添い寝屋三毛猫と赤ちゃんをあやすお母さん
「ふええええ」
「えー……、早く寝てよー」
赤ちゃんが全然寝てくれない。
抱っこして赤ちゃんがウトウトして眠るけど、ベビーベッドに入れると途端に泣いてしまうのだ。
泣いてしまうと抱っこしてもう一度、寝かす。眠ったと思ってベッドに入れるけど、すぐに泣いてしまう。それの繰り返し。
ずっと抱っこすればいいけど、お母さんの私だって布団で寝たいのだ。
「もう、ベッドで寝てよー」
あくびをしながら、赤ちゃんを抱っこして再びあやす。あやしている時は、すぐにウトウトして眠ろうとするのに……。
ため息しつつ赤ちゃんを抱っこして、スマホでオルゴール音が流れる動画を流した。眠りやすい音楽を流せば、きっと寝てくれるだろう。
「あら? 不思議なアプリがある。【添い寝屋】?」
三毛猫の絵がついて【添い寝屋】と言うアプリが広告として出たのだ。
「いいわね、添い寝屋さん。頼みたいわ」
なんとなくアプリをダウンロードして、タップしたが反応がなかった。
「あれ? なんで反応しないの?」
「呼んだ?」
「わあ!」
いつの間にかベビーベットには茶色と黒と白の模様の三毛猫が尻尾を揺らしてちょこんと座っていた。驚いてちょっと大きな声を上げてしまい、三毛猫が「うるさいわよ」と迷惑そうに言った。
「寝かしたいのなら、大きな声を上げないでちょうだい」
「ごめんなさい」
三毛猫に見守られながら、赤ちゃんをあやしてようやく眠ってくれた。
「さて、お母さん。最難関ね。赤ちゃんをこのベビーベットに寝かせないといけないわ」
「そうなのよね。全然、寝てくれないのよ」
「私がやるわ」
「え、あなたが?」
「当たり前でしょう、私は添い寝屋なんだから」
大丈夫かしら……と思ったが、赤ちゃんを三毛猫のいるベビーベットに寝かす。
赤ちゃんはすぐに「ふえええ」と泣いてしまうが、三毛猫は「さあ、おやすみ」と言って赤ちゃんの額やおでこを舐める。
すると赤ちゃんはすぐに泣き止んで、安らかな寝息を立てた。
「すごい」
「当たり前でしょう。私は添い寝屋だし、三匹のお母さんなんだから」
それでも自信が無くしちゃうな。猫に出来て、私が出来ないんだもの。
ため息をついていると、三毛猫は「それじゃ、お母さんも添い寝してあげないと」と言って、私の布団の中にもぐってしまった。
「えー、良いわよ。一人で寝れるよ」
「すぐに寝たいんでしょう? だったら私に任せて」
お布団の中からちょこんと顔を出した三毛猫が「早くして」と急かすので、私は急いで布団に入った。
「お母さんもお疲れね」
「ダメなお母さんですけど」
「そうかしら? あの赤ちゃんはあなたの事が大好きよ。お母さん」
「え? なんで?」
「あの子はお母さんの抱っこが大好きだから、ベビーベットで寝てくれなかったのよ」
三毛猫に励まされている。でもちょっと嬉しいな。
そう思いながら三毛猫におでこを舐めてもらいながら、私は眠りに落ちた。
*
「あー、あ、あ!」
赤ちゃんの声で目が覚めた。
起きて、大きく伸びをして赤ちゃんの所に急ぐ。それにしてもよく寝たなー。赤ちゃんも夜泣きしなかったし。
それもこれも添い寝屋の三毛猫のおかげかな? 何せ、夢の中でも赤ちゃんを寝かしていたんだから……。
そんな事を考えながら赤ちゃんのベビーベットをみる。
「あーあー、あー!」
「何がいたの? 鳥さん? あら!」
赤ちゃんがベビーベットでハイハイになって、窓の向こうにいる三毛猫を見ていた。
三毛猫の傍には三匹の小さな赤ちゃん猫もいて、やんちゃなようでちょこちょこと走り回ったり、追いかけっこしていた。
「猫ちゃんいたね」
「あ、あ、えへへへ!」
赤ちゃんと二人で三毛猫を見ていると三毛猫は「にゃあ」と鳴くと、赤ちゃん猫を引き連れて去っていった。