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オランダさん  作者: yukko
出島
2/12

園生

1803年、新しく出島のオランダ商館長になったのは、ヘンドリック・ドゥーフである。

ヘンドリック・ドゥーフがオランダ商館長になった時、彼の本国オランダはフランス革命の革命軍によって占領され、オランダ東インド会社は解散した後だった。

その後のナポレオン戦争中の1803年~1817年まで出島のオランダ商館長として、米国船などを雇い貿易を行った。

オランダ商館長をカピタンと呼んだのだ。

ポルトガル語のカピタン(Capitão)は、英語のキャプテンに相当する「船長」「隊長」の意味である。

最初の交易国がポルトガルだったため、オランダに代わっても、そのままカピタンと呼んだのだった。

ドゥーフは出島に居る日本人たちから「カピタン様」と呼ばれたのだ。

ヘンドリック・ドゥーフ、26歳の時であった。


ドゥーフは日本の出島で美しい遊女と出逢った。

遊女の名前は、園生(そのお)

愛らしく美しい人だった。

初めて遊郭から出島に来た遊女だった。

一目見て心惹かれたドゥーフは、園生(そのお)を身請けして共に暮らした。


「あの花の名は、なんと言うのだ?」

「あいは、桜でござおる。」

「桜か………。美しい………。」

「日本人は桜が好いとっでござおる。」

「そうか、こんなに美しいなら、そうであろうな。」

「美しゅう咲いて、見事に散っていきますけん。」

「見事に散る?」

「はい。短い命ば懸命に生きて、散っていくのばい。」

「花の命が短いということか?」

「はい。」

「長い方が良いのになぁ。長く美しく咲いた方が私は好きだ。」

「そいは、難しゅうござおるね。」

「それは、そうだ。今更、無理だね。」

「はい。カピタン様と言えど……。」

「ふふふ……。その通りだ。」


二人の間には女の子が生まれた。

ドゥーフは、「おもん」と名付けた。


「園生。大丈夫か?」

「はい。」

「良かった。君に何かあったらと思うと私は堪えられないよ。」

「まぁ………。」

「それで、どっちなんだ?」

「申し訳ござおらん。おなごやった。」

「そうか、女の子だったのか………。」

「申し訳ござおらん。」

「何を言うのだ。どっちでも………私は嬉しいよ。」

「……カピタン様。ありがとぉござおる。」

「それは、私の言葉だよ。ありがとう。園生。」

「勿体のうございおると。」

「何を泣いているんだい? さぁ涙を拭いて……笑顔を見せておくれ。」

「はい。カピタン様。」


「さて、私の娘はどこに居るんだい?」

「はい。あちらのお部屋に……。」

「早速、会いに行って来よう。」

「はい。」


産婆がその部屋に居た。

そして、ベビーベッドで寝かせられている赤ちゃんを抱き上げて、ドゥーフに見せた。


「どうぞ、カピタン様。」

「愛らしいな。」

「はい。」

「抱いてもいいか?」

「はい。どうぞ。」


生まれたばかりの我が子を抱くのは初めてだった。

ドゥーフの初めての子どもだったのだ。


初めての子を得て、親子三人で幸せに暮らせるはずだった。

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