3.国守官会議
「たっだいまー、ふふっwと言っても私一人暮らしなんだけどね、さどうぞあがって」 由美に連れられ俺は今家の前まで来ている
「お邪魔します、お〜」 一人暮らしにしてはかなり広い、一軒家というだけでも驚きだが
内装もここまで整っているとは
「その辺でくつろいでて、私お茶入れてくるから」
とソファを指さされる、由美が戻ると俺は話を切り出した
「では早速本題に入ろうか、俺は現在一部の記憶を失っており基本的な知識は問題ないが人間関係等の記憶がほとんどなく、したがってここ数ヶ月の失踪の理由を説明することはできない」
由美はコクコクと頷く
「今の俺は記憶を取り戻すべく、由美のような身辺関係者との接触を図っているが父の代理に代わりここの国守官もやらねばならず時間がない、再度のお願いになるがどうか協力してくれ」
「おっけーわかったよ、なるほどねーあれはブラフのつもりじゃなかったわけだ!」 すぐに理解してくれてありがたい限りだ
「ではとりあえず、失踪する前の俺がどんな人物だったか教えてくれ」
「りょーかい、と言っても私もあんまりよく分かってないんだけどねへへw」 (なに、話から察するにそれなりの関係性だと思っていたが見当違いだったのか!?)
そう思うのを他所に由美は話を続ける
「久はさ、いつも軍の仕事だーって言って親父さんにくっついててさ会うことなんて滅多になかったんだ、そういう関係ってやつも私の押し付けみたいな感じ?なのへへw」 顔こそ取り繕っているものの会話の節々に哀愁がある
「あーでも、1回だけ家に招かれたことがあってね
その時はテンションちょー爆上がり状態で…」
その時一つの言葉に注目が走る
「家…そうか!」 家、特に自室なら詳細な情報を知れるものが置いてあっても不思議ではない
「〜だから、今久とこうやって話せていることがすごく…」 淡々と語る由美に俺は口を開く
「ありがとう由美、君のおかげで真実に1歩近づいた気がする今から俺の家に行くぞ!案内してくれ」 涙を拭う仕草をした由美は俺の言葉に頷く
「うんっ!」
由美の案内の元、俺の家のある場所まで案内されたが
「ここか…って国守官管理所じゃないか」 本当に得たいもの既には目と鼻の先にあったと思うと魂が抜けた気分だった
「まーそりゃあ、久は親父さんと暮らしてたわけだし家と言えば必然的にここになるよねへへw」 この状況は苦笑せざるを得ないだろう
「まぁ知らなかったんだから仕方ない」
「そうだよねへへw、あ久の家はこっちだよ」
と由美は古民家を指さす
「なるほどあれは俺の家だったのか、ということはこのマンションはさしずめ従業員の宿舎と言ったところか」 光景を理解し噛み締めているが内心では
(身辺関係者洗う前に自分のこと調べておけば、こんな回りくどいことにならずに済んだのに) と自身の落ち度に対し頭を抱えていた
「お邪魔しまーす」 威勢の良い挨拶で由美はその戸を開けた
内装は外からでも分かるような古ぼかしいもので、薄暗い
「久の部屋はたしかこっち!」 言われるがままに連れられると
「地下室があるのか」 左右に続く廊下の先には地下への階段が伸びている
そして突き当たりのドアを開けると
「!?」 先程とはうってかわって一面鉄筋コンクリートの部屋が現れるが、目を引くところはそこではない
「これは、すごい」 そこにあったものはどれも先進の技術を持って作られた機械達だったのだ
「精神融合装置に核再生装置、肉体培養装置まであるとは」
英知の結晶に目を光らせる俺に由美が声をかける
「ほら、あの隅っこのプレハブ小屋が久の部屋だよ」
「そうだったな、本題を忘れていた」 手がかりを得るため部屋に入らねば
中には作業台と本棚 そしてクローゼットがあるだけの簡素なものだった、クローゼットには流槍と見受けられる武器が数本飾ってある
「一応実体はあるんだよな」 と触れてみる
「流石に何も起こらないか」 俺の体と融合した流槍はその後何不自由なく動かせている 流槍の先端が連なっているような形状なので場合によっては危険だが
まきつけば物も持てる程だ
(流槍刃で触れてみるか) と思いつつ一旦冷静に考える
「服を着た状態で流槍刃を展開すれば背中側に穴が空くな、脱がなくては」 とおもむろにジャケット、そしてワイシャツに手をかけるが俺が1人では無いことをすっかり忘れていた
「キャッ ちょ久急にどうしたの ふふふ服なんか脱ぎ出して」 たちまち由美の顔が赤くなった
「ままさかなにか思い出して、懐かしさで私に…///」
慌てる由美に冷静に説明する
「すまん、俺の説明不足だった」 俺は流槍と融合したこれまでの経緯を話し流槍刃を射出して見せた
「ウワッ」 由美は腰を抜かしてしまったようだ
「いててー、なるほどね私こそ解釈肥大させちゃってごめんねへへw」 先の寸劇に詫びを入れ流槍刃に関心を向ける由美
帰路にて
「あーあ、結局何も見つからなかったかー」 あの後2人で個人情報や個人的なメモ等部屋中探し回ったが結果は出ず由美を送って帰ることとなった
「まー久が忙しくなっても私が代わりに記憶取り戻してあげるから、絶対ね!だから久もたまには遊びに来てよね」
「もちろんだ、仕事の合間に会いに行く」
以前の俺との距離の遠さを嘆いていた由美とは記憶探しの中ですぐに親密な関係となっていった
その後も会議までの数日を利用し由美や下倉の記憶等を頼りに探し回ったがあまり重要な手がかりは得られなかった
そして俺は、国守官会議当日を迎えた
「ふぅーまさかここまで記憶探しが難しいとはな」
俺は会議室までの道のりでここまでに得た僅かな情報を整理していた
「分かったことと言えば、俺にはもう1人友人がいて現在行方不明ということだけ、名前は毒…」
「毒闇太郎」 その言葉を口にした時、俺は目になにか熱いものが触れたような感覚に襲われた
「どうかしましたか?」 連れの人に心配されるもすぐにその感覚はなくなった
「毒闇太郎…」 (直感だがもしかするとこれは俺の頭の奥に残された記憶が呼び起こされようとしたのではないか?)毒闇太郎という男に俺は記憶の追求への期待をよせる
それからしばらくして俺は会議の詳細を伝えられた
「こちらが本日の会議場所となっています」
「月下人民国」
南東に位置するカセイ国とは線対象の大陸にある国だ
「本来であれば国守官会議は「中央国ユウトピア」で執り行われるのですが、現在カセイ国は邪族により他国への転移装置を占拠されています」
中央国ユウトピアとは俺の父とされる伝永雄司が持ち前の力を用いて新たに作り出した人口大陸で、そこはファッションや食事等ありとあらゆる娯楽が詰まっている商業都市となっており伝永雄司をはじめとする政府関係者専門機関「ユウタワー」を中心に据えている
ちなみにユウトピアのユウは伝永雄司から取ったものらしい
「ですので今回は、カセイ国と親交の深い月下へ極秘裏にシャトルで向かうこととなりました」
淡々と語られるその壮大な技術に固唾を飲んでいると
「着きました」 流石先進の技術、あっという間だった
「月下の街並みは目を見張るものがあるなぁ」
住宅街と商店街がひたすら立ち並び均等に道の敷かれているカセイ国とは違い月下は川が多く建物も木やレンガ造りの物が多い 街ゆく人の服装もどこかメルヘンチックである
そう思っていると会議室のある建物に案内された
「これだけあからさま過ぎじゃないか」 壁面が全て黒塗りで他の建物と比べて明らかに場違いで怪しい
そう思いながら会議室に向かうが入るやいなや
「随分と遅いじゃないかどこでなにをしていたんだ!」
そう声を荒らげるのは北西の「FS本国」通称「ファンタジー国」 の国守官「松保馬隆」
「松保様、彼をよく見て見なさい仁羅祭ではありませんよ」 そう言って松保馬隆を宥める人物
(彼は北東の「パロンドリン政府国」 国守官の宇元将軍だろうか、渡されていた情報とイメージがだいぶ違っているが…)
「ふんっ、仁羅祭じゃないのか。お前名を名乗れ」
「申し遅れました、俺は本日からお世話になる新任のカセイ国守官、伝永久と申します」
「お世話になるだって?それに「俺」とは口の利き方がなっていないんじゃないか?」 しまった由美や下倉と話す時の喋り方にすっかり慣れてしまっていた
「まぁまぁ仕方ないでしょう、彼は今日から国守官になったのですから」
「あぁそうかい、ならこれから色々享受してやらねばな」 と言いながら不敵な笑みを浮かべる馬隆
「だが、それにしてもまだ3人しか来ていないとは「蠱夢」の欠席はいつもの事だが仁羅祭まで遅刻しているなんて大変腹立たしいものだ」
「仁羅祭」はここ月下人民国の国守官だ、人民国では主に核から流れる核エネルギーを属性能力に変える力を持たない「人族」が暮らしており科学技術は他の国には少し劣る
「とりあえず今いるメンバーだけで始めましょうか」と仕切り出す宇元・将軍?
「今回は伝永久様が新国守官の任に着きましたことで開かれました緊急会議です、伝永様に是非私どものことを知ってもらおうと思います」
「…」面倒くさそうに頷く馬隆
「ではまず私から、私はパロンドリン政府国国守官
宇元の弟で本日国守官代理を務めている「佐元」と申します」
(なるほど見た目がイメージと違っていたのはこのせいだったか)
「ふん、毎度毎度あの筋肉バカに変わって重役やってるのもさぞかし疲れるだろう?」 にやにやと問いかける馬隆
「もう慣れましたよ…それにあんな野蛮人の戦闘民族に国のことなんて任せられません私がちゃんとしていなくては」
「なにか言いたげよのう」
「そりゃあ、それなら代理等と言わず国守官を譲ってくれればいいのにあいつは話を聞く耳すら持ち合わせていない!国の制度を変えようにもあいつがトップであり続ける限り何も変わらない。そうでしょう?」
激烈な思いを語る佐元、政府国も大変らしい
政府国は雲まで届くような縦長のビルが立ち並んでおり工業ガスにより常に暗黙の空となっている
貧富の差も激しく違法ドラッグや闇市等も長らく横行していたが宇元の着任以降、カセイ星一位の軍事力を保有したこともありそれらは公には居なくなった
人口は人族 カセイ族が大半である
「あまり暑くなるなよ、やかましいのでな」
立ち上がってそういいまた腰を降ろす馬隆
「さて次はわちか、松保馬隆だ二度は言わんぞ」
彼はFS本国、要はカセイ星一の国家の国守官だが
見ての通り体たらくで情勢はギリギリだという
しかし本国には「化異物」という異形の人間が無限に湧き出る活火山が存在しており、その影響か化異物に変化できる種族モン族や灰の影響で特殊な造形の動植物たちが存在している
そして化異物に対抗するために核エネルギーを剣に込めて戦う「力剣士」 という職業が人気を博しており
力剣士になるべく世界各国から若者たちがこぞって集まるためギリギリ維持されているのである
「あとは見ての通りだ遅刻の仁羅祭と相変わらず欠席の蠱夢良李」
「蠱夢良李」彼はロングロード国、通称ロウ国の国守官だロウ国は政府国とカセイ国、本国と人民国に挟まれた横長の大陸にある国だ と言ってもユウトピアには面していない。
かつては星一の技術力を持つ大国のロウ国だったが自らが作り出した機械が暴走し現在は地表の殆どが荒れ果てた大地となっており住人達は地下での生活を余儀なくされている
「蠱夢め、来れないにしても最近はオンライン会議とかあるだろ」 欠席者に愚痴をこぼす馬隆
「そんなもの使ったらたちまち機械に察知されてしまいますよ仕方ありませんあの国はそれだけ大変なのですから」 と佐元が言うと松保はこちらを見て口を開く
「ま、大変というならもう一方いらっしゃるよの伝永殿」 と今度は虫を見るような表情を浮かべる馬隆
「それはどういう意味でしょうか」
「なに、異分子は全て滅ぶべきだと言ってるんだ」
「なに?」 (異分子とは俺のことを言っているのだろうかこの男には嫌な空気を感じる)
俺は流槍刃を出そうとする
「お、落ち着いてください両方」 割りいって入る佐元
「伝永様申し訳ない、本国では人族以外の亜人種は邪族だろうがカセイ族だろうが排斥する風潮があるのです。どうか彼をわかってやってください」
「あぁ、文化の差か潜在的な差別意識がある国とは」 俺は構えを解いた
「ふっ何も殺してやろうなどとは思っておらんよ、滅んでくれればそれはそれでありがたいという…」
「遅くなってすまない、もう始まってるかい?」
「遅いぞ仁羅祭!」会話を遮るように入ってきた男はどうやら仁羅祭のようだ
「悪いw悪いw弟子の稽古に付き合っていてね、おっ久君久しぶりー帰ってきたんだ〜」
立派に伸びた白い髭と髪という見かけによらずこの男もずいぶんと若々しい
「仁羅祭殿、初めまして伝永久と申します」
「あっやっぱり記憶ないのかー少し残念!」
「弟子の力剣士の調子はどうだ?腕が立つようならわちの護衛にしてやってもいいぞ?」 どうやら仁羅祭は自国で力剣士の師範をしているようだ
「それは遠慮しておくよ、あ佐元ちゃんども〜はいこれ飴あげる」
「どうも。」
「蠱夢っちは今日もいないかーまぁ仕方ない、じゃ会議初めよっか」
豪速球の喋りで一瞬にして場の空気を変えた仁羅祭だったが
「もう始まっておるわ、お前はさっさと席につけ」
俺は現在のカセイ国の状況を事細かに説明した
伝永雄司が居なくなったことで邪族達の勢いはこれで留まることを知らないだろう
そして軍に協力することを条件に政府国に邪族戦争に介入してもらう決定を取り付けた
「久さん、私の力だけでは兄、宇元将軍を動かすことはできません。彼は化異物狩りに勤しんでいる状態で部下の兵も根こそぎ持っていかれています。どうか兄に口添えしてくださいあなたなら可能でしょう」
(不安要素もあるが…ここは飲むしかあるまい)
「分かりました、必ず彼を説得してみせます」
こうして俺は軍の協力を仰ぐため政府国へと出向くのだった




