ヰ108 前世の記憶
なんやかんやで、午後は絵美理と2人きりになる時間がなく、
風花は、ちらちらと友人の横顔を伺いながら1日を過ごした。
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「ねえ、風花ちゃん?」
と、絵美理が歯磨きを終え、寝る前の準備に鏡の前で髪留めを付けながら言った。
「……なあに?」
と、話しかけられた風花の方が驚きながら答えた。
「……風花ちゃん。」
「な、なあに……」
「あなたに聞きたいことがあるの………」
来た……。と、風花は肌身離さず持っている、四つ葉のクローバーの栞をポシェットの上から押さえると、唇をギュッと噛んだ。
「……ちょっとこっちに来てこれを見て。」と、絵美理は風花を促し、4人1組の相部屋になっている寝室の2段ベッドの方へと彼女を引っ張っていく。
「あなたの意見を聞きたいのよ。そして教えてほしいの…。」
「……わ、分かったわ……あのね、絵美理ちゃん?私のが一枚黒いのは……多分、そういうことだと思うから……私も丁度あなたの意見を聞きたかったの。」と風花は言うと、唾をゴクリと呑み込んだ。
絵美理は、ベッドに上半身を突っ込み、枕の下をごそごそと弄る。「……黒い?私のは青いわよ…」そう言いながら手に何かを持って戻ってくる。
「これよ。」
……絵美理が持ってきたものを見て、
風花は「………」と無言で彼女を見つめ返した。
「……この使い方を教えて。」
絵美理の手に握られていたものは…、
……透明の四角いフィルムで、その中央には青く印刷された的のような模様があった。
「はい???」と風花は言って、…取り出そうとしていたクローバーの栞を引っ込めた。
「……孔雀お兄ちゃんは、次から次へと変な検査を持ってくるわよね?……風花ちゃんは、これもうやった?やり方がよくわかんないのよ。」
「………。せ、説明書を読みなさいよ……」と風花が言う。
「これ?」と絵美理が言って、検査が入っていた封筒を取り出す。
「……正直見てもよく分からないのよね。」
「……か、貸してごらんなさい」と言って風花は説明書をひったくり、開いてみせた。
そこには、背中を向けた可愛い天使がオシリスを拭いているような絵が描かれており、
何故かこっちを見て微笑んでいた。
「……なに笑ってんのよ、こいつ?なんかムカつくわね」と絵美理が言う。
「だいたい、なによこのQPは?なんで禅羅にならなきゃならないのよ?」
「……いや、別に禅羅にならなくてもいいんだけどね」と風花が言いながら、古の業務中検査シールを見つめた。
「……ほ、他に何か言いたいことはないの?」
「他に?」と絵美理は怪訝な表情で手の中のものを改めて見つめ直しながら言った。
「……他ってほどではないけど、まあ、私にもね?だいたいは予想はついてるのよ。」
「……で?」と風花が言う。
「これ、多分オシリスに付けるんでしょ。でもさ、控え目に言って……バッちくない??」
風花は唖然とした顔で、「え、絵美理ちゃん??ホントにそれだけ??もっと大事なお話はない??」と叫んだ。
離れたテーブルで、トランプをして遊んでいたもう2人のルームメイト達が驚いた顔をしてこちらを向く。
慌てて風花は声を小さくした。
「…ねえ、絵美理ちゃん!し・お・り、を・見・せ・て!!」
「お・し・り、を・見・せ・て……?」と絵美理が復唱する。「え?風花ちゃんが業務中検査をやってくれるの?……え、ありがと??あ~良かった~!じゃあ、お願いね。どこでやる?やっぱ音入れ?……まあ、ちょっと恥ずかしい気もするけど、…こんなこと自分でやるよりはマシよね。風花ちゃんホントにいいの?助かるわ~~」
「ちょっと待って?!業務中検査は自分でやってよ??違うでしょ??ごまかさないで!!」
「え?なに怒ってんの?お・し・り・見せてって言ったのは風花ちゃんだよ?
…分かった、分かったよ!やってくれるのは1日目だけでいいから!しょうがないから2日目は自分でやってみる!…もー、そんなに怒んないでよ♡
…でもね?やり方はお・し・え・て、ネ!」
風花はガクッ……と床に座り込み、長い髪を顔の前に垂らすと……ダメだ…案の定、絵美理のペースに飲まれてしまっている……、と絶望していた。
「わ、わかったわ、絵美理ちゃん。業務中検査のやり方は教えてあげるから、……代わりに私の質問にも答えてもらっていい?」
「えーなになに?思わせぶり~~」
「じゃあ、絵美理ちゃん、見ててね?」そう言うと風花は、四角いフィルムをつまみ、「このシートをね?スライスチーズの包装みたいに開くの。それで片面を使って、オシリスに、こう、ピタッと貼るの……」と服を着たままあてがってみせた。
「うわ!風花ちゃん、上手!まるで天使みたい!」「……じゃあ、絵美理ちゃんもやってみて……」と、風花が苛っとしながら言った。
「こうかな?」とベッドの上にしゃがんだ絵美理は、後ろからオシリスの方に手を回し、ペタッと貼るジェスチャーをしようとして、
背中からシーツにひっくり返ってしまった。
「ちょ?!絵美理ちゃん??なんで出来ないのよ??腹筋が無さすぎない?そんなんで、毎日どうやってオシリスを拭いているの?!」
「テヘヘ……。」
「てへへって?!音入れでしゃがむ時、どうしてるのよ??」
「……実はね……。」と絵美理が真剣な顔をして耳打ちしてくる。「私、和風でする時は中腰でしているの。しゃがむとひっくり返っちゃうから。
正直、不便で仕方ないんだけどさ、(便だけに)……でもね?なんとなく……将来、和風音入れは、時代の流れと共に無くなるような気がしてるのよね~」
「え?なんでそう思うの?」風花の瞳がキラーんと光った。
「ん?なんとなくよ。女の勘ってやつ?あとね?聞いてよ、私、未来の世界ではオシリスを拭かなくてもよくなる発明が生まれるんではないかと睨んでいるの……なんか分からないけど、そんな気がするのよ。」
「……ねえ、絵美理ちゃん。聞いてもいい?」「ん、なあに?…あ、でも風花ちゃん?勘違いしないでね、オシリスはちゃんと拭いてるから。でも手を使って紙で拭くのって、きったないわよねー。20世紀にもなって、私らは原始人かっつ~の!」
「絵美理ちゃんは一度死んでセーブポイントに戻ったの?」
「ん?なあに、今なんてったの?」
「……あのね絵美理ちゃん?実はね、私もなの。」と風花は静かに言った。
「え?そ、そうだったの?風花ちゃんも中腰派?……そのわりに上手にしゃがめてたわね……」
風花は、絵美理の言葉を聞き流し、「なんか未来が懐かしいよね……。不思議な気持ち。あ、そういえば業務中検査は確か、将来どこかのタイミングで廃止されるはずよね。」と言った。「あと、座高測定と、ブルマと、スク水も、無くなるのよね……。選択の自由で、中学生からは制服のスカートを履かなくてもよくなるしね。まあ、でもその時代はずっと先だから私達には関係ないけどね。」
「え?風花ちゃん?ちょっとそれは飛躍し過ぎじゃないかしら……。座高測定が無くなるのは賛成だけど……ブルマが無くなったら女子はパソシで体育をするの?まあ、今でも女子はブルマの上に体操着を被せてスカート風に着こなしてますけど??だからってブルマが不要にはならないでしょ?!……挙げ句の果てにスク水なしって……禅羅でプールですか??中学生がスカートを履かない?!例え洗濯が面倒だとしても私は履きたいわ!風花ちゃんの未来予想図は恋態の妄想ですか?大丈夫?!」
「え?絵美理ちゃんこそ何言ってるのよ?絵美理ちゃんも2周目なんでしょ?隠したって分かるんだからね!!」と風花は言い、枕の脇に置いてあった自由帳を見つけると、
そのまはまそこからはみ出していた紐を、サッと引っ張り、四つ葉のクローバーの栞を引き抜いた。
「ま、まっくろ……!!」
と風花が叫ぶ。
「絵美理ちゃん?も、も、もう、4回もしちゃッたの??これってそういうことだよね?!」
「なんの話よ」「もう後がないじゃない!」「だから、なんの話よ?!」「絵美理ちゃん??死んだらもう終わりじゃん?!」「風花ちゃん……大抵の人は死んだらもう終わりよ。それとも天国のことを言ってるの?あ、そうだ、天国と言えば……この、天使の業務中検査。結局私はどうしたらいいのよ?うまいやり方を教えてよ!」
「……待って絵美理ちゃん……。本気で言ってるの?」
「本気も本気よ。あ、そうだ。四つん這いでやってみようかしら。そんで鏡に向かってやれば狙いも付けやすいかしらね。でも……よく考えたら……それなりの美少女である私が…鏡で自分のオシリスを見る勇気はないわ……。やっぱり風花ちゃんがやってくんない?私、そういうの、あんまり見たくないし、触りたくないんだよねー」
風花は、クラッと眩暈を感じ、そのまま絵美理のベッドにバタムと倒れた。
………次に目を覚ますと、
……風花は向井家の居間のソファから天井を見上げていた……。
……夢か……。
あれ?何かが変わった?
と、風花は辺りを見回す。
………。
……気のせいか……。
そう。私が記憶している限り、絵美理は4回転生しているはず。と、いうことは、もう彼女には過去に戻って歴史を変える力はない。…はず。でも彼女が生きて活動している限り、無意識にでも現在進行形で歴史を変えている可能性はあるわね。
…私が観察していた感じだと、絵美理は自分が転生していることに気付いていないようだった………。ただ、たまに言葉の端々に未来を見てきたようなことを口走るのを、私は聞き逃さなかったわ。
……ウォシュレット登場の予言。
音女臣の爆発的普及。
男性の座りツ∋ソ文化の醸成。
たまに口ずさむ氵肖大カの歌……。
数え上げればキリがない。
て言うか偏った未来の記憶ばかりね……
ん?
……でも待って。こういう可能性は考えられないかしら……。
私は自木又した時の記憶のまま、セーブポイントに戻った。
と、いうことは死んだ時の記憶を引き継ぐということだ。
……もし、……例えば絵美理が100歳まで生きたとして、痴ほう症の状態で亡くなったとしたら……。とぼけたまま、セーブポイントで目指めることになる……。
絵美理はそこまで酷くはなかったけど……、彼女にはハッキリとした前世の記憶がなかったような気がするのよね……。
私自身は、蓮が生まれる為に、同じ人生を歩むことに集中していたから、絵美理の人生にはちょっかいを出さなかったけど……。
何かしらの理由があって、絵美理は前世の記憶がなかったと考えるのが妥当ね。
……あの時点で悟は一度も転生していなかったけど、不確定要素を潰す為に、悟のクローバーの栞を奪うべきじゃないかしら?栞がなければセーブポイントに戻れないような気がするのよね……なんとなく。…絵美理にも会っておきたい。
「お母さん?どうしたの、難しい顔をして。」
と、蓮が心配そうな顔をして聞いてくる。
「……どうやらお母さんが思っていたより、このセーブシステムはシビアな気がしてきたわ。」「と、言うと?」
「……もし、私が年を取って、…私に少しでも痴ほう症の兆候が現れたら、すぐに言ってね。
……私、すぐに自木又するから。その状態で転生したらあなたを生むことが出来なくなってしまうわ。」
「……そんな、怖いこと言わないでよ。」
……ああ。……全てがうまくいったと確信が持てたら、こんな栞は燃やしちゃうのに……。逆に後3回もセーブポイントに戻らなければいけないのは、かなりキツいわね。
……最終的に生涯賃金が1/4ってこと??
まあ、辛うじて生きていけそうだけど……贅沢は出来ないわね……。
……蓮さんの幸せを見届けたら、……やはり栞は燃やしてしまいましょう。
……確信はないけど……それでこの輪廻からは解脱出来るはず……。
風花は決意を新たにして、まずは無頼孔雀との面談で、何か打開策が見つかるかもしれない……、と期待するのだった。
『memory of previous life』
いつも読んでくださっている6人ばかりの方、
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