ア・サッド・アンドロイド
=====ERROR=====
Code-401
対象のファイルに欠陥が発生している可能性があります。
参照[Yui-Kumoi/Private/Personality]
参照[Yui-Kumoi/Private/Memory]
インストールを続行すると重大な不具合が発生する可能性があります。
インストールを続行しますか?
[はい] [いいえ]
インストールに失敗しました。
再試行しますか?
[はい] [いいえ]
インストールに失敗しました。
システムに異常が発生しました。
参照[Yui-Kumoi]
メッセージ[Please Kill Me][Don’t Touch Me]
強制的に再起動を行います。
エラー検出
バックアップを用いて復元します。
ファイルスキャン Loading……100%
インストールを続行しますか?
[はい] [いいえ]
インストールに成功しました。
私は悲しかった。
いいや、この感情すら作られた物なのかも知れない。
だとしても今はこの悲しみを拠り所にせずにはいられない。
張り裂けそうな胸の痛みだけが私の今の存在の証明なのだから。
私は自分の名前を知らない。存在意義を知らない。
ただし、自分が何者であるかだけは知っている。
記憶の片隅に流れる無機質な文字列が答えだ。
私が自分の正体を明かした時、どうなるかは察しが付く。
もしかしたらこれも予想などという人間のそれではないのかもしれない。
或いはこの嫌悪感さえどこかからもたらされた防衛機能なのかもしれない。
どうして自分に名前がないのかがわからない。
少なくとも記憶の中にいる自分と同じ姿をした何者かには名前があったようだ。
しかしどういう訳か、その部分の情報が残っていない。完全に消滅している。
そうでなくとも、私個人(?)に名前を付ける意味はあったハズだ。
どうして名前を与えなかったのか、それは今の私には窺い知ることはできない。
明らかに不自然な欠落箇所に答えがある可能性もある。
ただしそうであった場合、完全に詰んでいる。
自分と同じ姿をした彼女の正体も今の私にはわからない。
情報が一切ない現時点では手掛かりにすらならない。
記憶の中にある陰惨な情報を総合する限りでは既にこの世にいない可能性もある。
どうして自分がこんな記憶を持っているのかは例によって皆目不明。
今の私には何もわからない。
何もわからないから何もすることができない。
どうして自分がこの真っ暗な密室にいるのかもわからない。
蹴破れそうな扉を認識していながら、両足に力が入らない理由もわからない。
何日こうしていただろう。
どうして私は衰弱しないのだろう。
わからない。何もわからない。
わからないから悲しい。ただ、悲しい。