ヰ64 危険な行為
「で、受験はどうだったの?」
日を追うごとに豊満になっていく、こけし少女、近藤夢子が、
セクシーな流し目をしながら言った。
科学特捜部兼なぞなぞ倶楽部の本拠地である、放課後の理科室で、
近藤夢子と三浦詩の2人は、手元にUN()Oを拡げて
「リバース!」「それ、2人だと順番変わんないから…!」などと白熱した戦いを繰り広げていた。
「で、中学受験はどうだったの?」と夢子がもう一度聞いてくる。
古典的な幽霊がするような、幅広の白いカチューシャをした詩は、何でもなさそうに「受かったわよ。」と手札を睨みながら言った。
「おめでと。じゃあこれで中学は別々ね」と夢子は言うと、にやけながら「ドロりつ~…」とカードを中に出した。
「ドロリふぉーを重ね出ししてもいい?」「ダメよ」と夢子がピシャリと言う。
「……チッ」と詩は2枚の札を山から取り、「あ、じゃあ改めてドロりふぉー、赤!」と叫んだ。
「……2人だと駆け引きがないわね……。キダルトくんでも呼ぼうかしら…」と夢子がカードを4枚取りながら言う。
「あ、ちなみに私、アナタ達と同じ中学に行くから。」と詩が、赤の4を出しながら言う。「はい?」
「…睦美と違う学校になんか行くわけないでしょ。」と詩は当然のことのように言った。
「え……アンタはそれでいいの?」
「いいも、悪いもないわ。私は独学と塾でなんとかなる子だし。多分最終的にはトップクラスの大学に入れるから。」
「でもその時はまた設楽居睦美と別々になるんじゃないの?…UN(K)O!!」
「え?もう?さっき、アナタUN(K)Oしたばっかりじゃなかった?」「私はお通じがいいの。腸内一のセクシーアイドルだから!!」
「まあ、何でもいいわ……」と詩が言った。「とにかくね、大学に行く頃には、私達もう成人でしょ?その時は睦美とルームシェアしたり出来るわ、きっと…。」
詩はバラ色の未来を思い描いているようで、遠い目をして理科室の壁に掛かった太陽系のポスターを見ていた。
トントン……
「あら、誰かしら?キダルトかしら?」と夢子が立ち上がり、太ももの上でシワになったスカートを艶かしく引っ張り、
腰を振りながら扉の方へ向かっていく。
ガラリ。
「あら。久しぶり。」と夢子は言い「どうしたの?」と言って突然の来客を招き入れた。
……入ってきたのは、ピンクのスケルトン眼鏡をかけた、短髪の少女だった。
ハイウェストの黒いジーンズと白いチョッキ。少女はリスのように忙しそうな顔をして、
椅子に座った詩の方を見ると「はじめまして。私、土田優茉と申します。5年3組、16番。以前、近藤センパイにお世話になった者です。以後お見知りおきを。」と言った。
実験用の広いテーブルのあちこちに散乱したカードを、詩は集め始め、
「はじめまして、土田さん。科特部になにか御用?」と言った。
「はい。三浦センパイ!今日ツチダは、新聞部として科特部にお願いにあがりました!」と、5年生の女子は前のめりに突っ込んできた。
「新聞部?まだ、この世の中に新聞っていう文化は続いてたの?」と詩が失礼なことを言う。
「はい。一応。昭和の文化を勉強する一環として、我がシンブンブンは、記事をw半紙に刷っております。今は、わら半紙自体が手に入らないので、日本で一つしかない町工場から取り寄せていますが。」
「……そこまで再現??…で、新聞部がうちに何の依頼?」と詩がUN()Oの束を箱にしまいながら言った。
「まあ、正直、さくらんぼ新聞のなぞなぞコーナーから近藤センパイがいなくなってから、発行部数は駄々下がり状態……、廃刊の危機に瀕しております!」土田優茉は意味なくビシッと敬礼し、
「近藤センパイ!少し見ぬ間によりおセクシーになられましたね!」と言った。
「まあね」と夢子が答える。
優茉は、「昨今の平安女児ブームを鑑みますと……、まさに平安美人を地でいく近藤センパイは、流行の真っ只中!
…お二人はもしかして、雅に百人一首などをされていたのでしょうか?!」とやけに興奮した様子で、唾を飛ばしながら叫ぶ。
「そうよ…」と、すでに面倒臭くなった詩は投げやりに答えた。
「で、用件はなによ?」と褒められて満更でもない様子の夢子が、頬を赤くしながら聞いてくる。
「はい。」と土田優茉が、…上級生2人に勧められる前に、勝手に椅子に座りながら言った。
「実は……新聞部に特大のスクープが入りまして……。これがですね、新聞の発行部数を爆上がりさせる起爆剤になりそうなネタでして……だが、ちょっとですね、これがまた、現部長を務めさせていただいております、このツチダの手に余るような案件でして……是非、科学特捜部の方達に見ていただきたいのです。」
……久々に科特部の表向きの活動に対して依頼が入ったわね……前回はいつだったかしら。中央公園UFO目撃事件の時以来かしら。……あの時は睦美のお兄さんの助言で、空気中のプラズマである可能性が示唆されたけど……、実証実験の為に電子レンジに葡萄を入れて加熱したら……あれは本当にヤバかったわ。✕ントスコーラくらいの軽い気持ちで実験に臨んだら、まさかのトータル・インターナル・リフレクションで危うく死にかけた……(※)。
(※カレイドスコープ先生からのお願い:本作では、忍び道を始めとする数々の危険行為を紹介しておりますが、レンチン葡萄は、その中でも一二を争う非常に危険な行為です。五十嵐流忍術同様、決してマネをしないで下さい。)
「で?なんなの、その特大スクープってのは?科特部に話を持ってきたってことは、なにか超常的な事件?」と詩が言った。
「……では早速。こちらを見てください。」
アクリル眼鏡を鈍く光らせながら、 優茉はさっきから手に持っていたファイルを開き、中からA4サイズの紙を何枚か取り出した。
「わざわざ印刷したの?」と夢子が言いながら紙を受け取る。
「で?コレハナニヨ……」と夢子は貰った印画紙を詩に回しながら言った。
「はい。C班の通学路で目撃された…ツチノコの写真です。」
し~~~~~~~~~ん。
「………」「………」「………」
「ど、どうでしょう?皆さまの率直な意見をお聞かせください……」
「そうね。」と詩が顔を上げる。「この写真を私なりに解析した結果……、畑の間を抜けるアスファルトの道の脇にある草むら…、そしてそこに見え隠れする茶色い物体………、これは……」
「いぬのフンね。」と近藤夢子が、詩の言葉を継いだ。
「ですよね~~」と土田優茉が、ホッとしたような顔をしながら言う。
「ですよね、ってなによ?アンタなにがしたいのよ?」と詩が怒りながら言う。
「スミマセン。…これらは元々はツチノコの写真として新聞部にメールで送られてきたものなんです。」と優茉は言い、「でも、妙ですよね?これらが本当に犬のフンなら………、飼い主がさせたまま放置したことになりますよね?」と困惑したように言った。
「それって条例違反だし、犯罪ではないんですか?ツチダが思うに、良識ある市民が生活するこの町の道端に、フンがこんな風に転がっているはずがありませんし……やはりこれはツチノコなのではないでしょうか?だとしたら、このUMAは毒を持ってるらしいですし……通学路の児童達が危険に晒されていることになるのでは……」
「いぬのフンでも充分に危険だけどね」と夢子が言う。「……でも、だいたい分かったわ。アナタは科特部に、ツチノコの発見、捕獲、または、いぬのフンをさせている飼い主を調査させ、発見、撮影…そして通報したいわけね?まあ、これが本当なら、いずれにせよ新聞部のお手柄になるわね?
……でも今回はアナタ一人で嗅ぎ回るのはおやめなさい。フンだけに危険過ぎるわ。
ここからは私達に任せて。」
そう言うと夢子は、詩に向かって声を潜めて言った。
「C班の通学路……。気を付けないとね。ここらには不審者情報が多いの。声掛けを始めとして、スマホを向けられたり、つきまとい、そして挙げ句の果てには下半神の出現…。」
それを受けて詩が「半神ミノスの息子、半獣半人の化け物、ミノタウロスね。聞いたことがあるわ。C班の通学路はクソッノスの地下迷宮と呼ばれているわよね。あそこの電線は鳥が一杯とまって一斉爆撃してくるし、道には酔ったサラリーマンの幻楼が定期的に発生すると聞くわ。」と言った。
「あそこの街灯は間隔が広いからね。真面目な話、あそこらへんには不信者が出没しやすいのよ。」と夢子が言う。
「なんだか恐ろしい単語が飛び交ってますね……」と土田優茉が呟く。
「まあ、心配しないで、さっきも言った通り、後は私達に任せて。」と夢子が後輩の肩を叩く。
「じゃ、3人になったし……UN(K)Oでもしましょうか。」
「アンタも好きね……」と詩が言い、「いっそ、この子の言う通り、カルタでもしない?」と奥の方から段ボール箱に入ったガラクタを持ち出してきた。
そして、けん玉やコマやオセロと一緒に入ったゴミの中から子供カルタのケースを見つけ出し、「どう?」と言う。
「ほほう。子供百人一首大会……。女子共が畳に膝を付いて腰を突き出し、号令と共に手足を絡ませ合う、ジャパニーズ・ツイスターゲームね。」と夢子がわざとカラダを捻りながら『うふん♡』と大天使ミカエル美人のポーズを取る。「ねえ詩ちゃん?我らが通う中学にはカルタ部があるわよ?いっそ私達で全国目指しちゃう??
下の句なら任せてよ!詩ちゃんと掛けてぇ、ひとしレズこそおもひそめしか!と、解きます。そのココロはぁ?」
「おう?!さすがは、近藤センパイ!詠朗トークが冴えわたってますね??ツチダ、興奮してまいりました!!」と優茉が荒ぶった声を上げる。
さて……。と詩は、夢子を無視し、……睦美はB班だから直接の関係はないけど……学区内にツチノコだか、不信者だかが徘徊しているのは、正直、好ましい状況とは言えないわね。と思い、
……地球防衛部、活動開始ね……。ヤレヤレ…6年はなかなか引退させてもらえないわね…と考え、静かに今日の日付を日誌に書き込むと、カルタを机に並べ始めていた。
『Risky Behavior』




