おもん
ヘンドリック・ドゥーフにとって、最初の子ども、おもん。
青い目、金色に輝く髪、全てがドゥーフの姿にそっくりであった。
似ているから可愛いのか、それとも子どもが持つ可愛さ故なのか、ドゥーフにはそんなことを考えるまでもなく、ただただかわいい我が子だった。
そのおもんが風邪を引いた。
その風邪が治らない。
「お父様はここに居るよ。おもん。」
「……お父様……。」
「うん。」
「お父様……おいは、お母様の所へ……いくのでしょう?」
「何を言ってる!」
「お父様……おもんは治らないのでしょう。」
「おもん、必ずお父様が治して見せる。」
「お母様のお話をして!」
「優しく美しい人だった。……桜の花を教えてくれた。」
「桜の花?」
「そうだ。私の好きな花だよ。」
「さくら………。」
「おもん、もう、おやすみ。疲れるといけないからね。」
「………お父様。」
「うん? 何だい?」
「お父様のお国へ行きたか。」
「それは……。」
「駄目?」
「そうだね。もう、私の国は無いんだよ。」
「ない?」
「そうだよ。」
「お父様、可哀想……。」
「おもん、本当に疲れたらいけないからね。もう、おやすみ。」
「はい。おやすみなさい。お父様。」
「おやすみ。」
おもんの額に優しくキスをする。
この子を失いたくないと切に願った。
オランダ商館で仕事をしている時のことだった。
おもんの死の知らせが入ったのは………。
「おもん、君はまだ9歳なのに……。
何故、何故なんだ!
神よ。何故あなたは私の大切な者を……
御傍に………
まだ、私は娘の姿を目に焼き付けておりません。
大人になった娘の姿を……
私の目に……目にしたかったのです。
娘おもんの花嫁姿を………。」