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ヰ103 セーラー服と大量殺戮兵器


「設楽居くん………」


木下(きのした)藤子(とうこ)は、グッショリと濡れたセーラー服から、雫を滴らせながら、

幅広い男子の背中に向かって呼びかけた。


しばらく間が空いた後、


イギリスの寄宿生が着るようなチョッキ姿の男子が、椅子をくるりと回し、こちらを向く。


「……誰?新しい入塾者かい?」

と、優しい声が言った。


「……て言うか、なんでずぶ濡れなの?外は大雨?」と設楽居(したらい)海人(かいと)が言う。


藤子(とうこ)はその声を聞いただけで、涙が頬を伝うのを感じた。

「……突然訪ねてきてごめんなさい………。私、あなたを連れ戻しにきたの……」

「え?ひょっとして、君、クラスメイトか何か?」と海人が言う。「……学級委員とか?はたまた不登校の生徒を連れ戻しにくる、おせっかい委員長とか?」そう言うと海人(かいと)は、今しがたまで(おこな)っていた生徒達の採点作業に軽く目を落とし、それから藤子(とうこ)の方に向き直った。


「いえ、そういうわけじゃないんだけど……。し、設楽居くんは、中学卒業出来なくていいの?将来に不安はない?」

「いや、別に学校に行かなくても資格は取れるし、大学までは行くつもりだよ。将来は延命治療に興味があって、医大を考えているんだけど……純粋に数学を研究するような人生にも興味があるかな……。ところで(きみ)、入塾希望者じゃないなら、どうやってここに入ってきたの?」

と海人は、棚に置かれたアクリルスタンドの列の中にある、横向きの才羽根楠(さいばねくす) 炎眼(えんめ)のフィギュアを見つめながら言った。


「あ、ごめんなさい……無理矢理侵入してきたの……」と藤子(とうこ)が言う。


「え?無理矢理?あの強化ガラスをよく突破出来たね?

だってあれはアメリカ大統領の専用車、通称『ビースト』の防弾ガラスに匹敵するものを採用しているんだよ?あの玄関はロケットランチャーだって、そう簡単には破壊出来ないはず。」

「そ、そうなの……フハ、ハ、ハくしゅん!!」


「あ、ごめん。とにかくその姿じゃ風邪をひくね。……誰か世話係を呼ぶよ。」

と言って、海人が内線電話に手を伸ばそうとするのを、「ま、待って!」と鼻水を垂らした藤子(とうこ)が慌てて止める。

……外の大惨事に気付かれるのはマズい……。でも、あの美少年くんの様子も気になる。早く設楽居くんを連れ帰らなきゃ……。


「ん?どうしたの?人を呼べば、とりあえず着替えとかは用意してもらえるよ。豊子キッズ(うち)には洋服が一杯あるからね。」


藤子(とうこ)は、「あ、あ、あの……」と口をモゴモゴとさせ、「……こ、この部屋に着替えはないの……?」と小さな声で言った。

海人は、一瞬考えるような素振りを見せた後、「ああ、あるよ。なんならシャワーもある。この部屋は研究にも使ってるからね。お風呂も音入れもキッチンも、全部完備しているんだ。缶詰めで論文とかを書きたい時とかのためにね。あと防音も完璧だから、この部屋にいれば誰にも邪魔されず、全てが完遂出来るようにはしてあるんだ。」と言った。


「へえ、そうなんだ……。凄い待遇だね。設楽居くんって……豊子キッズの中で一番偉い人なの?」


「……まあ、子供達の中ではそうかな。勿論大人の助けは借りているよ。お金の面や法的な契約の面とかでね。……ここは本当に居心地がいいよ。子供達を教えるのもやりがいがあるし……」

「でも!家族の人はどう思ってるの??お母さんやお父さんは心配していないの??」


海人の心の中を、母と妹の姿がよぎった……。


妹が(▪▪)、父親のクレジットカードから呆痴彼女に大量の課金をし、彼がその罪の全てを被ったのだ………。母はそれに気付いていたと思う……。だが、俺は妹の将来を思って家を出た。俺がいると、どうしても妹を甘えさせてしまい、俺自身にも、妹の将来にも、いいことはない……。そして妹は自主学習ではやっていけない子だ……。だからせめて義務教育は受けさせなければ……。全てが終わったらここに妹を呼ぼう。そうしたらまた、むつの好きな呆痴彼女の推し活が出来るよう、ちゃんと準備は整えてある……。だが欲を言えば…せめて高校卒業までは……そこまでは普通に家で頑張ってほしい……。家には転売で儲けた金を仕送りしているし………。


はっくしゅん!


と、藤子(とうこ)がまたくしゃみをした。


「あ、ごめん、ごめん。君、お風呂を使う?」

「え?あ、うん、そう、できたら……」と藤子(とうこ)は言い、頭の隅でちらっと、……湯上がりの私の魅力で設楽居くんをメロメロにして…連れ戻したり出来ないかな……と考え、一人で赤くなっていた。


海人は椅子から立ち上がり、「じゃ、どうぞ。」と言って奥の扉を開けた。


「あの……これ、って………。」


「ああユニットバスだよ。見たことない?」


「しょ、正直、初めて見た……。これって…お、お風呂と音入れが一緒の部屋なの……?」

「そうだよ。」

「え?じゃ、じゃあ、私がお風呂に入っている時、設楽居くんが音入れに行きたくなったらどうするの?」

「……え。そ、そりゃ我慢するんじゃないか?」

「え!そんなの悪いよ……。使わせてもらってる身で……なんか図々しい気がする……」

「……じゃあ、入浴中に入っていいのかよ……。」

「いや、それはダメ……」

「あーわかったわかった。こんなことを話し合っているうちに、君が風邪ひいちゃうよ。じゃあ先に俺が音入れに行っておけば問題ないだろ?」

「え………設楽居くんがした後に入るの?……それも、なんか嫌かも……。」

「失礼だな?!ちゃんと(にお)い消しスプレーは撒いておくぞ??てか別に、俺、今行きたくないから!

さっさと浴びてこいよ!」

「あの……」

「なんだ?まだなにか不満があるのか??」


藤子(とうこ)は、スカートを少し搾るような動作をしながら

「……着替えは………?」と聞いた。


「男ものでよかったら。」と海人が答える。

「あ、その、でも、下着的なものはないから……やっぱり誰か呼んできた(ほう)がよくないか……?」

「ダ、ダメ!ちょっと待って!」と藤子(とうこ)が思わず海人の手を引っ張る。


「お、おい、お前…ホントに冷たくなってるぞ……いつまでもそんな格好でいるからだ………。せめて、濡れた服を脱いで着替えるだけでもいいからさ?早くあったかくしろよ……」と海人が言う。

その言葉を聞いて、今更ながら藤子(とうこ)は、自分のお腹に*びちゃっ*と直接当たっているスカートの裏地を意識して、

「え、えっち………」と小さな声で(つぶや)きながらスカートを押さえた。


「バ、バカ!誰もお前のパソシとか見ないから!!だいたいそういうのは、俺、妹ので見慣れてるからな!へ、変な言いがかりをつけるなよ!」と、海人が耳を真っ赤にしながら言う。

「え??設楽居くんは、妹のパソシを見慣れてるの?!……いったいどういう兄妹だったのよ??」

「いや、いや、お前の思っているような意味じゃないから!家族だから洗濯くらいするだろうが!洗って干すんだから、……見たくなくても見てしまうものだろ?!しょうがないじゃないか?だいたい、今更見たってなんとも思わないし。」

「え?でもそれは妹さんのだからでしょ?設楽居くんだって他の女の子のを見たりしたら、やっぱり……」

「いや、いや、いや。」と海人は手を顔の前で激しく振った。「んなことないって!ほら、勿論、好きこのんで見ようとは思わないけどさ、例えばお前が着替えてるところを俺が見てしまったとしても、べ、つ、に、変な気持ちになったりしないからな!俺は純粋にお前が風邪をひかないか心配しているだけなの!あーー…!もう早く着替えろよ!なんか調子狂うな。そもそも俺は、女の子より勉強が好きなんだよ!ほら!さっさと着替えて、

早く出て(▪▪▪▪)いってくれ(▪▪▪▪▪)!!!」


そう言うと海人は怒ったような顔をして背中を向けた。


藤子(とうこ)の身体の中心を、(あきら)めに似た透明な感覚が、スーッと下にくだっていくのがわかった。


廊下にオシリスを出したまま横たわる向井(むかい)(れん)は、

……失敗だ………もう、歴史は変えられない…おしまいだ……と、遠退く意識の中で感じていた…。


「女の子より勉強ですって??」


とその時、藤子(とうこ)が叫ぶ。

「じゃあなんで部屋中にアニメ少女のポスターを貼りまくってるのよ!?…もしかして、よく言うあれ?3次元より2次元ってやつ??女の子のパソシに興味ないって?!笑わせないで!!」

木下(きのした)藤子(とうこ)は、次々と怒りの言葉を海人の背中にぶつけながら、……途中から泣き出していた。「……じゃあ、こっち見なさいよ!!あなた、これなら(▪▪▪▪)どうなのよ(▪▪▪▪▪)!」


海人が振り返ると、

藤子(とうこ)が、ガバッ!とセーラースーツのスカートを肩まで捲り上げ、

その丸いちきゅうの水平線から、思春期の、ロ・まん・チックな女の子の夢を全出しにした。


「す、す、す、水兵(すいへい)リーベ(りーべ)僕の船(ぼくのふね)?!……七曲(ななまがる)シップス(しっぷす)

クラーク(くらーく)かよ?!!」と海人は叫び、七曲がりしていたものを一気に立ち上げた。


その瞬間…オシリを出して一等賞になった子と、救世主(メサイア)設楽居(したらい)海人(かいと)の間に、バチバチバチッと火花が散って、オゾンの焼ける臭いがした……と思った矢先に、

シュパンッ、と無音の光が炸裂し、


水素爆発で東京一帯が吹っ飛び、1500万人の人間が一気に死滅した。


……はっと目が覚めると、(れん)は教室の真ん中の列の、前から5番目の席に座っていた。

急いで後ろの主人公席を振り返る。


ヤッホー♡

と、カーリーヘアの少女がこちらに向かって手を振った。


時雨(しぐれ)ちゃんがいる!戻ってきた!……て言うか今のは全部、夢だったのか??いや……わからない。でもどうでもいい。


蓮は設楽居(してらい)睦美(むつみ)の席を見る。


……彼女は、背中を丸めてボンヤリと虚空を睨んでいた。

よし。いつも通りの睦美ちゃんだ……。戻ってきた……。


助かった………。


と、言うことは設楽居海人さんは、元に戻ったに違いない。


あれ?今日は何日だ??


蓮は黒板を睨み、…そこに2月16日(月)、と書かれているのを見つけた。

……な、なんだよバレンタイン、いつの間にか終わってんじゃん……。

あれ?じゃあ僕、時雨ちゃんからチョコを貰ったのかな?

……マズいな……。貰った記憶がないとか言ったら怒られそうだ……ホワイトデーどうしよう??


蓮はそう考えると、もう一度ちらっと時雨を振り返り、

……ポッ、と頬を赤らめた少女を見て、う~む……と腕を組むのだった。


『Sailor Suits and Weapons of Mass Destruction』


19世紀後半に機関銃が登場したことにより、この大量殺戮兵器は、その強力さゆえに戦争自体をなくしてくれるだろう、という希望的観測さえ生まれました。実際どうなったかは、歴史が示している通り。

思想系なろう作家、カレイドスコープ先生に応援のお便りを宜しくお願いいたします!

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