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ヰ14 異変


……時計の針は急速に戻り、凄いスピードで逆再生されていく数々の場面。

設楽居睦美(したらい むつみ)は逆さ向きに廊下を歩き去っていき、

個室に戻ると、受け皿から身体の中にシッポを収納し直して、……テケテケテケ………と、帰りの会が終わったばかりの教室まで、後ろ向きで戻っていった。


****************



「転校生!今から科学特捜部の会合よ!一緒に来なさい!」


白く長いワンピースを着た、黒髪の全身幽玄少女、三浦詩(みうら うた)が、(さげす)むような 眼差(まなざ)しで、巻き毛の美少年に声をかけた。


「……ホントに僕を部員に認めてくれたんだね?ありがとう。」と言って、転生チート美少年、向井蓮(むかい れん)がニコニコしながらついてくる。


「一応、理科室の整理をするっていう名目で、クラブ活動に使用させてもらってるからね。まずは掃除からよ。」と言って近藤夢子(こんどう ゆめこ)が先頭に立って職員室から鍵を借りてくると、

「キダルト君?調査はどうだった?」と言った。


「キダルト……?それって僕のこと?キダルト……。そんな言葉もあったような……。確かメディアが流行らせようとして、一瞬で(すた)れた言葉ではなかったかな……?」


「で?なにか収穫はあった?」と夢子が言いながら理科室の扉を開け、「三浦詩(みうら うた)?アンタは床を掃いて!ガラス片とかあるかもしれないから気を付けてね。」と言った。


向井蓮(むかい れん)は、

………さて。人生2周目で、ようやく科学特捜部に潜入出来た……。何はともあれ睦美(むつみ)ちゃんをここへ近付けないことが重要だ。正史(▪▪)では、睦美ちゃんの運命を狂わせるのは、この科学特捜部……。僕がここに在籍することで、入部への妨害はやりやすくなったはず。

……とにかく、今僕がすべきは、三浦詩と、近藤夢子の信頼を勝ち取って、この部に深く入り込むこと。それが得策だろう。


今日はその為に1日かけて僕は、近藤夢子から要望のあった男子()イレ調査を綿密に(おこな)ってきた。

女子にとっては未知の世界を、今から余すことなくお伝えしよう。


……多分、すでに僕は今回のエロドロップの件で疑われている。だがそれも想定の範囲内だ。

……対策は考えてある。まずはこの最初の会合の目的は、その疑惑の目を他へ逸らすこと。

よし、……頑張るぞ。待っていてね睦美ちゃん。君の為に僕は戻ってきたんだから。


「なに、ボ~ッとしてるのよ!机でも拭きなさいよ!」と詩が怒鳴る。

「まあまあ、喧嘩しない喧嘩しない…転校生くんには、そこに出しっ放しになっている雌尻(メスシリ)ンダーでも片付けてもらいましょう。おほほほほほ………」 と夢子が笑う。


*************


一通り、掃除を終わらせた3人は、ガスの元栓のついた大きなテーブルに集まり、

背もたれのない四角い木の椅子に腰掛けていた。


女子組の夢子と(うた)が隣合って座り、(れん)がその向かい側に座っている。


………。


……こうして冷静に向かい合ってみると、この転校生、恐ろしく美少年ね……。古い少女マンガにでも出てきそうな中性的な容姿。儚げでいて小悪魔的。冷徹でいて哀しげな瞳。

「さて、転校生くん。アナタには、今日のエロドロップ事件の手掛かりを探す為に、男子()イレを調査してもらったわけだけど……で…どうだった?」と夢子がメモ帳を(ひら)きながら言う。


詩もノートを(ひら)き、転校生には見えないように、そっとノートに挟んだ、カールした1本の毛を指で隠した。……どこかのタイミングでこれ(▪▪)と美少年の髪質を比較しなければ……。


蓮が(オホン)と言って立ち上がる。


「お集まりの皆さん。本日の調査結果をお知らせ致します。……まず皆さんに前提として知っておいてほしいのは……、男子が学校でUN()(K)O()をすることは考え辛いと言うことです。」


「なぜ?」と詩が苛々とした声で言う。


「そもそも、男子は個室に入ること自体が、『女子のように隠れてYOを足す』イコール『女みたい』という風に感じられ、個室に対してある種の心理的抵抗があるのです。」


「なにそれ??『女みたい』って何よ?!バカにしてんの??」と詩が、ほとんど叫ぶ勢いで大声を出す。


「まあ、落ち着いてください。これは僕の個人的意見ではありません。これは思春期手前の男子の本音と言うか、ある種の事実を語っています。」と言って蓮が寂しげな横顔で微笑みを浮かべた。


「ほほ~ん。面白いわね、続けて。」と夢子が言う。


「はい。ありがとうございます。……まず、女子の皆さんには理解が難しいかも知れませんが……、男子は基本、立ってYOをたします。」

「そ、それくらい知ってるわよ……。でもそれはあっち(▪▪▪)の時でしょ?…なに?アンタらは立ってUN()(K)O()するとでも言いたいの?」と詩が顔を背けながら言う。


「いえ、それはないです。話を戻しますと、逆に『立ってしない』イコール『UN()(K)O()する』ということになり、それはバカにされる対象となります。……悲しいことに、この年頃の男子は、本能的に女子っぽい男子をバカにします。よく勘違いされているのですが『UN()(K)O()』をすること自体がバカにされているのではありません。

……深層心理では、座ってYO+(ようプラス)することに対して、tink(ティンカーベル)の無い体を想像し、それが男子として不足した存在であると認識されてしまう為なのです。」


「あ、あんた、マジでそれ言ってる?フロイトを気取ってるのかもしんないけど、あんた今相当女子をdisってるし、時代錯誤の偏見バリバリの意見を言ってるわよ??」と詩が嫌悪を(あらわ)にした表情で、静かに言う。「これ以上言ったら、私、あなたを殴るかも……。」

「まあまあ……。キダルトくん、アンタなかなか面白いわね。でも、令和の今、男子も座ってするようになっている、と聞いているけど?」と夢子が言う。


「……ああ、それはあくまで自宅での話ですね。主に母親からの圧力で、座ってすることを強要されています。ただ、多くの男子、または男性は、外では普通立ってしますね。座ることでの(うつわ)への距離の近さから…その行為を不潔に感じている側面もあります。立ってする分にはすぐ終わらせられますしね。」


「女子が不潔だって言いたいの……?!」詩はもう怒りを隠そうとせず、前に垂らした黒髪の間から悪魔のような赤い瞳で睨んでいた。


「ちょっとちょっと、話が逸れてるわよ?」と夢子が言う。「で?キダルトくん、アナタが言うには…前提(▪▪)として、学校でUN()(K)O()をしない、ということだったけど……その上で何かを見つけたの?男子は基本、個室を使わないということはわかったわ。……理由に関しては諸説ありそうだけど……。それで?何か、男子が個室を使っていた例外的な証拠かなんかはなかったの?」


「……さすが近藤さん、鋭いね。」と言って蓮が笑った。「もう、敬語は疲れたから普通に話すね。」「どうぞ」「ありがとう。後、更に忘れてはいけないのは、今回のエロドロップ現場が和風だったということ。僕は画像を見ていないけど、近藤さんから教えてもらったからね。

……男子()イレの個室は3つ。そして、それらはほぼ使用されていないにも関わらず、わざわざ和風を選ぶなんてことは、今の世の中、なかなか考え辛い。」

「確かにね……一応聞くけど、男子もやっぱり和風は嫌なものなの?」と夢子が聞く。


「逆に聞くけど、女子はなんで和風が嫌なの?」


「まあ、座る姿勢が大変なのと?無防備な感じがするからかしら?」


「ちょっと近藤夢子??こんな変態男にあまり情報を与えないでよ?!」


「アハハ……無防備か……それは男子も同じだよ。あと、排出したものが見えるのも嫌だしね。」と蓮が言う。「確かに。……で?結局、男子()イレで和風が使用された証拠もしくは使用した犯人(?)の情報は見つかったの?」と夢子が言う。


「ああ、それがね。……実は3階の和風個室に…ある一つの異変があったんだ。」


「「異変?」」


向井蓮(むかい れん)から、今までのふざけたような雰囲気が消え、

思わず、夢子と詩は唾をごくりと呑み込んだ。


「そう。異変。……実はね…壁に備え付けられたロールペーパーの切り口が……三角形に折られ(▪▪▪▪▪▪▪)ていたんだ(▪▪▪▪▪)!!」


「「なっ………?!」」と2人の少女が同時に絶句する。


「まさか……。ガサツでバカな男子という生き物が、ロールペーパーをお上品折りするなんて……そんなことあり得るの??」と夢子が叫んだ。


「まあね。でも話の要点はそこじゃないよ。お上品折りをした(かれ)は、紙を使ったんだ(▪▪▪▪▪▪▪)。つまり、(かれ)は個室で大の大冒険をしたということ……」


「なんで紙を使ったらdieをしたことになるのよ?showの時でも使うでしょ?さっき、あんただって、今は男子も座ってする場合があるって言ってたじゃない?」と詩が顔をしかめながら言う。


「「え……?」」と、夢子と蓮が、詩のことを見た。


「ちょっと待ってよ、三浦詩。」

「詩ちゃん?あのね、男子はshowの時は拭かないんだよ……。」


「…………。」


「………。」


「……。」


「え、え~~~~?!?」


詩の大声に驚いて、逆に夢子と蓮がひっくり返りそうになる。


「ふ、ふ、ふかないってどういうことよ??だ、男子って、そこまで不浄な生き物だったの?よくそれで女子のことを不潔呼ばわり出来たわね!!」


「まあ、落ち着いて(うた)ちゃん、」と蓮がなだめるように手を上げながら言う。「男子と女子じゃ、体の構造が違うから……。」

「お前に(うた)ちゃんと呼ばれる筋合いはない!!!全国の詩ちゃんに謝れ!!」


とは言いつつも、三浦詩は怒りのあまり、自分の夜用秘密兵器に、(かす)かに、しきん距離噴射を(おこな)っていた。……こ、これはいいのよ……。ちゃんと受け止める先が吸収してくれているから……。消臭も抗菌もバッチリ。そもそも女の子のはばっちくないの……。

て、言うか、この美少年、演奏後、笛をふいて(▪▪▪)ないの??(きった)ねーーー!!(自分のことは大気圏外まで棚に上げて。)

「寄るな!バイ菌!」と言って詩は椅子から立ち上がった。


「ば、ばいきんって……。昭和のイジメじゃないんだから……」と夢子もさすがに驚いて「まあまあ……」と詩の袖を引っ張った。


「ところで、転校生!!あなた、設楽居(したらい)のこと、どうして知ってるのよ!!」と詩がビシッと指を差してくる。


「……いや、だから僕、転生したから。小6から人生をやり直してるんだ。言ったでしょ?」


「転生したからといって、ストーカーしていいって理論にはならないわよ!お前はクビよ!!今日を持って科学特捜部を退部!出ていけ!!」


「え……」


(あきら)めなさい、少年……」と夢子が(ささや)く。

「でも、まあ、私のなぞなぞ倶楽部になら入っていいわよ。」と蓮にそっと耳打ちすると、夢子は「おっと、もうこんな時間、解散しましょうか。」と言った。


「……今日から僕、拭くようにするから……科特部に入れてくれないかな……」と蓮が小さな声で言う。


夢子がキャハハハハハ………とバカみたいに笑う。


「死ね!ヘンタイ!」と言って詩は、美少年の背中を蹴飛ばし、

2人の少女はそのまま理科室を出ると、施錠した後、職員室へ鍵を返却しに向かった。


蓮はとぼとぼと反対方向へ歩き去っていった。


夢子と詩が、廊下の角を曲がったところで、

「妹子のしょんまんじろー………」と女子の声が聞こえ、

近藤夢子が「お、アンタ達、なんかエロ話してる?」と言って首を突っ込むと、

時計の針は完全に元に戻り、時間は合流したのだった。

『Anomaly』

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