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オランダさん  作者: yukko
出島
8/12

オランダへ

ヘンドリック・ドゥーフは、ヨーロッパの戦争でオランダ船の来航が絶えていた1812年から、フランソワ・ハルマ編纂の蘭仏辞書をもとに、日本語通詞を雇って蘭日辞書の編纂に着手した。

オランダ商館長として異例の長期にわたる任期により、日本に様々な足跡を残したのだ。



1815年 オランダが「ネーデルラント連合王国」として再独立。

1817年 オランダ船が長崎港に入港。この入港を機に、商館長を退任し帰国を果たす。



ヘンドリック・ドゥーフは本国オランダへの帰還が叶ったのである。

ただ、妻と子を連れて行けない。

残さねばならない。

ドゥーフは丈吉を何らかの役に就けたいと、長崎奉行所を訪れた。

遠山景晋が長崎奉行だった。

ドゥーフは遠山景晋に嘆願書を提出した。

長崎の地役人への任用を嘆願し、薬種目付や唐物目付を希望した。

オランダ通詞(通訳)は避けて欲しいと書いた。

加えて、ドゥーフは白砂糖を長崎会所に託し、その利銀から年4貫文を丈吉の生活費にしたいと申し出た。


「私は本国に帰ります。

 妻と子を連れて行かれないと存じております。

 連れて帰国できないことは……

 この日本に残して行かねばならない妻と丈吉の身を案じております。

 何卒、何卒、お奉行様のお情けで妻と丈吉をお願い申し上げます。

 このように、貴方の国の作法にのっとり両手をついてお頼み申し上げます。」


ドゥーフは床に正座して両手をついて頭を深く下げた。

土下座したのだった。

長崎奉行・遠山景晋は驚いた。

西洋人の土下座など見たことが無かったからである。


「ドゥーフ殿、どうかお手をお上げくだされ。

 頭を上げてくだされ。

 この遠山、ドゥーフ殿のお気持ちお察し申し上げる。

 日本に残された瓜生野と丈吉のこと。

 この遠山が守り、暮らしに困らぬように配慮致す故、ドゥーフ殿に於かれては

 お心を残されることなく、お国へお帰り頂きたい。」

「誠に……お願いできますのでしょうか?」

「武士に二言はない。 安堵されよ。

 ドゥーフ殿が丈吉の苗字を道富になされたこと、子に対するドゥーフ殿の御心、

 察するに余りあり申す。

 丈吉は未だ元服しておらぬが、地役人の役職に就けるかどうかは身共(みども)には測りか

 ねる。老中にお伺いを立てようぞ。」

「誠に……誠にありがとうございます。

 なんとお礼を言えばよいのか……。」


老中の裁可により、道富丈吉の役職が決まった。

地役人の唐物目利役である。


「ドゥーフ殿、丈吉は未だ元服にあらず、元服までは町年寄の管理下に置くことと

 する。元服の暁には改めて役を申し付ける。

 ご老中のご裁可である。

 日本の出島のことは身共(みども)にお任せいただく。

 心置きなく帰国されよ。」

「ありがとうございます。どうか、瓜生野と丈吉のこと、お願い申し上げます。」



丈吉は、地役人の唐物目利役の職を約束された。

そして、ヘンドリック・ドゥーフの帰国の日がやって来た。

瓜生野は病床に伏していた。


「お父様、丈吉は務めに励みます。

 お母様を守ります。

 どうか、安心してください。」

「丈吉……お母様のこと、頼んだよ。」

「はい。」

「瓜生野、君には世話になったね。

 おもんを育ててくれて本当にありがとう。」

「カピタン様……おいこそ、ありがとぉばい。カピタン様と一緒になれて、おいは

 幸せやったと。」

「私は忘れないよ。この日本を…… 出島を……。

 桜を…… 桃を…… そして、おくんちを……。」

「カピタン様ぁ…………。

 桜、桃、花はブルーム。……ブルーム、覚えて……。カピタン様に教えて貰った

 最初の言葉。」

「うん。合っているよ。」

「……カピタン様ぁ~………。」


泣き崩れる瓜生野を丈吉が泣きながら支えた。

この時、丈吉は9歳であった。


「ありがとう。瓜生野。丈吉……。

 幸せに暮らして欲しい。

 君たちの健康と幸せを、遠くから祈っているよ。」

「はい。」

「行って来る。」

「はい。」

「カピタン様ぁ~………。」

「………さようなら………。」


ヘンドリック・ドゥーフは日本を離れ、オランダへと帰国の途に就いた。

長崎奉行・遠山景晋は「遠山の金さん」の父親です。

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