秩父遍路 幻想巡礼 幻説秩父三十四箇所巡礼行記 第3夜 初秋に風吹き結ぶ荻の堂 、宿、仮の世の夢ぞ、覚めける (全4夜)
第3夜 初秋に、風吹き結ぶ荻の堂、宿、仮の世の夢ぞ、覚めける
その日、私は疲れ果てていた。
職場での謂われない、誹謗中傷。
もう人生自体に疲れていた。
自宅に帰り着くなり、激しい下痢と頭痛、早々に、床に就くしかなかった。
狂夢とおぼしき、いとおしい懐古と不思議な、憧憬が限りなく襲ってきた。
やがて、夜霧の中に、あの道士が現れて、
「大分疲れているようだな、ところで?秩父巡礼はどうした?」と。たずねてきた。
「巡礼?馬鹿いわないでくださいよ。食うために働かなくちゃならない身に出来るわけないでしょ」
「そうか では、これから、わしが案内しよう。ついてくるがいい。」
そういうと私は、いつか知らず、ひなびた田舎道にぽつんと立っていた。
目の先には同じくひなびた草堂が、「向陽山卜雲寺」と寺号が読めた。
「お前は前世、ここの、修道僧じゃったのじゃよ。」
すると、ふーっと、意識がなくなり、気が付けば、夜となっていた。
私は、いつしか、僧形に身をやつし、ひたすら工夫を凝らして、悟りを求めているのだった。
すると、どこからともなく、澄んだ声で
和歌を朗唱する声が切れ切れに漂ってくるのだった。
必死に耳を凝らすと、それはこんな歌だった。
「初秋に、風吹き結ぶ荻の堂、
宿、仮の世の夢ぞ、覚めける」
私ははっとして、思わず悟るところがあった。
座禅を中止すると、その声を求めて、暗闇の中を走り出していた。
竹林を抜けて、暫く行くと、
大きなもみじの木があり、その根元からその声が、途切れ途切れに、、、、
「初秋に、風吹き結ぶ荻の堂、
宿、仮の世の夢ぞ、覚めける」
私は憑かれたようにその根元を掘り始めた。
するとでてきたのは、一つの髑髏だった。
それはカタカタと悲しそうに、
その歌をつぶやいているのだった。
私は、不思議と恐れもなく涙が滂沱と湧き出してくるのを抑えることが出来なかった。
再び埋め戻し、寺へと帰ると、
早速その歌を短冊に書き記して、
仏前に供えたのだった。
すると突然、私は、自宅の薄汚い部屋に戻っているのだった。
「どうじゃ、何か悟ることは、あったかな。」
道士が目の前にいた。
「無常迅速、仮の世は、仮の世ながらさりながら、、、、そういうことではないのかな」
道士はそういうとふっと私の目の前から消えていた。
わたしはいわれない郷愁と悔恨で滂沱の涙を
ただただ、、
流し続けるしかなかったのだった。