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ヰ21 この世界の主人公


「おい、ネルネ?」

金髪でニキビだらけの男子が、段ボール箱を抱えながら部屋に入ってくる。


コンクリートが剥き出しになったビルの一室に、整然と並べられた机の列の一番後ろで、

参考書を広げて腰掛けていた、白のセットアップのロリータ服を着た少女が顔を上げる。


少女の顔はバッチリ化粧されていて、艶のある黒髪はふんわりとしたボブカットにしてあった。

椅子の後ろの壁には白い松葉杖が立て掛けてあり、その先端部に黒い翼のアクセサリーが引っ掛けてある。


「なあに?」


「いやさ、今この荷物が届いてさ。」と金髪の革ジャン少年が言う。


「ふうん、何処から届いたの?」


乃望(のぼう) 竹千代(たけちよ)さんから。でさ、この宛名にある、三船(みふね)るねって誰だろ。」

「バカ。私のことよ。三船るね、……ネルネでしょうが?……千代(チヨ)さんからの荷物?何かしら。」と、白いロリータ服の少女は、首から提げた三角巾に、ギプスが巻かれた左腕を差し込み直しながら(つぶや)いた。


「なあ、ネルネ?これ、凄く重いんだけど、ここに置いていい?」と黒金髪の少年が言う。


「ジャガー?貴方バカなの?そんなこと自分で判断しなさいよ。ほら、そこに置いて!で、開けてみて。」とネルネと呼ばれた少女が言った。


「あー重かった!」と言ってジャガーが段ボール箱をドスンと床に置く。「じゃ、開けてみるよ」

ジャガーは中指に嵌めたシルバーリングを裏返し、ガムテープで貼られた接合部を引き裂いていった。


「何が入ってた?」とネルネが椅子に座ったまま聞いてくる。


「なんだろ?これ、教科書……か?」と言いながらジャガーが箱の中から冊子を一冊取り出すと、はい、と差し出した。「…まだまだイッパイ入ってるぜ。」


ネルネはそれを受け取り、「ああ、わかったわ。これ、教育委員会に採用されなかった出版社の教科書よ。そう言えば何かの時に千代(チヨ)さんが言ってたわ。選考漏れした教科書を送るから読んでみなさいって。勉強になるからって。」


「竹千代さんってさ。」とジャガーが歴史の教科書をぺらぺら捲りながら言う。

豊子(とよこ)さんの孫だろ?いったい歳はいくつぐらいなんだろうな?」


「さあ。私も知らないわ。少なくとも成人のはずよ。このビルを借りてるわけだし。」

「そもそも、竹千代さんって、男なの?女なの?」とジャガーが遣隋使のページを見ながら言う。「小野妹子とかさ、名前だけだと紛らわしいじゃん?」


「竹千代は普通、男の名前だけどね。…でもチヨさんは女性だと思うわ。」とネルネが英語の教科書の登場人物をチェックしながら言う。「電話では何回か話したことがあるの。声は普通に女性だったわ。あと、多分オバサンではないわね。若そうな喋り方だった。……お、採用された出版社のより、この教科書のキャラの方が断然可愛いわね……。ふむ。勉強になるわ…」


「ちょっとそっちの本も貸して」と言って、ネルネが無事な方の右手を差し出す。


「…………。」


「なるほどね。」と、歴史の教科書を受け取ったネルネが感心したように(つぶや)く。

「歴史ってのは未来から見る人間の視点、思想によってこうも変わるものなのね。」


「ん?どういうこと?具体的には?」とジャガーが言う。

「これを見てよ。」と、ネルネが(あい)不穏(ふおん)を取り出して、あるブログ漫画のページを表示した。

「さっき貴方も小野妹子のことを言ってたけど…この人の漫画を見て。

国書紛失のドジっ子小野妹子(いもこちゃん)が隋から大陸思想を持ち帰って、それが結果的に中大兄皇子(おにいちゃん)を駆り立てて、蘇我氏を滅ぼすっていう展開。ほら、見て入鹿(いるか)ちゃんのキャラデザ、可愛いでしょ?私もこのキャラをpixpixに投稿したことがあるわ…。まあ、それはいいとして、私、これ読んで大化の改新を学んだの。」

「……結構な割合で偉人が女キャラに変換されてねーか……これ。」とジャガーが若干引きながら言う。


「つまりね、未来からどう描くかで、歴史ってのはいかようにでも変えられてしまうの。そう、まるでタイムトラベラーか転生者が、自分の都合の良いように歴史改変をするようにね。」とネルネが得意気に説明をする。


「ふうん、でもお前は過去に戻る系の転生展開には反対してたんじゃないのか?いつもそんなこと言ってたじゃん。」とジャガーが更に段ボールを漁りながら言った。

「当然よ。世界の主人公気取りの奴に、勝手に歴史を変えられてなるものですか!まあ、この漫画は面白いけど……。」

「でもさ?正直、今、転生って流行(はや)ってんじゃん?異世界に飛んだりするやつとか。」とジャガーが顔を上げてネルネの方を見ながら言う。「そういうお前だってそうなんだろ?」


「言ってたじゃん、元々暮らしてた剣と魔法の世界では、お前、最強の魔法戦士(♂)だったんだろ?向こうで魔王と相討ちになって、次に目が覚めたらこの世界に生まれていたって。」


「……そうよ。記憶を持ったままで生まれてきてみれば、…この最弱な体、と言うより、何故か滅茶苦茶事故に合いやすい星の下に生まれてきていたのよ…。自慢の巨棍(マジックステッキ)も失うし、立って妖(術)も()せないし……、

まあ、でも?これだけ怪我しても死なない私ってやっぱ強いのかしら??

……正直14年も女の子として生きてきて、前世の記憶はほぼ忘れたわ!特にここ数年、詰め込み学習をしてきたせいで、古い役に立たない記憶はキレイさっぱり忘れてしまったくらいよ!だって魔法学の知識とかマジで1㎜も使えないし。」

「そう言うけどさ?マジで1個くらい何か使えないの?」とジャガーがニキビに薬を塗り始めながら言う。


『セプテルミヌーヴァ!!!』


と、ネルネが手のひらを(ひら)きながら怒鳴り、ジャガーは思わずビクッとして目を閉じた。


「え……い、今のなに?」と恐る恐る薄目を()けながらジャガーが尋ねる。


「ん?ああ、滅びの呪文よ。世界を消滅させるやつ。効かなかったでしょ?」

「あ、あぶねーな……効いたらどーすんだよ?!」


「さ、くだらないこと話してないで勉強に戻るわよ。」とネルネが言い、体を回した瞬間……、

怪我していない方の肘を、机の角にぶつけ、ウ……とその場に(うずくま)ってしまった。

「だ、大丈夫か?」とジャガーが言うと「うるさい!」と目に涙を溜めたネルネが叫んだ。


***************



お好み焼き店、ムーンバックスで向かい合わせに座った赤穂時雨(あこう しぐれ)向井蓮(むかい れん)は、人気のメニュー、プレーンオコノミを焼きながら、luinを交換していた。


「向井くんは、今日なんで新宿に来たの?」とニコニコしながら時雨が言う。


「あ、ああ、ちょっとね。豊子キッズを見に来たんだよ……テレビで話題になってたから…」


「ふうん。私はね、今日初めてネッ友に会う約束をしてたんだけどね?すっぽかされた上に、来ると言われてた煉獄ちゃんも来なかったし……もう散々!

まあ、でもこうやって 向井くんとご飯が食べれて……結果的には良かったかも!」と時雨が鉄板の上でお好み焼きを切り分けながら言った。


「そのネッ友さんって、さっきの豊子キッズの女の子だったの?」と蓮がお皿に乗せられた小麦粉の塊に、ソースとマヨネーズをじぐざぐにかけていきながら言う。

「はい、どうぞ。鰹節はホントにいらないんだね?」

「ありがとー。うん、いらない♡向井くんて優しいんだね。」


ムシャムシャ…………。


「水汲んでこようか?」

「え?うん、ありがと。」と時雨が頬を赤らめながら言う。


コトン……


「で、赤穂さん、さっきの豊子キッズの話だけどさ、」

「向井くんってさ」

と2人の言葉が同時に重なる。


「…な、なに?どうぞ……」と言って、蓮が片手を水平にして、時雨が先に話すように促す。

「あのさ、…答えたくなかったらいいんだけど……、向井くんって、設楽居(したらい)さんとどういう関係なの?」


「え?ああ、そうだね……。この時点では今のところ、どんな関係でもないかな……。」と儚げな笑顔で蓮が答える。


「そう。それなら私にもチャンスがあるかな……」「え?何か言った?」「ううん、何でもない。向井くんがさっき言いかけてたのはなに?」

「あ、うん。さっき鈍器(▪▪)前で会った(しろ)リ少女だけどさ、………あの子と知り合いなの?」


「えーー、向井くん?あの子のことも気になるの??ったく美少年は恋多きお年頃??」と時雨がモグモグと小麦粉を頬張りながら言う。

「……いや、そういうわけじゃないけど……赤穂(あこう)さん?」「ん?」「口のまわり……その、マヨとソースのリミックスが……」「え?ヤダハズカシ…」と時雨が紙ナプキンを摘まんで唇を拭く。


「いや、赤穂さん?まだ、取れてないよ…」

「えーどこ?どこ?」

仕方ないな……と困ったような表情を浮かべた美少年が、新しい紙ナプキンを掴んで、

目の前の少女の口を拭いてやる。


「!???!!」


時雨が真っ赤な顔をして固まってしまった。


あ!しまった!!……大人(おとな)の人生が長かったせいで、思わず姪っ子に接する気分でやってしまった……。


「そ、それで……さっきの話だけど」と蓮が無理矢理話を戻そうとするが……、

赤穂時雨は、瞳孔を見(ひら)いたまま、鉄板のように頭から湯気を噴いて静止してしまっていた。


その時、テーブルに乗せられていた時雨の(あい)不穏(ふおん)が着信する。


「あ、赤穂さん?なんか来ましたよ?」と蓮が汗をかきながら言う。


と言いながらも蓮は画面に表示された名前を横目で確認していた。


ねりけしちゃん……


ん?赤穂さん、さっき鈍器法廷前で豊子キッズの子のことを、その名前で呼んでなかったっけ?


「ね、ねりけしちゃんからメッセージが…届いたみたいだよ。……あ、勝手に見てゴメン……」


「え?」

「勝手に見て、ゴ……」

「ねりけしちゃんから?」と時雨がガバッとスマホを掴む。


「もう!!あの子、今日いっさい連絡くれなかったから!」

「えーと、あの、さっきの白ロリータ服の子が……ねりけしちゃんなの?」

「ん?よくわかんない。聞いてみるよ。」


ポチポチポチ……


12:55(既読)(さっき鈍器の前で会った?}


{会ったよ)12:56

{連絡しなくてゴメンね)12:56


12:57(既読)(あなたさっきの子?}


{そうだよ)12:57

{ひょっとして)12:57

{さっきのカッコいい男の子と一緒?)12:57


「向井くん?ねりけしちゃんが、今、向井くんと一緒にいるか聞いてきた。……狙ってるのかな……」と時雨がちらっと蓮の顔を見る。

「……いるって答えていいよ。」と蓮は言った後、唾をゴクリと呑み込んだ。


12:58(既読)(一緒にここにいるよ}


「ヤバっ。私、今、豊子キッズと会話してる。」と言って、時雨は楽しそうにクラスメイトの少年の顔を見た。


転生美少年、向井蓮は、

………豊子キッズか……。睦美(むつみ)ちゃんの未来を修正するには、何かしら先手を取っておいた方が良いのかもしれないのだが……。

……先に色々手回ししておくことがあり過ぎて、まだ僕、ろくに睦美ちゃんと話せてないんだけど……と考え、

「ねえ、赤穂さん?ねりけしちゃんに今から会えないか、聞いてみてもらってもいい?」と言い、水にそっと口を付けた。

『The main character of this world』

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