ヰ29 コーンポタージュとサボタージュ
校門で待ち伏せされていた美少年、向井蓮は、
クラスメイトのお洒落モブリーダー、赤穂時雨と一緒に下校しながら、
麗しい橫顔を微かに曇らせて考え事をしていた。
……洋風女子徒イレを全て詰まらせる活動 …。
これは正史では睦美ちゃんが犯す犯罪だった。当時は目的がよく分からなかったけど、……なるほど。和風を保全する為のテロと考えれば合点がいく。このタイミングで改装工事のお知らせが来るのは、記憶より早くなっている気がするが、
……転生早々、僕がエロドロしたことにより、目に見えて歴史が変わり始めているようだ。
でも、大筋の展開は変わっていないみたいだから、……もうすぐ僕と睦美ちゃんの間には、本当の意味での接近遭遇が起こるはずだ。
……ただ、それまでの間にいくつか片付けておかなければいけないことがあるのも事実だ。また、これから現れるあの最大の難関に対する心の準備も必要だ。
洋風破壊テロの方に関しては、……結果はどうあれ、今の科学特捜部にやらせておけば、睦美ちゃんが犯罪に手を染めることはあるまい。
「ねえ、向井君、聞いてる?」
「ん?」
我に返った蓮が、声をかけてきた破壊神カーリーヘアの少女の方に顔を向ける。
「もう!あのね、もう一度言うよ?昨日の夜、またねりけしちゃんからluinが来たの。」
「え?そうなの?」と、驚いた様子で蓮が立ち止まる。
「さっきから言ってるよ?もう!向井君ったら!だいたい、放課後は教室で何してたの?一緒に帰る約束をした後、なかなか来ないから、何度も校舎に戻ろうとしたけど…、すれ違いになるのが怖くて……結局、この寒空で待ってたんだからね!!」と時雨はプンプン!と胸の前で腕を組んでこちらを睨みながら、膨らませた頬を赤くしていた。
「ごめんね、赤穂さん。お詫びに自販機で何か温かいものでもおごるよ。……ところで、その、ねりけしちゃん……豊子キッズのネルネのことだけど……君になんて言ってきたの?」
「あ、私、コーンポタージュがいいな。えへっ、アリガト。」
近くの自販機の前に立ち止まった蓮は、愛・不穏をタッチして、時雨の分と、自分のコーヒーを購入した。
「で、ネルネはなんと言っ……」
受け取り口から時雨が自分の分を取ると「あれ?このコーンポタージュ?冷たいよ…」と言って「……キンキンに冷えてる……」と呟いたかと思うと、可笑しそうに笑い出した。
「マジ、ウケる!早速、メ(旧ツイスター)に上げなきゃ。」
「どうする?もう1個買う?」と蓮が言う。
「ちょっと待って………、う~ん…写真だとこれが冷たいって、うまく伝わらないわね……。どうしようかしら」缶を自販機の後ろのブロック塀に乗せて、愛・不穏で連写する時雨の背中を見て、
蓮が「その投稿、ねりけしちゃんも見るかな?」と言った。
その言葉を聞いて、時雨がスマホを構えたまま振り返る。
「えー?口を開けば、ねりけしちゃん、ねりけしちゃんって…、あの子がそんなに気になる?…まあ、確かに可愛い子だったわよ?でもあの子、豊子キッズだよ??これだからイケメンプレイボーイは油断できないわ……。やれやれ。正妻である私が手綱を握っておかなきゃね(小声)。」
「いや、必ずしもネルネに興味があると言うわけじゃないんだけど……。逆に豊子キッズがこっちに関わってこない方がありがたいから、あいつの動向が気になるんだよ……。あ、ところでさ、そもそもなんだけど、旧ツイスターって、小学生も使えたの?今は『メ』って言うんだっけ?…二周目に来て一番驚いた変化はこれかな。……まさか、あのツイスターがメなんていうクソダサい名前になっているとは……。ところで、ツイスターは13歳以下は利用出来なかったんじゃなかったの?まあ、これも歴史改変の結果なのかな……。」
時雨は頭の上にクエスチョンマークを表示しながら、「え?元々『メ』は12歳から利用出来るよ?成人も18歳に引き下げられたし、時代は色々進んでいるのよ?」と言った。
「へえ、そうなんだ。じゃあ、ひょっとして、結婚可能年齢も、女子は14歳とかに引き下げられたの?」と蓮が言う。
「え……そ、それは、逆に18歳に引き上げられたわ……」と言って、時雨は顔を真っ赤にすると、「もう……向井くんのバカ……、エッチ……」と蓮の背中を叩いた。
「で?ねりけしちゃんは何て連絡してきたの?」叩かれて軽く咳き込みながら蓮が言う。
「え?ああ、そっちの件?なんかね、この間はゴメンネって。それだけ。」
「それだけ?」
「うん、それだけ。」
「……なんか逆に不気味だな。まあ、いいや。今のところ豊子キッズとの接点はないし、気にすることはないか。また何か連絡があったら教えて。」と蓮は言い、
心の中で、……睦美ちゃんのお兄さんと豊子キッズを近付けなければ大丈夫……。今は脅威となるものは何もないはず……。と考え、「赤穂さん、そろそろ行こうか。コーンポタージュは後でおうちで温めるといいよ。あ、でも缶のまま電子レンジで温めちゃダメだよ。火花が散ったり、破裂したりするらしいから。」
「じゃあどうやって温めるの?人肌?」
「いや……それはちょっと……」と蓮は言いながら、缶コーヒーをプシュッと開け、
口を付けた瞬間、あ、僕まだ子供だった……うへっ、コーヒー、にがいし、マズイ……と顔をしかめた。
それを見た時雨は、……向井くん、女子の前で缶コーヒーとか、カッコつけちゃって……かぁわいい♡と、ニヤニヤするのだった。
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その頃、科学特捜部部長、三浦詩は3階の女子徒イレで、規制線が張り巡らされた和風個室の前に立ち、4室ある洋風個室の列を睨んでいた。
詩の両手には、『囁く止血シート』と、『茶色い紙筒』と、『夜用吸収ギャザー』が握られていた。
やがて詩は唇を噛んだまま、洋風個室を一つ選び、沢山の荷物をまとめて片手に持ち変えると、静かに扉に手をかけた。
「待ちなさいよ。」
後ろから声がかかり、詩はピタリと動作を止める。
「……聞くけど、あなた、何してんの?」
振り向くと腕を組んだ近藤夢子が、こちらをじっと見つめていた。
夢子は細い目を藪睨みにして、おかっぱの頭をポリポリと掻いた。
「……ねえ、あなたの持ってるそれ、『乙(女)淹れに流してはいけないもの上位3位』じゃないの?
……ナンバー1、平たいクリ汚ネちゃん。ナンバー2、使用済ペーパー芯、そしてナンバー3、……なんでアンタが持ってんのか知んないけど、紙のお (ぼ)し召 (し)……。
多分だけど、……あなた、意図的にそこを詰まらせようとしてない?大丈夫?それ、犯罪とかになんない?」
三浦詩は黙ったまま、手に持った物を背中に隠した。
沈黙の中、再び夢子が口を開く。「どういうこと?アンタさっき教室で、転校生となにか話してたみたいだけどさ……、まさかキダルトくんに変なことを吹き込まれた?またはそそのかされた?いつものあなたらしくもない…。」そう言うと夢子がジト目で詩のことを見つめた。
夢子は大きな溜め息を吐き「……まあ、大方予想はつくけどね。発覚した設楽居睦美の和風趣味の件でしょ?アンタ、あの子に嫌われたくないから、破壊活動しようって魂胆でしょ?例えば洋風を使えなくして、和風を復権させるとか?あの頭が回るキダルトくんの入れ知恵じゃないの?ねえ、アンタ、ほんと大丈夫?」と言った。
そう言われても、まだ詩は返事をしなかった。
「ねえ、あまり派手にやると、うちの学校の少年探偵団が動き出すわよ。あそこには小5にして、大人の犯罪者を半殺しにした殺人兵器がいるって噂よ。私達、科特部じゃ到底歯が立たない相手だかんね?」
「……じゃ、じゃあ私にどうしろって言うのよ……」そう呟いた三浦詩の目から、ポロポロと大粒の涙が溢れてくる。
「やれやれ……。」と、夢子が大袈裟にかぶりを振った。
「わかったわ。アタシが協力してあげる。……そうね。まず、犯罪行為はやめましょ。もっと建設的にいきましょうよ。実はね……色々情報は仕入れてきてるのよ、私。……この洋風工事、実際は卒業までかかるそうよ。その間、和風部屋は使えないらしいわ。」
「だからどうすればいいのよ?あんまりよ……こんなの睦美が可哀想すぎるわ……うぇ~ん」
「そうメソメソしなさんな。…さて、ここで問題!メソポタミア文明はどの流域で発生したでしょうか?」
「え?…チ、チグリス(ふぇ)・ユーフ(ふぇ)ラテス川?」しゃくりを上げながら詩が答える。
「そう!チチクリ・ユーフェラテス皮!さすがね!昨日、習ったばかりでしょ?目には目を、歯には歯を、よ!悪いことは出来ないわよ!」
「で…(ふぇ)ど、どうしたらいいのよ…?」
「どうもしなくていいわ。工事業者が入るってことは、そう!
業者が仮設斗淹れを設置するってことよ!この意味分かる?……て、言うかもう体育館橫に設置されてたわよ?ご存知か知りませんけど、仮設斗淹れは必ずと言っていいほど和室になっているものなのよ。だから和風好きは、あそこを使えばいいの……さ、メールか何かで設楽居睦美に知らせてやりなさいよ。あの子、喜ぶと思うわ。」
「あ、あ、ありがとう!!」と言って詩は、豊満な夢子の体に抱き付いていた。「ありがとう…!ありがとう……!」
そう言いながら涙でグシャグシャになった顔を夢子の吸水性の高いパーカーに押し付ける。
「やめてよ」夢子はそう言うと、照れ臭そうに詩の体を引き剥がし、「ほら、廊下に出ましょ?突き当たりの窓から仮設部屋が見えるわよ?」と微笑んだ。
もう一度「ありがとう」と言った詩は、手に持った『夜用吸収ギャザー』で涙を拭き、……ニッコリと笑った。
2人が窓から外を覗くと、体育館のスロープの橫にある花壇の脇に、
謎のミントブルーの壁とパステルピンクの扉が付いた、ド派手な仮設斗淹れが2台並んでいるのが見える。
「ほら、ご覧なさい。何故か全国の工事業者が決まって設置する、女児カラーの仮設斗淹れよ。……まさに設楽居睦美向けじゃない?知らんけど。」と夢子が満足そうに囁く。
「そうね……」と詩も呟き、ガラケーで写真を何枚か撮ると、簡単な状況説明と共に……、
睦美に向かって、
「えい♡」と写メール(死語)を送信したのだった。
『Corn Potage and Sabotage.』
少年探偵団の活躍がご覧になりたい方は、前作『さよなら少女壊滅戦争』をお読みください。読まなくても本作は楽しめますが、もっともっと楽しみたい方にはオススメ(オスメス♡)です。
あっちは完結済ですよ☆☆☆☆☆
評価0ptで、さよなら少女・オプトイン!




