。
『Man of the Match』




