表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/47

ヰ43 異能キッズ大作戦


「……なんという(てい)たらく……情けなくなるわ……。」


引っ張り出してきたピアノ椅子に、怪我をした足を乗せた白ロリータ服のネルネに言われ、

ジャガーは「面目(めんぼく)無い……」と言って項垂(うなだ)れた。


ネルネは教室内にも関わらず、丸いボブカットの頭にボンネットを着け、おまけに深いどんぶり型の傘をさしていた。

「で、おジャガ?リア(じゅう)に恐れをなして、しっぽを巻いて逃げ帰ってきたというわけ?救世主(メサイア)の情報はどうしたのよ??」

「あ、うん、ごめん……。救世主(メサイア)のことは何も掴めなかった。ただ、シグレちゃんの学校は見てきたのと、冷たいコーンポタージュの投稿には920eネが付いた……。」「あら凄いじゃない。私もeネしといてあげる。」

「俺、思ったんだよ。なんかバズりそうな予感がするなって。」「確かに。」と、自分の(あい)不穏(ふおん)を覗き込みながら、ネルネは「……これ、人とお金が動く(にお)いがするわね……。他にも冷たいおしることか、逆にあったかいコーラとか、そういったレアな筐体探しが始まりそうな気がするわ。……よし。決めたわ。豊子キッズに調査部門を設立しましょう。」

「で、でもネルネ?調査するって言ったって、全国に何台自販機があると思ってんだよ?」とジャガーが言った後、「ところでネルネ?なんで傘をさしてるんだ?」と聞いた。


「あ、これ?新しい白蛇の杖が完成するまで、仮にこれを、っておつうに渡されたの。可愛いから早速使ってみてるの。」「室内でか?」

「うふふ。おジャガ?きっと鈍感な貴方は気付かないだろうと思って…わざとこうしていたのよ。現に、貴方、最初見て気付かなかったでしょ?」ネルネはそう言うとレース付きの白い傘をくるくると回した。

「いや、気付いてたけどさ……指摘するのも変かと思って…」

「おジャガ?言い訳はお止めなさい。まあ、いいわ。見てなさい。えい!」ネルネが手元のボタンを押すと傘は自動で折り畳まれて、更に回転しながらシュルルルルル……と巻き取られていった。「おお……」

「凄いでしょ?これ。おつうが作ったのよ。全自動折り畳み傘。片手でも楽々操作。まあ、ただ今の私が欲しいのは松葉杖だからね……。こんなものを作っている暇があったら、早く白蛇の杖を仕上げなさい!と叱責しておいたわ。」「ナンバーツー……なんか可哀想だな、お前……。」とジャガーが独り言を言う。

「と、ところでネルネ、さっきの自販機の件だけど、そもそも調査には莫大なジュース購入費が必要になるわけだろ?…それに見合う儲け話があるっていうのか?」「ないわ!」「え」「おジャガ、これは先行投資よ!豊子キッズには転売用予算というものがあってね。多少の損失は想定したうえで流行りそうなものを購入する部署があるの。」

ネルネが壁に立て掛けてあったサスマタを持ったのを見て、ジャガーは首を(すく)ませて質問した。

「で、でもさ、今回のネタは何を転売するんだよ?冷たいコーンポタージュをか?冷やせばどれでもそうなるだろ……」

「そうね。それも時期とやり方を見誤なければ売れる可能性はあるわね……ただ、私が睨むに、うまいこと、こちらからの発信を早めにしておけば……いよいよ『冷たいコンポタ』『温かいコーラ』の流行が到来した時に、……企業案件をゲット出来る確率が高まるわ。」「……音無(おとなし)伊火鬼(いびき)か……。」とジャガーが小さな声で言う。


「……そうよ。今の伊火鬼ちゃんなら可能性は無くはない。豊子キッズが信憑性の高い情報を集め、それを早いうちから伊火鬼ちゃんのチャンネルに投稿するの。そして彼女の無音(しずか)AM(ごぜん)チャンネルを発信源にするのよ!」

「すげえな。早速取りかかろう。」

「……まあ、これは一つの可能性よ。大したプロジェクトでもないから、そこらで暇してるキッズを向かわせるわ。」とネルネが、今にも走り出しそうなジャガーの腕を、いつの間にか出していた傘の柄を伸ばして引っ掛けた。

「私達にはもっと重要な任務があるでしょ?」

「え?なんだっけ?」

「おバカ、忘れやすいのは私だけにしてちょうだい。救世主(メサイア)よ、救世主(メサイア)!」

「あ、そっか……。で、どうする?」とジャガーは言いながら、手首のパワーストーンブレスレットの位置を直した。


「あ、あの……」


小さく自信なさげな声が聞こえ、ネルネとジャガーが振り返る。


「あら、アナタ、いつからそこに居たの?」

と、ネルネが優しい笑顔で言葉をかける。


「ず、ずっとここにいました……ボク…。」


オドオドとした小柄な少年が、前髪に隠れた両目をネルネの方に向け、何かを言いたそうにモジモジとする。

「お前、豊子キッズ初等部の子か?」とジャガーが言う。

「はい。」

肩までの髪を無造作に下ろした少年は、上下緑色のジャージを着ていたが、それは両方ともブカブカで、今にも脱げ落ちそうに見えた。

「おい、お前、浮世なら何年生だ?」「おジャガ?貴方って弱いものイジメするタイプなの?圧が強いわよ?」と、ネルネがサスマタを構えながら、ジャガーを睨む。


「ネ、ネルネ様…大丈夫です。…ボク、こういう扱いは慣れてますから…。」

「貴方、お名前は?」

五十嵐(いがらし)葉南(はなん)です。」

「あれ?失礼だけど女の子?」

「いえ…その……ボク、どっちでもないです。」

「どっちでもないって何だよ??ぐへっ」

ジャガーの口にネルネがサスマタの先端を発射した。


「おジャガ?貴方はしばらく黙ってなさい。」「わ、わきゃったきゃりゃ……はじゅしてきゅれ……ゲホゲホ……どうも。」


葉南(はなん)で、呼び方はいいのかしら?どういうこと?説明して。」とネルネが優しく言う。

「言葉通りの意味です……。」と、少年は少女のように繊細な頬骨の辺りを赤く染めて、目を逸らしながら言った。

「ふうん……」と目を細めながらネルネは葉南の体を上から下までじっくりと観察した。


そしてジャージのズボンの中央に目を注ぎ、「ふん」と鼻を鳴らすと、「……わかったわ。そういうことにしておいてあげましょう。」と微笑みながら言った。


「で、アナタ、今まで気配を消していたみたいだけど、どうしたの?私達に何か用?不登校クラス初等部の子ならもう遅い時間よ。豊子キッズの授業時間はもうおしまいよ。そろそろおうちに帰らないと。」

「ボク、6年生です。来年からこっちに来ます。」と、葉南(はなん)と名乗った少年?少女?は消え入るような声で言った。


「あら、そうだったかしら。後で届け出をちゃんと見ておくわね。で?アナタ、まるで透明人間みたいだったわよ?それ、どうやってやるの?」「おい、ネルネ、それの方がイジメてるみたいな言い方だぞ??」とジャガーが言う声に被せて、

葉南が「えへ、これがボクの唯一の取り柄なんです。」と嬉しそうに言った。

「ボク、変な家で育てられたせいで、この特殊能力を習得させられてしまったんです。ボクはそんな家が嫌で嫌でたまらなかったはずなんだけど……。結局この能力を使って、家での気配を消して逃げてきました。」

「家族が捜索願いを出しているんじゃないの?」とネルネが聞く。

「うちは特殊なので、お(かみ)を頼ることはしません。それにボク、毎日家に帰ってます。」

「は?」とジャガーが言う。


「家に帰っても気配を消しているので、捕まることはありません。ただ家族はボクが帰っていることだけは感じ取っているはずです。」

「学校はどうしてるの?」とネルネが尋ねた。

「行ってません。ただ、クラスのみんなも先生も、ボクが居たことに気付いていないと思います。事情があって元々校区外から通ってましたし、授業中も休み時間も気配を消していましたから、今も現に誰もボクが居ないことに気付いていないと思います。クラス名簿もハッキングしてますし…。」


「お、お前、ナニモノなんだよ……現代の忍者かよ……。」とジャガーが呆れたような口調で言う。


よく見ると『葉南(はなん)ちゃん♡』、と呼びたくなるような愛らしい顔をした、この少年だか少女は、「はい♪」と弾むように返事をすると、「ボクは忍者の家の生まれです。」と言った。


「あら、そう。それは、それは。」とネルネが言った。


「で、葉南?そんな忍者の末裔であるアナタが、私達に何か言いたいことがあるようだけど……なにかしら?言ってごらんなさい。」


「はい。ネルネ様。ボク、ネルネ様のお役に立てるかもしれません。」と葉南が言った。

「と、言うと?」


「はい。実はボク、ずっとお二人のお話を伺っていたのですが…、

ボクが不登校になっている学校、……星明第二(▪▪▪▪)小学校(▪▪▪)です!その…、赤穂時雨(あこう しぐれ)ちゃんでしたっけ?その子多分、ボクのクラスメイトです。」


***************


「どう思う?おジャガ」と、ネルネが口にポン菓子を放り込みながら言う。

遠慮がちにジャガーは菓子を1粒だけ取り、ゆっくりと奥歯で噛みながら答えた。

「どう思うって、忍者のことか?あの子、隠密行動には長けてそうだけど、本来のアサシン能力は低そうだったな。あ、それともあっちの(ほう)か、男か女か問題か?今はそういうの聞きにくいよな、……そういうネルネはどっちだったと思う?」


「は?違うわよ。……相変わらず貴方は考えることが浅いわね……。」

ネルネは口一杯にポン菓子を流し込み、途中でむせて、何粒かを口から発射した。

「きたねーな、オイ……」

「ゲホッゲホッ……、私が言いたかったのはね?今回の任務を与えることで…結果的にあの子を不登校から救ったのではないかってこと……。

ほら、あの子はまだ若いわ。今からでもやり直せるの……。これを機会に学校に戻ることで、私達はあの子の未来を正しい方向に変えられたのかもしれない……。おジャガ、これは傲慢な考え方だと思う?

……ホントはね、私だって積極的に子供らを不登校にしたいわけじゃないのよ。いくら変態だからと言って、教師は教師。うまくそこをスルー出来たら、学校ってのは勉強したい人間にとっては得るものも多いはずなのよ……。」

「……ネルネ…。」


「……とは言え。あの子にはしばらく働いてもらうわ。倫護カンパニーの目も気になるから、葉南(はなん)には社用アンドロイドを持たせましょう。」

「いっそ伝書鳩とかはどうだ?」とジャガーが笑いながら言う。

「青い電子鳩は、もう『メ』になったのよ。諦めなさい。あ、ジャガー、後、葉南は女の子として小学校に潜入させるから。貴方も葉南は女の子として接するように。」


「……女の子として接する?」

「なによ?なんか文句あんの?」

「……ネ、ネルネ……わりぃ、お、女の子として接するって……どうしたらいいんだ?冷静に考えてみると俺実は……マトモに女の子と…話したことないんだ……。」「は?私は?」

「いや、お前は前世、男だろ……。ほ、ほら、今日さ、セ、セーラー服の女子中学生見て、俺、頭が真っ白になったんだよ……。」

「セーラー服なら、おつうもいるじゃない。何言ってんのよ。」

「…いや、そうじゃなくて……。まあ、いいや。忘れてくれ。葉南は女の子として接する……それは決定事項だな?」「そうよ。」

「……わかった…気を付けるよ……。」


ジャガーは心なしか青い顔をして、教室を出ていった。

ネルネはそれを見届けると、すぐにおつうに電話をかけ、月曜日までに女の子の服を1着、水曜日までにあと5着発注した。

「飛びきり美少女風のやつを2着、昭和風を1着、あとの2着は平成女児風で。月曜日までのやつは、制服風にして。最悪、あの子それしか着ない可能性があるから、念のため同じ布はキープしておいて!」

「了解致しました。……それが終わったらネルネ様のお召し物を御作りしても宜しいでしょうか?」

「構わないわよ。」「その時は念のため採寸に伺いますので……」「別に太ってないわよ。て、言うか葉南(はなん)の採寸はしなくていいの?」「それは大丈夫です。何度か見かけたことがあるので制作は可能です。」

「へえ、流石ね、おつう。あの忍者っ子を何度か見かけることが出来たなんて……」

ネルネは「じゃ、ヨロシク」と言って電話を切り、……まだ気管に残っているポン菓子をん、ん、と吐き出そうとした。

『The Great Operation of the Extraordinary Kids』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ