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第四十一話 再会 ※エミリア視点

 

 夕暮れの光が王城の廊下に差し込んでいた。

 ワインレッドの絨毯に反射してか、光は血のように不気味な色になっている。

 ウェスターと出逢えたことでエミリアはご機嫌だった。


(これでもうわたくしの勝利は確定♪ すべて解決だわぁ)


 不安がなくなったことで肌は徐々に艶を取り戻し、食欲も増してきている。

 あとは自分の商会を盛り立てていくだけ。

 それでさえ、宰相が味方であれば簡単に軌道に乗るだろう。


「ふふ。あとは顔が良くて都合の良い夫を探すだけ……あら」


 前方、廊下の影に立っている男がいた。

 立ち止まると、その男はエミリアの前まで近づいてくる。


「エミリア……」


 落ちくぼんだ眼窩、目の下にはっきりと刻まれた隈。

 かつて惹かれた顔貌はどこにもなく、肌は血鬼(ヴァンパイア)のように血の気がない。

 王国からの追放が決定した全裸王子、リチャード・ヒューズ。


「殿下。お久しぶりでございますわ」

「あぁ……そうだな」


 にこりと微笑みながらエミリアの頭は高速で思考している。


(なんで殿下がここに? 軟禁されているはずでは? 兵士はどこ? それに……) 


 ──静かすぎる。


「エミリア」


 ハッ、とエミリアが顔を上げると、リチャード王子は言った。


「もう一度、僕とやり直すつもりはないか。僕に対するすべての暴言を撤回し、君自身も悔い改めるというなら……君を許してやってもいい」

「ごめんあそばせ。ありえませんわ」


 エミリアは即答する。

 自分の栄光が確約されている状態で追放確定の王子とよりを戻すメリットはない。


「あなたに利用価値はありません。どこぞの国でお幸せになってくださいませ」

「……そうか」

「もう行きますわね」

「あぁ」


 エミリアはリチャードの暗い声に緊張を覚えながら隣を通り過ぎた。

 もしも手を出されたら反撃を、と思っていたが、意外にも彼は何もしない。

 ただ通り過ぎたあと、こう言った。


「後悔するぞ」

「それなら既に。一度でもあなたと唇を合わせた自分を後悔していますわ」

「……」


 エミリアはそそくさとその場を通り過ぎ、リチャードが見えなくなる廊下まで歩いた。後ろから追ってきていないことを確認して、ふぅ。と息をつく。

 なぜ彼が今、ここにいたのか。

 疑問は残るが、さっさと帰って浴場に入りたいのがエミリアの気持ちだった。


 だから王城の出口に向かおうと足を向けて──



「エミリア」



 その声に、エミリアはピタリと足を止める。

 愕然と目を見開く彼女の唇がわなわなと震えた。


(嘘。ありえない)


 だって、そうだ。

 彼女は死んだのだ。暗殺者に殺されて死んだのだ。

 兵士に引き渡された死体が燃やされる様を、自分は確かに見ている。


「……」


 ぎぎぎ、と音が出るほど緩慢な動きでエミリアは振り返る。


「久しぶりね。エミリア」

「ぁ」


 血色の光を受けてなお燦然ときらめく、銀髪の髪。

 夜色のドレスは体型の整った彼女のスタイルを際立たせており、瞳には知的な光がある。


「アイリ……?」


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